東大英語では、一番最初に要約がある。
この要約問題は、多くの人が対策に苦戦する。
英語は読むことができても、要約をどのように書けばよいのかわからないといった人が多いのだ。
このように、東大英語は単純に英語を読むだけではなく、英語を読むことができた上で、文章を論理的に読解できないといけないのである。
それでは、2022年度の東大英語要約問題はどうだっただろう。
実は、この問題は多くの人が難しいと感じだようだ。
予備校の解答速報でも難化したとしているところが多い。
しかし、論理的に普段文章を見ていると、この問題はさほど難しく感じず、むしろ簡単に解くことができるだろう。
今回は、この2022年度東大英語1(A)要約問題を現役東大生が徹底解説する。
この解説を読んで、少しでも東大英語の対策に役立てられると幸いだ。
<解説動画>
要約とは?
2022年度の東大英語要約問題の解説に入る前に、まずは要約とはどのようなものなのか、要約するときはどのようなことを考えてするのかを知っておくことが大切だ。
以下の引用は2021年度の要約を解説した際に示した要約の解き方である。
2021年度の東大英語の要約問題の解説をする前に、まずは要約をするということはどういうことかについて解説していく。
要約の定義とは、情報の優先の順番通りに、論理関係を保存して、文字数の許す限り情報を入れて、まとめたものだ。
情報の優先順位とは、どの情報が筆者が言いたいのか、順番に並べたものだ。
例えば、一番の筆者の主張は優先順位は1位である。
その主張に対する直接的な根拠はこの次に重要であるということがわかる。
その根拠の一つに対する例というのは3番目に重要ということになってくる。
この優先順位を守って要約に情報を入れていくことが重要だ。
また、論理関係とは因果関係、例示、相同、比較などだ。
例えば、因果関係のないところに無理矢理因果関係を入れて要約を書いても、いくら必要な情報がそろっていても減点になる。
このように、文章中の論理関係を保存して、要約に入れていくことが重要である。
この二つの要素が守られているのであれば、文字数の許す限りはできるだけ情報は入れたほうがより良い要約になる。
以上のことを踏まえて、この2021年度の東大英語要約問題を分析していく。
この記事とあわせて、更に2021年度の要約問題の解説なども見ておくと参考になるので、是非参考にしてほしい。
<解説動画>
文章の論理構造
では、2022年度の東大英語要約問題を解説していく。
まずは、文章の論理構造をしっかりと把握することが重要である。
この文章の論理構造は以下のようになっている。
- <第一段落>
食物の恒常的かつ積極的な分配は人間特有の行為である。(第2、5文)=> テーブルマナ-の例(第1文)
反例の否定(第3、4文)- 鳥、犬、ハイエナは子供に対してのみ行う。
- チンパンジーは肉に限って分配するが、野菜はその場で分配せずに食べる。
- <第二段落>
食物の分配は、人間の基礎的な特性の元となっている。(第1文)- 例:家族、共同体、言語、技術、道徳(第1文)
食物への基本的な需要が人間の様々な企て(活動)を突き動かし続けてきた。(第2文)
- 例:狩、採集、農業、運搬、調理(第2、3文)
食料供給が安定化されて初めて文明ができた。(第4文)
(第5文は、次の段落への導入。) - <第三段落>
食物の積極的な分配は始まりに過ぎない。(第1文)
=
食糧の継続的な摂取の必要性によって、人間は食事に栄養摂取以上の複数の意味を付加した。(第4、5文)- 例:食の好み、食を見せびらかしたり、尊敬したり、軽蔑したりする。(第2、3文)
以上が、この文章の論理構造である。
これを見るといいたいことを単純に並べているだけ、リスト化しているだけだということがわかるだろう。
このような構造を読みながら思い描くことができれば、あとは必要な要素を入れて並べるだけで要約ができてしまうので、他の要約よりよっぽど簡単なのだ。
それでは、各段落順番に解説していく。
まず、第一段落では主張は一つだけである。
それは、第2、5文「食物の恒常的かつ積極的な分配は人間特有の行為である。」という部分である。
第1文ではそれを示唆するようなテーブルマナーの例が書かれている。
少しわかりにくい具体例をもっていき、読者を主張へと読み進めさせるための導入の一文だ。
そして、(第3、4文) では、その反例を一応示すが、それぞれをしっかりと否定する。
最後に再び主張を繰り返して、段落を終えるという基本的な構造をしている。
第二段落には、それぞれ2つの主張が存在する。
それが、第1文の「食物の分配は、人間の基礎的な特性の元となっている。」という主張と、第4文の「食料供給が安定化されて初めて文明ができた。」という主張である。
第1文の主張のあとにいくつかその例が同じ文に説明されている。
また、2つ目の主張にあたる、第4文には、文明と食について書かれているが、これの原因が第2, 3文に書かれており、因果関係があるといえるだろう。
そして、第5文では、次の段落につながるような導入がある。
第三段落では、最終的に第1文で、「食物の積極的な分配は始まりに過ぎない。」といっている。
これは、少し抽象的な表現でその後に読者を読み進めさせるための導入である。
その後、第2、3文に食の分配が食事に次は何を与えたのかについての例がいくつか記される。
そして、最後に、第1文のより具体的な主張である、「食糧の継続的な摂取の必要性によって、人間は食事に栄養摂取以上の複数の意味を付加した。」という内容が、でてきて、第三段落の言いたいことが明確になるのである。
論理構造から優先度を考える
それでは、論理構造をもとに、それぞれの優先度を考えていきたい。
ただ、前の章でも少し触れたが、この論理構造を見ると、優先度を考えるのは、いたって簡単である。
この文章では、各段落の最も優先度の高い主張は第一段落に1つ、第二段落に2つ、第三段落に1つの計4つである。
なので、この4つの要素の間で重要度を考えていきたい。
しかし、これら4つの要素に優先度の差異はあるだろうか?
どれが欠けても、話がうまくまとまらない上に、なにか一つだけで主張を成り立たせるのも無理がある。
このような場合、筆者は単純に4つの下線部のことが言いたくて、それを並べているだけなのだ。
話題が難しそうで、一見読みづらく優先度が全く見えてこない文章は、意外とこのように並列に主張が並んでいるだけな場合が多い。
このような文章は論理構造自体は複雑ではないので、本試験というよりもどちらかというと東大模試などで出題されやすい傾向にある。
しかし、今回このような文章が出たということは、難しくみえる文章ほど以外とシンプルな論理構造であるということを念頭においておいたほうが良さそうだ。
要約を作る
それでは、要約の作成に入っていく。
とはいっても、この文章は先程から繰り返し述べている通り、下線部4つの要素を並べているだけに過ぎない。
なので、よりシンプルに論理構造をまとめると以下のようになる。
- <第一段落>
食物の恒常的かつ積極的な分配は人間特有の行為である。 - <第二段落>
食物の分配は、人間の基礎的な特性の元となっている。(第1文)
食物への基本的な需要が人間の様々な企て(活動)を突き動かし続けてきた。(第2文)
食料供給が安定化されて初めて文明ができた。(第4文)
- <第三段落>
食糧の継続的な摂取の必要性によって、人間は食事に栄養摂取以上の複数の意味を付加した。(第4、5文)
ここから、要約を作るには、この4つの要素を横に並べてしまえばいい。
ただ、これでは、45文字もオーバしてしまうので、さらにコンパクトにするために、食、食物、食糧などの繰り返しを避けると以下のようになる。
分配の前についている形容詞は、字数削減のためにあまり重要でないと判断し、削減した。
さらに、「食糧の供給」とは「食物の分配」の発展型に当たるもので、ほぼイコールであると判断し、これを代名詞で置き換えた。
また、「食糧の継続的な摂取の必要性」も簡単にすると「食事の必要性」ということなので、 こちらもの代名詞で置き換えた。
また、「人間は」という主語も受動態にしてしまえば必要がなくなる。
このように主語を差し替えて字数を削った。
このようにしてまとめると、かなりシンプルな要約に仕上がるのだ。
各予備校の解答について
2022年度の要約問題自体を解説した上で、改めて、各予備校の答案について解説する。
毎年、河合、駿台、東進、代ゼミの予備校4社が解答速報を出している。
しかし、これらの答案は決して満点を取ることができる答案とは言えないのだ。
そこで、各予備校の答案を見て、先ほど説明したことができているかどうかしっかりと検証していきたい。
河合
河合の2022年度要約問題の答案は以下のようになっている。
食物を分かち合う行為が人間の特質の根底にあり、食料確保の必要性が人類の諸活動を突き動かしてきた。また、食は不可欠なものなので、人は食に様々な意味を与えてきた。(79 字)
出典:https://kaisoku.kawai-juku.ac.jp/nyushi/honshi/22/t01-11a.pdf
まず、第一段落の内容である「食物の恒常的かつ積極的な分配は人間特有の行為である。」という部分は要約に欲しいところではある。
「特質」という言葉は独特な性質という意味であるので、ここで補っているのかもしれないが、意味が若干異なってしまう。
「食料供給が安定化されて初めて文明ができた。」という部分に関しては、「人類の諸活動を突き動かしてきた。」とここでは原因を書いてしまっている。
しかし、食が人類の諸活動を突き動かした結果、食糧供給が安定化されて、初めて文明が起こったと書いてあるので、文明の誕生についての言及の方が優先度が高い。
最後の部分については、問題はない。
方向性は悪くないのだが、少々書くべきところが多々抜けてしまっているというのが残念である。
これから紹介するが、4つの中では一番点がこない解答であるといえよう。
駿台
駿台の2022年度要約問題の答案は以下のようになっている。
人間特有の行為である食物の分配は人間の社会的特徴と結びつき、食の安定供給により文明が生まれた。生存に不可欠だからこそ人間は食に様々な意味を付与してきた。(76字)
今年度の駿台の答案は、基本的に満点答案である。
先ほど説明した4つの要素がしっかりと入っている。
さらに、それらは単純に並列に並べられているだけである。
強いていうのであれば、字数が4文字も余っているので、例えば、「人間は食にそれ自身以上の様々な意味を与えた。」などと英文の “more than itself” の部分も要約に入れられるとよかっただろう。
しかし、全体的に自然に4つの要素がまとまっており大変良い答案だ。
この4つの中で見ると、一番良い答案だといえる。
東大を志望している高校生や受験生の皆さんは是非、この答案を参考にして、目指して欲しい。
東進
東進の2022年度要約問題の答案は以下のようになっている。
〔例1〕
食べ物を積極的に分け合うことが人間の特徴で、文明は食糧供給が確実になって生まれる。食べ続けなければならないことがまさに食べ物が栄養以上の意味を持つ理由となる。
〔例2〕
食物を経常的に分かち合うのは人間だけであり、それは共同体や文明と密接に関わる。食物は常時必要なものであるだけに、人間はそれに栄養摂取以上の意味を与えようとする。
出典:http://27.110.35.148/univsrch/ex/data/2022/0l/e01/e0l221101k0.html
まずは、解答例1について述べる。
この解答も2つ目の要素である、「食物の分配は、人間の基礎的な特性の元となっている。」という部分への言及がない。
それ以外の部分は完璧に抑えられているだけに、惜しい答案だ。
もう少し、一つ一つの要素を簡略化させてこれをいれられるとよい。
解答例2については、2つ目の要素がない上に、さらに3つ目の要素が文章の内容と異なってしまっている。
文章では、食事と文明がどのように関係があったのかしっかりと言及されているのにも関わらず、「密接に関わる。」だけで終わってしまっている。
このように、文章に書いていないことを書いたり、同じ意味にならないように変換してしまうと点にならない可能性がある。
文章の言葉と違う言葉を使う際、同じ意味になるように換言できているかしっかりと吟味が必要である。
代ゼミ
代ゼミの2022年度要約問題の答案は以下のようになっている。
食べ物を継続的に分け合うことは、人間固有の資質であり、人間の全ての営みと文明の基礎でもある。そしてそれは栄養摂取という本来の目的を超えた意味を持つようになった。(80字)
出典:https://sokuho.yozemi.ac.jp/sokuho/k_mondaitokaitou/1/kaitou/kaitou/1341778_5342.html
これも悪くない答案であるが、1~3つ目の要素が少し混ざってしまっている印象がある。
まず、1つ目の要素を長く書き過ぎてしまっている。
我々や駿台の様に、文全体の主語として短くまとめるのが良いだろう。
また、2つ目の要素が欠けてしまっている、もしくは1つ目と混ざってしまっている。
“many basic human charateristics”につながったということを明言したいところだ。
また、4つ目の要素の一部である「食の必要性」についての言及がない。
4つの要素はもう少し丁寧に並べたいところである。
以上、予備校4社のそれぞれの答案をご紹介した。
それぞれを比べると、駿台 > 代ゼミ = 東進 例〔1〕> 東進 例〔2〕> 河合 というふうになる。
皆さんも駿台のような答案を目指せるとよいだろう。
簡単だが、難しく見えるがために差がついた問題
今回の2022年度東大英語要約問題は、繰り返し述べている通り、構造はかなりシンプルなものであり、要約を書くのは簡単だ。
しかし、予備校の総評(河合、駿台、代ゼミ、東進)のうち駿台と東進はやや難、もしくは難と答えている。
その他の予備校も標準としており、けっして簡単な問題ではないというのが予備校の見解だ。
この問題を試験で目にした人で、最初に構造の単純性に着目できなかった人は、かなり面食らったのではないだろうか?
ほかにも、今年は、1bや英作文の話題が少し難しいものに設定されていたりと、確実に試験全体を通して難化したことは間違いない。
実際に、自分の教え子たちの成績開示を見ても、合格者、不合格者両方含めて、普段より10~15点ほど落ちている人とそうでない人との差が顕著であった。
これは、普段からいかに文章の論理構造に注目して読んでいるかの差異だろう。
東大は、他の科目でも一見難しそうに見えて、実はものすごく簡単であるという問題が特に数学などに多い。
なので、日頃からの考え方、問題の取り組み方で大きな差が生まれるように試験ができているのだ。
この要約問題の場合であれば普段からいかに文章を論理的に読んでいるかに左右される。
数学であれば、いかに数学的思考を普段からしているかということにかかってくるだろう。
なので、ただひたすら勉強するというマインドではなく、勉強するときに常に正しい論理的思考ができているかどうか考えながら普段の勉強の臨むとよいだろう。
まとめ
以上が、2022年度東大英語1(A)要約問題の現役東大生による解説である。
今回の問題は一見難しく見える問題だが、実は構造はシンプルで要約するのはかなり簡単であった。
来年以降東大を受験しようと考えている人は、このような問題が本番にでても動揺して、決してパフォーマンスが落ちないように対策すべきだ。
そのために英文を論理的に読むということの大切さをこの記事を読んで実感していただければ幸いだ。
また、他の年度の解説も合わせて読んでおくと勉強になる。
以下のurlには、このサイト内の他年度の要約問題の解説が載っているので合わせて見て参考にしてほしい。