日本の文系の大学の中で最高峰の難易度を誇ると言われているのが東京大学である。
その中で、数学は一般的に難しいといわれており、文系といえども数学をしっかりと勉強しなければ合格は難しくなる。
それでは、2022年度の文系数学はどうだっただろうか?
中には、難しいと感じたり、思ったように点数が取れなかったという人もいるかもしれない。
確かに、昨年度、つまり2021年度の問題よりは難しくなったというのは否定できない。
だが、今回の問題は、問題を丁寧に読解していくと、さほど難しくない問題も含まれており、例年通りの合格点を取ることは決して難しくない。
ここでは、現役東大生による2022年度の東大数学(文系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめを発表する。
この記事を読んで、来年以降に東大の受験を考えている人は、最終的にどの程度の問題を得点しなければいけないのか把握しておこう。
全体の総評
まずは、2022年度の東大数学(文系)の全体の総評を行う。
今年度の文系数学の問題は2021年度に比べて難化したといえるだろう。
ただ、その前年度の2020年度よりは、今回の4問セットの方がまだ易しいといえるだろう。
よって、文系の中でも、少し難しい問題ではあるが、震え上がるほど難易度が高いというわけではない。
標準的な問題が2問は必ずあるので、そこは取りたいところである。
以下に各問題の出題分野と難易度を示す。
問題 | 分野 | 難易度 |
第一問 | 二次関数・図形と方程式 | 標準 |
第二問 | 微分法 | 標準 |
第三問 | 数列・整数 | やや難 |
第四問 | 確率・ベクトル | やや難 |
第一問と第二問は標準的な問題である。
第一問は、自分で文字設定を行わなければならなかったり、問題文がややこしかったりと、理解しずらい部分もあると思う。
よって、やや難よりの標準ではある。
しかし、この二問で取らなければ他に取るところがない。
東大志望者であれば、この二問は落としたくはない。
第三問と第四問については、(1)だけであればまだ得点できるかもしれない。
特に第三問の(1)は典型問題なので、必ず得点できないといけない。
以上のように、しっかりと勉強した人であれば、今回も半分の40点以上はしっかりと得点できるような問題のセットになっている。
難しいところに、時間をかけずに、とるべきところから解くことができるかどうかが試された問題である。
第一問(分野:二次関数・図形と方程式 難易度:標準)
今回の第一問は、東大の文系数学にありがちな、図形と方程式の標準問題である。
多少条件が複雑で、なかには難しいと感じた人もいるかもしれないが、文字の依存関係をしっかりと考えることで、容易に解くことができる。
まず(1)においては、問題の指示が、 b を a で表して、 a が全ての実数を取りうるということを証明することだ。
ということは、逆に任意の実数 a について、 a を1つ定めると、それにより b が決まる。
また、この問題、接戦の傾きや接点が定められていないが、これらを定めても、 a によって決まる、もしくはある一定の値になるということだ。
よって、自分で設定した文字の数 + 1 個の式を使って、この問題を解くことができると考えることができる。
例えば、一方の接線を y = mx と定めた場合、もう一方の方程式は y = -x/m となる。
この二式それぞれと元の二次関数の式を連立したときに、重解を持つので、 (判別式) = 0 を用いることで、 a, b, m についての式が2つできる。
これにより、b, m は a を用いて表すことができ、このとき全ての実数 a に対して、実数 x が存在すれば、題意を満たす。
(2)については、(1)が解けてしまえば簡単である。
円の中心と接点との距離が、半径になるので、接点の座標を求めて、中心との距離をそれぞれ計算すればいい。
そして、その二つの距離が 1 : 2 になるという方程式を作って、計算すれば、 a の値は簡単に求めることができる。
今回のように、座標を用いた図形、グラフの問題では、文字を自分で設定しなければいけないと難しいと感じる人もいる。
しかし、設定した文字に対して、実際に、何個の文字を求めなければいけないのかを考えると、同じ数だけ条件式を作る必要があるということがわかる。
この考え方を持っているかいないかで、難しく感じるか、簡単に感じるかが変わってくるだろう。
第二問(分野:微分法 難易度:標準)
こちらの問題も標準的な三次関数の問題である。
ただ、この問題(1)の計算が少し骨がいるところが少し難点になっている。
(1)においては、実際には直線 l は点 P における三次関数の法線になっている。
その方程式を導き、三次関数と連立させたときに、 α 以外に異なる2つの解を持てば良い。
よって、この方程式を (x – α) で割った方程式が、二次方程式となりかつ α 以外の異なる2つの実数解を持てば良い。
先ほども述べたようにこの計算が少し大変なのだが、東大志望の受験生であればミスなくこなしてほしいところだ。
(2)については、予式が β, γ の対称式になっていることを考えて、解と係数の関係を使う。
(3)は、(2)の式を代入すると、 u がただの a についての三次関数となるので、あとは(1)の範囲で微分して、 u の範囲を出せばよい。
(1)の計算が少し躓きやすいポイントとなっているが、それさえクリアーすれば(2), (3)はすんなりと解ける。
落としたくない問題である。
第三問(分野:数列・整数 難易度:やや難)
今回の第三問は数列の整数問題をからめた問題だ。
(1)に関しては、東大で何回も出題されている内容である。
一般的に漸化式によって定められた数列は、ある数で割った時の余りに周期性があることが多いので、まずはn = 1, 2, 3, 4と代入して周期性を探すことが大切だ。
この問題は、東大で過去に何度も出題されている上、一対一対応などの、有名な問題集にもこの類の問題は載っている頻出問題だ。
(1)だけは絶対に解答したい問題である。
(2)は、難しい。
数列の漸化式に代入して、ユークリットの互除法を使うことが思いつけばそこからはすんなり解けるが、よほど整数問題になれている人でないと難しいだろう。
今回の(2)のように、整数問題や確率の問題は数1Aから数3までを含めた全ての分野の中で最も難しい分野だ。
下手に手を出そうとせずに、しっかりと得点できるところから順番に解いてくのが重要である。
第四問(分野:確率・ベクトル 難易度:やや難)
この問題も難しいベクトルを絡めた確率の問題である。
(1)だけであれば解くことができるかもしれないが、(2)がかなり難しい。
この問題で立ち止まりすぎず、しっかりと取れるところから取っていくことが重要だ。
まず、感覚的にベクトル vk というものが何を表しているのかということを知ることが大切だ。
ベクトル vk は、3つ並べることによって、一周して元のいた場所に戻ってくるということがポイントだ。
よって、点 XN が原点に戻ってくるためには、それぞれ、v(3l), v(3l + 1), v(3l + 2) の回数が等しくならなければならない。
このことが感覚的にわかると、(1)だけでもまだ感覚的に解きやすい。
(1)については、ベクトル v(3l), v(3l + 1), v(3l + 2) がそれぞれ2回以上使われるためには、最低でも 6 + 2 回 つまり、8回コインを投げる必要がある。
つまり、ベクトル v(3l), v(3l + 1), v(3l + 2) は0回または1回しか使われないので、それぞれに場合に分けて確率を求めれば良い。
(2)については、どこで裏がでるのかによって、どこで、ベクトルが変わるのかが決まる。
この組み合わせによって、さまざまな場合が出てくる。
最終的に重複組合せを使ってそれを導出するのであるが、状況を整理するだけでもかなり難しい。
(2)は、解けなくとも大丈夫だ。
(1)についても、他の問題がしっかり得点できていれば取れなくても大丈夫だろうが、比較的まだ戦いやすい問題だ。
各予備校の解答について
ここまで各大問の解説を行ってきた。
実は、毎年駿台、河合、東進、代ゼミが解答速報を行うのであるが、これらの解答が問題によっては違う場合がある。
異なる解法を分析していくのは、数学の勉強に非常に役立つことである。
よって、ここでは、駿台、河合、東進に加えて今年は代ゼミの予備校4社の解答速報の比較を行う。
4社の解答速報を見比べて、違う視点を勉強したり、一番妥当な解法はどれか考えてみてほしい
第一問
(1)については、予備校4社ともほとんど同じ解法で問題を解いている。
接線を一つだけ定義して、二次関数と連立させて、 (判別式) = 0 の式を作る。
その式が、接線の傾きについての二次式になっているので、実際に解は二つ存在する。
それらの積が – 1 になれば、二つの接線は直行するので、(判別式) = 0 に対して、解と係数の関係を利用している。
他のもここで先ほど述べた解法など、解法はいくつか存在するので、高校生や受験生の皆さんも是非他の方法を試してみてほしい。
(2)についても、円の中心と接点の距離を求めて、一方が他方の2倍になるという方程式を使って、解いている。
円の中心と接点の距離を求める過程でそれぞれ多少違うことをしているが、本質的な解法は変わらない。
難易度については、河合、東進がやや難とし、駿台、代ゼミが標準とした。
我々も、先ほど申し上げたような文字の依存関係や文字の個数と条件式の個数についてしっかりと考えられるのであれば、さほど難しい問題ではないので、標準とした。
第二問
この問題については、予備校4社とも先ほど説明したような解法で解いている。
他にも三次関数が異なる二つの実数解を持つことは、微分をして、極大値と極小値が異符号になることを用いることも考えられるが、x = α を解に持つことは決まっているので、今回のように因数分解をして、二次関数の議論に落とし込むのが良いだろう。
難易度についても、予備校4社とも標準としている。
(1)の計算さえクリアーすればすんなり解けてしまう点を考慮してここでも標準とした。
第三問
(1)については、予備校4社とも解答に差はない。
漸化式で定義された整数列の余りの周期性を調べて、それを数学的帰納法で証明するというやり方である。
これは、かなり典型的な問題なので、解法にばらつきが出る問題ではない。
(2)については、河合、東進、代ゼミは共にユークリットの互除法を利用して、最大公約数が 1 であることを求めている。
それに対して、駿台は、3以上の素数を約数に持つことを仮定した背理法を使っている。
これは答えが 1 になるということが予想できていないとできない解法である。
漸化式に代入して考えると、確かにこれら3数は互いに素になるのではないのかと予想を立てられなくもないが、思いつきやすいというものではない。
難易度については、河合、駿台、東進がやや難、代ゼミが標準である。
(1)は、解けなければいけないが、(2)が難しい点を考慮して、ここでは、やや難とした。
第四問
この問題も難問であるが、予備校4社とも解答に大きな相違点はない。
(1)は、一度も表が出ない場合と、表が3回でる場合に場合分けをして、答えを求めている。
(2)も全ての予備校が重複組み合わせを使い求める確率を導出している。
特に(2)は、かなり難問なので、実際に試験の場で最後まで解答できた人はかなり少ないだろうと思われる。
難易度に関しては、予備校4社ともそろってやや難としている。
我々も、(1)はまだ得点しやすいが、(2)が難問であることを考えて、やや難とした。
まとめ
以上が、現役東大生による2022年度の東大数学(文系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめだ。
今年の問題は、一見難しく見えるものが多かっただろう。
あまり対策をしていない人は、一見拍子抜けしてしまうだろう。
しかし、いままでしっかり対策をしてきた人は、問題の意図がわかり、特に第一問、第二問は最後まですんなり解けただろう。
このように、東大は見た目は難しそうでも実は単純で本質的な問題が数学に限らず多い。
よって、勉強をいままでしっかりとしてきた人とそうでない人とでかなり差が出るように作られているのだ。
文系といえども、数学は手を抜かずにしっかりと勉強しておくことが重要となるのだ。
この記事で合格するのに、どこまでのレベルが要求されているのかが、把握できたと思う。
本気で東大に合格したい人は、このレベルを目指して、日々勉強に励んでほしい。