東京大学の二次試験の理科は選択した2科目を150分という時間で解答することになる。
1科目にかけられる時間は75分程度となるが、この時間で3題の問題をこなす必要がある。
物理に関して言えば、毎年ある程度難易度の高い問題が出題されており、また近年は問題数も比較的多い傾向にあるため、確実に高得点を取ることを期待するのであれば、過去問などで演習を積んでおくことが大切であろう。
東大の物理は確かに簡単な問題ばかりではないが、一方で毎年標準的な問題が一定数出題されており、物理の基礎が身に付いていれば十分に高得点が狙える科目でもある。
この記事では2021年度の東大物理の解説を通じて日々の学習に役立てて欲しい点などを紹介する。
全体の総評
2021年度の物理は、量・難易度ともに例年並みであった。
基本的な事項を押さえていれば得点できる問題が多くある一方で全体の問題数は多く、時間内に目標の得点率の分だけ解答するためにはそれなりの処理速度が必要であったと推測できる。
問題数が多いのは間違いないが、問題の状況を正しく理解していれば計算を省略できる設問もいくつかあり、高得点を目指す場合は日頃から問題で起きている現象を高い視点から理解することを意識すると良いだろう。
第1問、第2問は比較的よく見られるテーマに関する出題、第3問は初見であろうテーマに関する出題であった。
どの大問も親切な誘導が付いており、受験生の知識によって極端な差が生まれないような配慮がなされていた。
この記事で書かないことと書くことについて
書かないこと
各設問ごとの解答、特に、最終的な答えについては特に言及していないことが多い。
これについては各予備校や過去問題集の解答を参照されたい。
書くこと
通常の問題集にはすでに完成された、きれいな解答は載っているが、解答に至る道筋や、入試という時間制限のある中での現実的な取り組み方については言及されていないことが多いように思われる。
この記事ではこのような点に焦点を当てて解説をしたい。
特に、問題を見たときにどのように考えると道筋が見えやすいかについて、筆者なりの視点から説明をしたい。
第1問 力学(保存則の活用)
振り子運動を軸に問題が作成されているが、振動運動自体は大きなテーマではなく、保存則を使うことに重点が置かれているように思う。
具体的には、エネルギー保存則・運動量保存則・面積速度保存則を正しく適用できるかがポイントの問題である。
第1問I
エネルギー保存則についての基本的な問題である。
問題では丁寧に方針が示されているが、このような誘導がなくてもすぐに解けるようにしておきたい。
位置エネルギーは基準点の取り方による定数分の不定性があることには注意したい。
第1問II
これも基本問題である。
(1)では運動量保存則を使って質点の射出速度を計算する。
特に難しくはないと思われるが、補足をしておく。
注目している系に正味の外力が働いていないとき、系の運動量の値の総和は時間によらず一定となる。
これを運動量保存則と呼ぶのであった。
2物体が衝突するときに物体間に働く力は内力であるから、2物体の運動量の和は衝突の前後で保存される。
運動量はベクトル量(向きを持った量)なので、運動量の保存は成分ごとに検討するべきものなのだった。
今の場合は水平方向の運動量が前後で保存することを用いるわけである。
鉛直方向には糸の重力の合力(= 向心力、ゼロでない!)が働いているため、鉛直方向には同じ議論を適用することはできない。
(2)はいわゆる水平投射の問題である。
水平投射の公式などを覚えておく必要はなく、鉛直方向には自由落下、水平方向には等速直線運動をすることから、水平方向の初速に地面に到達するまでの時間を乗すれば飛行距離が求まるというステップを自分で理解できていれば良い。
具体的な数字での計算が求められているが、あまり難しいものではないので計算ミスに注意したい。
ブランコの長さと地面からの高さから、大体 1 m 程度であろうと検討が付けられるようになっておくと自分の計算結果についての吟味ができる。
具体的な数値を計算結果を代入して結果を検討することは物理学の性質上非常に重要なものである。
受験のような問題を解く上では単純な計算問題であることが多いが、数字に関するおおよその感覚を持っておくと計算ミスに気がつけるなどのメリットもある。
出題意図を知ることはできないが、具体的な数値を用いた計算問題が出題されるということは、日頃の学習で意識をしておいて欲しいというメッセージなのかもしれない。
第1問III
少し設定を複雑にした応用問題と思われる。
しかし、必要な道筋は問題で示されているため、素直に誘導に従えば完答も十分可能であろう。
(1)ではいきなり θ” を求めよと言われてギョッとするかもしれないが、 v’ を用いて良いことを踏まえると I と同じくエネルギー保存則を使うだけの問題である。
近年の東大の問題では誘導が比較的丁寧になされているので、たとえ発展問題であっても各設問に目を向ければこのように基本的な考え方で解答できるものも珍しくない。
難しそうだからといって諦めるのではなく、一旦状況を整理して考える習慣を身に付けておくと良いだろう。
この問題について言えば、本質的に難しいのはブランコの長さが急激に変換する瞬間のみであり、それ以外では単振り子の運動が続いているだけだということに気がつけるかが鍵となるだろう。
(2)以降はその難しい部分を処理させる問題であるわけだが、面積速度が保存することを使えば良いと問題で書いてくれており、
誘導にも乗りやすいのではないかと思う。
(2)は面積速度が保存することを使い、(3)は関数の最大値を求める問題である。
(3)の答えは θ’ = 0 であるが、これは θ’ と -θ’ で立ち上がった結果が同じであること、したがって θ” が θ’ の偶関数となることに気が付けば実は計算をしなくてもいつ最大となるかは分かる。
正確には角度が正の範囲で(2)の答えは単調に変化するだろういうことも考える必要がある。
少しズルをするならば、次の設問で θ’ = 0 のときの運動を考えているのだから、ここの答えももっともらしかろうというような推察も可能である。
もっとも、最大振幅を求める必要があることを踏まえると真面目に計算するしかないのであるが、答えの目処を付けておくとミスを防ぎやすくなることもあるだろう。
解答をするにあたっても、(2)を飛ばして黙って θ’ = 0 だと書いても部分点は期待できないが、理由さえ書いていれば点が与えられると考えられる。
真面目に計算した場合もある程度解の吟味はした方が良いだろう。
ここでは例えば Δl = 0 でもとの振幅と一致するかとか、そもそも振幅は大きくなっているのかなどがすぐにチェックできる点だろう。
(4)(5)は単純な計算問題である。
(5)の計算は少し面倒であるため、時間がない場合は飛ばしても良いかもしれない。
最後に本問のテーマについて簡単に紹介する。
この問題はいわゆるパラメータ共振と呼ばれる運動についての問題であり、一般的な話は大学の力学を学べば理解することができる。
ブランコで立ち漕ぎをするとき、自然と問題のような周期で上下運動をしていた記憶がある人も多いのではないだろうか。
第2問 電磁気学(コンデンサ・振動回路)
単純な電気回路についての問題である。
I および II ではコンデンサについての理解が、III では振動回路についての理解が問われている。
設問ごとに見ていこう。
第2問I
(1)はコンデンサ容量の表式の公式を答えれば良い。
多くの受験生は覚えていると思われるが、ガウスの法則から簡単に求めることができる。
出題意図として公式を導出することを求めているとは思えないが、問われればいつでも導出できるようになっておくことが望ましいだろう。
(2)ではA,Cが短絡されているから単に極板間距離が短くなったと思えば良い。
基本問題であろう。
(3)はエネルギー収支を順に計算すれば良い。
ほとんどの受験生は一度は取り組んだことがある状況だと思われる。
計算ミスなどで失点をすることがないように気をつけたいところである。
符号にも注意する。
第2問II
(1)は電位についての回路の式と電荷保存則を使えば求めることができる。
二つの方程式がいずれも一次方程式であることを踏まえると解は一つに決まるはずである。
ところがよく考えると導線aを外す前の状態がすでに条件を満たしてはいないだろうか。
実際、導線 a を外す前はBDは極板間距離が d/2 のコンデンサとなっているので、B 蓄えられている電荷はI(1)の2倍である。
この設問は穴埋め形式なので答えだけで良いと思われる。
計算をせずに分かるものは計算をせずに済ませられるようになると時間短縮にもなり便利である。
(2)は計算をする必要があるだろうが、簡単な一次方程式を解けば良い。
計算ミスには気をつけたい。
第2問III
コンデンサが二つ、コイルが一つある電気回路の問題である。
孤立している部分があることからコンデンサの間に拘束条件(電荷保存則)があることにさえ注意すれば時間発展が求まるはずだと思うことができる。
より正確には次のような思考のステップを踏むと良い。
まず、コンデンサとコイルのみからなる回路なので回路方程式は書けるはずである。
立てた方程式は微分方程式である。
この時点で解が振動することが見えていると良い。
電荷を変数に取った場合、変数は二つのコンデンサの電荷となる。
回路方程式は一つだからこれでは不十分である。
そこで孤立電荷があることに注目すれば自由度を一つ減らすことができ、解ける方程式となる。
ここまでの議論から決まるのは振動中心と角振動数である。
解を完全に決定するためにはあとは振幅と位相が分かれば良い。
これを決めるのが初期条件である。
長くなったが、ようするに回路の方程式を微分方程式だと思って拘束条件を使って単振動と同じ問題に落とし込んでいるだけである。
手順のまとめとしては、
- 回路方程式を立てる。
- 電荷保存則を方程式に代入する。
- 方程式を整理して単振動の角振動数と振動中心を求める。
- 初期条件から振幅と位相を決める。
というような具合である。
III は設問が多いが、時間発展さえ求まってしまえばほとんど流れで解答することができる。
問題では微分方程式を解かずとも解答に至れるように誘導が付いているのだと思われる。
微分方程式が高校数学の範囲外ではない現状を踏まえると、今後似た問題が出る際は同様の誘導が付くと思われるため、微分方程式を通した理解は必ずしも必要とは限らないであろう。
しかし、今回のような場合は前述のとおり単振動と全く同じようにして解けるため、余裕があれば誘導なしで自力で最後のグラフが描けるようになっておくと良いだろう。
第3問 光学(屈折の法則・作図)
光学の問題である。
題材としては問題にあるとおり2018年のノーベル物理学賞に関連したテーマを取り扱っている。
第1問、第2問とは違い受験問題としてはあまり見慣れない設問が多く、戸惑った人も多いかもしれない。
原子分野の知識が必要に感じるかもしれないが、問題を解く上で必要な事項は全て問題文で明記されているため、原子分野の知識は(形式的には)不要となっている。
しかし本問では光の波としての性質と粒子としての性質を同時に考慮する必要があり、そのような扱いに慣れていないと自信を持って解答することは難しかったかもしれない。
設問ごとに見ていこう。
第3問I
(1)は屈折の法則を使えば良い。
屈折の法則の導出は波の性質を理解する上で良い練習となるので一度で導出を追いかけておくと良いだろう。
(2)は文章をよく読んで与えられた文字がどういう量なのかを理解すれば直ちに解答に至る。
「単位時間あたり」の物理量が定義されることは頻繁にあるため、このような考え方に慣れておくと良いだろう。
(3)問題にある図をよく見て運動量の変化を考えれば良い。
問題にあるように向きだけが変化しているため、図形問題でしかないことに注意する。
運動量はベクトル量であるから、運動量の変化とは向きと大きさの組のことを指す。
この問題は運動量の向きの変化を問う設問である。
(4)運動量と力積の関係を理解していれば(3)から直ちに答えが分かる。
ただし前問では光子の運動量の変化が問われていたが、今は微粒子が受ける力を聞かれていることに注意をする。
(5)では光学でよく見る近似をすれば良い。
特に難しい近似でもないので間違えないように気をつけたい。
第3問II
(1)は I の問題を理解すれば瞬時に解答できる。
(2)も同様である。
(3)は I(4)の結果をもとに考えれば良い。
適当に文字を置いて合力を計算しても良いが、次のように考えるとすぐに分かる。
まず、II(1)との整合性からエはあり得ない。
また、I での考察と II(2) の結果を合わせると、 Δy の符号が変わると合力の向きは変化することが分かる。
したがって、アやウの不適切である。
したがって答えはイと分かる。
Δy の一次に比例することを言うためにはもう少し考える必要があるが、ここではこのくらいの考察で十分であろう。
このように、計算する必要がないところで計算をせずに分かる能力は大切だと思われる。
第3問III
(1)は純粋な図形問題である。
仮にここまでの問題が分からなかったとしてもこの設問は解答することができる。
このようなことはしばしばあるので、それまでの問題が分かったかに関わらず全ての問題に目を通す癖をつけておきたい。
(2)はI(5)と同じことをして合力を計算すれば良い。
正確には少し状況が変わっているので考え直す必要があるが、考え方は同じなのでここまで解けていた場合はそれほど苦労しないであろう。
まとめ
本記事では2021年度の東大物理について見た。
こうして見ると東大といえどほとんどが基本問題、あるいは基本が分かっていれば解ける問題であり、突飛な勉強をしていなくとも十分高得点が狙えるようになっていることが分かる。
しかしながら基本的な考え方というのは案外すぐに身につくものでもないと思われる。
計画的に学習を進めることが重要であろう。
また、試験時間に対する問題の量が多いため、本番を意識した問題演習を積んでおくこともた大切であろう。