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2022年度東大物理解答速報の比較と解説まとめ

東京大学の二次試験の理科は選択した2科目を150分という時間で解答することになる。

1科目にかけられる時間は75分程度となるが、この時間で3題の問題をこなす必要がある。

物理に関して言えば、毎年ある程度難易度の高い問題が出題されており、また近年は問題数も比較的多い傾向にあるため、確実に高得点を取ることを期待するのであれば、過去問などで演習を積んでおくことが大切であろう

東大の物理は確かに簡単な問題ばかりではないが、一方で毎年標準的な問題が一定数出題されており、物理の基礎が身に付いていれば十分に高得点が狙える科目でもある。

この記事では2022年度の東大物理の解説を通じて日々の学習に役立てて欲しい点などを紹介する。

目次

全体の総評

2022年度の物理は、量・難易度ともに例年並みであった。

基本的な事項を押さえていれば得点できる問題が多くある一方で全体の問題数は多く、時間内に目標の得点率の分だけ解答するためにはそれなりの処理速度が必要であったと推測できる

問題数が多いのは間違いないが、問題の状況を正しく理解していると見通しが良い問題が多く、高得点を目指す場合は日頃から問題で起きている現象を高い視点から理解することを意識すると良いだろう。

どの大問も比較的よく見る設定であるが、やさしめの基本問題から応用問題まで出題されており、目標点数に応じて取り組み方も変わるのではないかと思われる。

近年見られがちな単答形式の設問や、誘導付きの問題が多く見られた。

この記事で書かないことと書くことについて

書かないこと

各設問ごとの解答、特に、最終的な答えについては特に言及していないことが多い。

これについては各予備校や過去問題集の解答を参照されたい。

書くこと

通常の問題集にはすでに完成された、きれいな解答は載っているが、解答に至る道筋や、入試という時間制限のある中での現実的な取り組み方については言及されていないことが多いように思われる。

この記事ではこのような点に焦点を当てて解説をしたい

特に、問題を見たときにどのように考えると道筋が見えやすいかについて、筆者なりの視点から説明をしたい。

第1問 力学(回転系、万有引力)

簡単な設定のもと、地球が回転運動をすることにより月から受ける力(潮汐力)を計算しようという問題である。

万有引力のもとで円運動する二物体の運動を解析する問題であり、重心を中心に円運動をしていることがポイントとなる。

解析に必要な道具自体は円運動の運動方程式など、基本的なものばかりであるが、似たような状況の問題に接したことがなかった場合は取り組みづらかったかもしれない。

設問ごとに見ていこう。

第1問I

(1)(2)ともに基本問題である。

遠心力の表式にある距離は回転軸からの距離であることに注意する。

すなわち緯度に応じて遠心力の大きさが変わる。

一方で回転周期(角速度)は地球上のほとんど全ての点で同じである

さもなくば地球はバラバラになってしまう!

ちなみに、例外はどこか分かるだろうか。

答えは北極点と南極点である。

第1問II

問題文に書いている条件をよく見よう。

地球と月の円運動が同一平面上だというのは自然な設定なので、問題を解く上では特に意識をしなくても障害ないと思われる。

気をつけたいのが地球の自転を考慮しないという部分である。
問題で複数回言及されている点であるが、焦って見落とすと問題の難易度が高くなってしまう上に誘導に乗れないということが
考えられる。

短い試験時間の中でも条件はよく見る習慣をつけたい

 

(1)のポイントは二つ。

重心の位置を計算できることと、円運動の運動方程式を立てられることである。

円運動している物体の速さを問われているのだから、円軌道の半径と角速度が分かれば良い。

半径は重心からの距離なので、重心の位置が分かれば半径が分かる。

角速度を知るためには円運動の運動方程式を使えば良い。

このように、求めたい量を計算するためには何が分かれば良いかを整理することで多くの問題は基本的な手続きの繰り返しで解くことができるようになる

ちなみに、今回は円運動の方程式の立て方によっては角速度を計算せずとも速さを求めることができる

 

(2)地球の中心が円運動していることから地球の中心の時間発展はすぐに分かる。

地球の自転を考えないのだから、定数ベクトルを足せば答えが出る

簡単な運動に分解することがポイントである。

 

(3)遠心力は慣性力なので、どの非慣性系から見た力なのかに注意する必要がある。

問題文では少し分かりにくいかもしれないが、ここでは地球の中心が静止するような回転座標から見たときに働く遠心力が問われている。

地球の自転を無視しているので、この座標系はXが静止している座標系でもある

ここまで分かれば遠心力の大きさを解答すれば良い。

機械的に計算したければ、(2)の答えからXの運動も円運動であることを確認して、(2)で求めた座標を2階微分して大きさを
求めても良い。

 

(4)今までの問題から遠心力はどちらの点でも同じ大きさであることが分かる

万有引力の大きさはすぐに計算できるから、二つの力の大小関係から向きに注意して答えれば良い。

第1問III

前問の答えをもとに与えられた数値を代入して計算すれば良い

計算するだけなのだが、上手に近似しないと計算量が多くなり大変である

使う近似自体は物理でよく使うものなのだが、受験問題では近似式として与えられることが多いように思う。

近似の手法を知っておけということなのか、最後の設問まで辿り着ける人にとっては難しい操作ではないだろうということなのか、出題意図は分からないが、最近の傾向として具体的な数値で計算をさせる問題がよく出るということは押さえておくと良いだろう

第2問 電磁気学(電磁誘導)

問題設定はよく見るであろう電磁誘導の問題である。

比較的標準的な設問が多い一方で、起きている状況を掴めていないと解きにくいものもあり、また問題で指示された近似の意味を掴むのも場合によっては難しい大問であった。

設問ごとに見ていこう。

第2問I

問題文の初めに状況の説明や近似の条件が詳細に述べられている。

問題に記載の図を見ながらよく確認しておくことが大切である。

(1)まず磁束の変化量は通過した面積を書けば良いのですぐに分かる。

次の部分であるが、まず問題文に書いてあることに関して少し補足が必要に思われる。

「この間の誘導起電力は〜」という文章の部分は文字通り読むと正しくない

というのも、かかった時間 Δt は近似式だからである。

そもそも平均値というのは、その間中一定値であったとしたときの値なのだから、次の「移動中に誘導起電力が〜」という部分も良い表現ではない。

ここでしている近似は、誘導起電力の平均値ΔΨ/Δt だと思うという部分である。

ともかく、こう思うとジュール熱が簡単に計算できる

電力とジュール熱の違いに注意しよう。

力学だとそれぞれ仕事率と仕事に対応する量である。

ところでここで求めたジュール熱は実は近似せずに求めた量と一致する

この点についてはすぐ次の(2)で詳しく述べる。

 

(2)解法は(少なくとも)二つある。

エネルギー保存則を使う方法と、運動方程式を解く方法である。

作問者の想定は(1)の結果を用いて解く前者であろう。

この解法は特に難しいものではなく、台車が失った運動エネルギーがジュール熱と等しいと考えれば良い。

後者の方法は少し工夫が必要である。

運動方程式を書くことでまず加速度が速度に比例することが分かる

このまま速度を時刻の関数として求めることも(少し高校物理の範囲を超えれば)可能であるが、運動方程式から速度の変化が位置の変化に比例することが分かれば両者の関係を書くことができる。

実はこの解法では近似なしで答えが求まるのである。

片方が近似を使った結果、もう片方が近似を使わない結果であるため答えが一致する保証はないが、今の場合はどちらの解法でも同じ答えを与える。

これは非自明な結果である。va を使う近似は積分を台形で評価することに相当するが、今は運動方程式から速度の変化と位置の変化が比例関係にあるためこの近似が正しい結果を与えるのである。

詳細は各自で検討してみていただきたい。

このようにいろいろとややこしい点があるが、結論としてはどちらの解法を用いても特に問題はない。

予備校が発表している解答速報を見ても解法が二つに分かれているようである。

しかし試験時間にこのあたりまで考察できるかというとなかなか難しいものがあるであろう。

検算として二通りの方法で計算しようとして混乱する可能性もある。

個人的には(1)の段階で、近似して計算したジュール熱が近似せずに求めた結果と一致することに言及されていても良かったように思う

第2問II

設問Iと同じ近似を用いることができると書かれている。

ただしこの注釈は(1)(2)(3)に限ったものである。

この設問IIのポイントは、ダイオードの順方向にのみ電流が流れるという点である。

ダイオードの記号の向きを覚えていなかった場合は焦るだろうが、先の問題を見るなどして意図を掴めば順方向を押し測ることができる

ダイオードについては高校の教科書に登場するものなのでここでは特に記号の意味について言及しなかったのだと思われるが、そのような部分で差が付くのは好ましいことではないであろうし、問題文で説明して欲しかったところである。

教科書に書かれているが問題文で丁寧に説明をしてくれるというようなことは原子分野の出題でよくある事なのだから、ここでもそのような配慮があっても良かったのではないかと感じた。

もっとも筆者が電気回路図に慣れていなさすぎるだけで、よく勉強しているにも関わらずダイオードの向きが分からず焦った受験生などは一人もいなかったのかもしれないが。

(1)Iで述べたように、厳密には流れる電流の大きさは変化する。

Iと同じように「平均の値」を求めよということなのだと思われる。

ところでここで解答として想定されているであろう平均の値(設問I(1)のように va を用いた近似)は(近似の一次で正しいが)正しくないので、あまり親切な設問ではないかもしれない。

試験として解く場合にはこのように深く考えず、空気を読んで与えられた文字を使って解答すれば良い。

その場合は特に難しい設問ではないだろう。ちなみにIIのはじめに「減速した」と書かれているため、台車の初速による場合分けは必要ない。

 

(2)(1)で述べたような微妙な点を除けばよくある問題である。

 

(3)これはダイオードの性質を理解していれば即答でき、答えは 0 である

 

(4)磁場のある区間を通過するごとに減少する運動エネルギーは、その間に発生したジュール熱に等しい

I(1)の結果を参照すると、発生するジュール熱は平均の速さ(と電圧の定数倍との差)に比例することが分かる。

つまり、回数が増えるごとに一回の通過で減少する運動エネルギーは単調に減少する。

したがって、答えは③となる

ちなみにI(2)のときと違って今回は速度の差はすぐには計算できない。

わざわざ(速度ではなく)運動エネルギーのグラフを考察させているのはなぜかということに意識が向くとスムーズに解答できるだろう。

この設問は選択問題なのだから、時間が厳しい場合はもっと雑に解答するのもありである

問題の状況から、一定値に漸近する雰囲気が掴めればその段階で②と④は候補から消すことができるだろう。

①のようだとすると変曲点が存在することになるが、それもまた不自然であるから、直感で③と答えられる人も多いのではないかと思う。

 

(5)電流が流れなくなる(磁場区間への)入射速度を求めれば良い。

ここまで解答出来ている人にとっては難しくない設問だろう。

仮に他の設問で分からない、間違えた部分があっても、この設問自体はII(1)で正しく計算できていれば正答できる

ところでここの設問でも問題文に微妙な表現がある。

今はある速度に漸近するような場合なのだから、「やがて一定の速さ v∞ で運動するようになった」という表現は不正確である。

「やがて」という表現の解釈次第とも言えなくはないが、好ましい表現とは言えないだろう

もちろん、問題を解く上では特に誤解のない表現にはなっていると思われる。

第2問III

回路が少し複雑なので、問題の図をよく見ておきたい。

(1)BとCの電位が同じであることに注意して、Dに対するCの電位と、Bに対するAの電位が同じであることを踏まえてAの方が
電位が高くなることが分かれば良い。

(2)基本的な手続きはI(2)と同じである。

D→C→D、B→A→Bという閉回路で発生する誘導起電力が分かっているため、それぞれの電流ないしジュール熱を計算することができる

回路全体の電流ないしジュール熱がこれらの量の和で書けることが重要な点である。

入りと終わりの速度の差は、I(2)と同様に二通りの方法で計算することができる。

あとは求めた結果が最小となるような抵抗値を考えれば良い

今回の場合は和が一定の時に調和平均が最小となるのはいつかを考えることと同じである。

調和平均と算術平均の関係を知っていればすぐに分かることだし、どうせ一変数の問題に落とせるので律儀に計算しても良い。

どちらの場合でも大した計算量ではない

第3問 熱力学(半透膜がある場合の熱力学)

二種類の粒子があって、片方の粒子のみ通過する膜(半透膜)があるという状況の問題である。

化学を学習している人にとっては馴染みのある状況で比較的解きやすい問題だったかもしれない

全体的に解きやすい設問が多く、今年の問題の中では最も解きやすい設問だったのではないだろうか。

X, Yの二種類の気体があるが、どちらも 1 モルであることに注意したい。

設問ごとに見ていこう。

第3問I

いわゆる気体分子運動論の議論を理解しているかを問う問題である。

気体の種類が増えていることを除いて基本的な問題設定である。

一種類の気体しかない場合については同じ計算を誘導なしでできるようになっておくと良いだろう。

 

(1)単位時間あたりの力積が力であることを念頭に、一回の衝突でピストンが受ける力積に単位時間あたりの衝突回数を乗ずることで注目している分子が及ぼす力を計算できる。

あとは全分子について平均を取れば良い。

十分に希薄な気体を考えているためこのようなステップで計算できることを意識できているとより良い。

この点については以下についても同様である。

 

(2)(1)と同じ計算が領域2の気体Yに対しても行うことができるので、二つの気体からの寄与を足せば良い

 

(3)二つの領域の温度が同じであることに注意して運動エネルギーの平均値を温度を用いた表式に書き換えれば良い

力ではなく圧力を聞かれていることに注意する。

 

(4)3方向全ての寄与を合わせれば良い。

第3問II

もとの状態(平衡状態)に何らかの影響が加わった結果、別の状態に変わったという状況のもとで、物理量の変化の間の関係式を問う設問である。

使える道具として熱力学第一法則と状態方程式の二つがすぐに思いつくようになっておきたい。

慣れているとどちらが設問(1)(2)のどちらにそれぞれ対応するかが分かるようになってくると思われるが、ここではとりあえず二つを書いてみて計算できたものから(1)(2)の設問に解答すれば良いだろう。

 

(1)は熱力学第一法則を使えば良い。

 

(2)は変化前と変化後の状態方程式をそれぞれ書き、温度の部分を(1)の結果を使って簡単にする。

もし(1)より先に状態方程式を書いた場合でも、その段階で温度変化が分かっている必要があることに気づけるだろう。

第3問III

設問Iの状態からの変化であることを見落とさないように注意する。

設問IIとは違った形で状態を変化させている設問である。

おもりを置いたので、圧力がIのまま保たれることが分かる

 

(1)圧力が変わらず変化後の体積が与えられているため、状態方程式を用いれば変化後の温度が分かる。

 

(2)内部エネルギーの変化は(1)の結果からすぐに分かる。

変化の間に気体がした仕事も圧力が一定であることからすぐに計算できる

あとは熱力学第一法則から系が吸収した熱量を求めることができる。

予備校の解答速報の比較

難易度、分量ともに駿台とそれ以外(河合、代ゼミ)とで評価が分かれていた。

駿台は難易度は易化、分量は減少としていた一方で河合と代ゼミは難易度、分量ともに昨年から変化なしとしていた。

第1問

河合は標準、代ゼミはやや難、駿台は3題中で最も難易度高いとしていた。

第2問

河合はやや難、代ゼミと駿台は標準としていた。

第3問

河合はやや易、代ゼミは標準、駿台は3題中で最も難易度低いとしていた。

まとめ

本記事では2022年度の東大物理について見た。

見慣れた設定の問題が多かったという点では昨年や一昨年より取り組みやすくなったと言える

一方で全体の計算量は相変わらず多く、問題の状況を正しく理解していないと解答できない設問も多かったため、難易度としては例年並みであったのではないかと思う。

限られた試験時間の中で長い問題文を読みながら解き進める必要があり、必要に応じて適切な近似のもと解答をする必要があった

うまく近似ができるというのは物理では非常に重要なスキルだが、これは案外慣れの問題である側面も大きいように思う。

そういう意味では、物理の原理を理解することに加えて、問題演習をすることでよくある設定、考え方に慣れておくことが大切ということだろう。

大学の意図は不明だが、筆者としてはどちらも大切なことだと思うので、学習の際はバランス良く取り組んでいただければと思う次第である。

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