高校生、受験生のみなさんはもうすでに行きたい大学や進みたい学部・学科は決まっているだろうか?
行きたい大学のなかから学部や学科を決めるひともいれば、行きたい分野から学部を絞り、自分に合った大学を選択するひともいて、志望校の決め方はさまざまであろう。
文系のひとも理系のひとも、入学してから後悔のないようにさまざまな可能性を探ってじっくり考えてもらえればよいが、今回の記事では建築学科について紹介していく。
筆者は現在、ある大学の建築学科に通う大学4年生である。
そして現在では、あまり詳しくはご紹介できないが、建築材料(コンクリートとか、木材とかの建築に用いられる材料)について勉強している。
そんな現役の建築学生の筆者が建築学科では具体的にどんなことが学べて、さらにはどのような学生生活を送っているのかを正直にご紹介できたらと思うので参考までに読んでいただけたらと思う。
建築学科で学べること。
そもそも「建築」と聞いてみなさんはどのようなことを想像するだろうか。
東京などの都会を構成するビルや、家、学校、図書館などの公共施設を想像するだろう。
その想像は正解で「建築業」とは、ひとびとが日常で使用する、あるいは居住するための空間やモノを造る産業である。
では、「建築学科」と聞いてなにを想像するだろうか。
おそらく建物の外観をデザインする建築家を連想するひとがいちばん多いのではないだろうか。
たしかに、建築のデザインを勉強したり、研究する分野があり、その分野を「意匠・計画系」と呼ぶ。
しかし、実際には建物の外観のデザインのみでは造ることはできない。
建物がどのようにしたら建つのか、建つだけでなく、地震や風に強い建物をたてるためにはどのようにしたらよいのかを考える「構造系」、もうひとつは、ひとが生活を送るのに快適な光、音、空気などの住環境を考える「環境・設備系」の3つの分野によって構成されている。
「意匠・計画系」では、主に建物の外観や内観の設計やデザインを勉強するが、それだけでなく、その周辺の環境やまちの設計の勉強もおこなう。
「構造系」では、建物がどのようにすれば建つのか、どのような力が建物にかかるのかを実験や計算によって考えることをおこなっている。
またそれだけでなく、地震や液状化による被害を考えたり、シミュレーションによって予測することで防災に役立てるための研究や、木材や鉄骨、コンクリートといった建築材料についての研究などもおこなっている。
建築材料については、どのようにしたら強度が大きく、優れた建築材料をつくることができるのか、効率の良い使い方ができるのかを研究したり、コンクリートが固まるときにどのようなメカニズムによって固まっていくのかなど、「構造系」と一括りにはなっているものの幅広い研究がおこなわれているのが特徴である。
「環境・設備系」では、ひとが光や音、温度などの周囲の環境によってどのような影響が出るのか、感じ取るのかなど、自然や人工問わずどのような環境が人間にとって最適かなどの研究をおこなっているのが特徴である。
建築学科の学生生活
では、実際に建築学科の学生はどのような生活を送っているのかを筆者が実際に過ごしてきた大学生活を中心として紹介する。
1年生では教養科目が中心
どの大学、学部においても大学1年生では英語や第2外国語、理系であれば微分積分や線形代数といった数学などの教養科目と呼ばれる基礎的な科目の授業が多い。
建築学科も同様で英語や第2外国語(中国語やドイツ語など)の授業のほか、数学や力学や電磁気などの物理や化学などの理科も学習する。
また建築についての基礎的な知識を養うための授業も受ける。
2年生になると専門科目が増えてくる
2年生になると建築についての授業が増えてくる。
力学も、「構造力学」といかにも建築っぽい授業名になったり、「物理環境工学」といった熱力学などを用いて環境について説明する授業といった専門科目が一気に増加する。
また、建物やまちなどを設計する授業も2年生から始まり(大学によっては1年生からやるところもあるそう)、図面や建築模型をつくって建築家や大学の先生、周りの学生に発表して評価してもらい、デザイン力を磨いていく。
具体的には、住宅や広場など比較的小規模な建築の設計を2年生ではおこなう。
正直なはなしをすると、この授業が結構大変なのである。
設計の授業では、実際に存在する敷地を使って架空の建築物を設計して、図面化し周辺とその建物の模型をつくるのであるが、そのためにまずは課題で課せられた土地を実際に見学しにいき、構想を練るのである。
考えを練っては図面に描き、模型を作り、また考えるという頭も手も動かす作業の組み合わせであるため、作業量が多く、提出期限前になると徹夜で作業するひともいる。
これだけ聞くと辛そうだしで行きたくなくなるひともいるかもしれないが、自分で建物をデザインできるわけだから夢があるし、設計自体はかなり楽しい。
要領よくやれば徹夜せずにおわらせることも十分可能であるから安心してほしい。
2年生まではほとんどの授業が必修(必ず履修しなければならない)であるが3年生の後期から自分で選択できる授業が増えてくる。
それらの授業は先ほど紹介した、「意匠・計画系」、「構造系」、「環境・設備系」の3つの系に基づいた授業であるため2年生の中頃から自分がどのような分野に進みたいかを授業を受けながら考えてみるとよいだろう。
3年生になると分野を選択して授業を受けることができる
3年生の前期は2年生と同じようなカリキュラムでより専門的なことを学ぶ。
設計の授業ではより学校などの大規模な建築の設計をおこなうようになる。
また構造系に関しては耐震工学や材料工学、、環境系では設備工学などといった2年生のときよりも細かいより専門性の高い授業を履修することとなる。
また先ほどもすこし述べたが、3年生の後期からは分野を選択して授業を受けることができる。
構造系に進みたいと考えているひとならば構造系に関連した授業をとっていくが、2つの系のうちどちらにしようか悩んでいるひと、また進みたい系は決まっているがもう一方も興味があるというひとは必ずしもひとつにしぼって授業を選択する必要はない。
4年生になると研究室に配属され、自分の研究が中心に
4年生になると授業自体はほとんどないが、研究室に配属されて、ひとりの先生のもとで自分の研究を進めることになる。
自分の研究は卒業するために提出する卒業論文を書くために行い、研究のテーマは先生と話し合って決める。
また「意匠・計画系」の学生は卒業論文のほかに4年間の集大成である「卒業制作」とよばれる設計をおこなう。
3つの系に分かれない大学もある
先ほどから「建築学科には3つの系があり~」という話を前提にさまざまなことを紹介してきた。
しかし実は3つの系に分かれない大学もある。
例えば、「芸術工学部」の建築学科や、「建築デザイン学科」、芸大などの建築学科は「意匠・計画系」のみの大学もあるそう。
特に「環境・設備系」のコースを設けている大学は少数であるため、「構造系」や「環境・設備系」に少しでも興味あるひとは3つの系がそろっている大学を選択することをオススメする。
自分が気になる大学がそれに該当するかどうかはそれぞれの大学のホームページなどで調べてもらえるとよい。
筆者はなぜ「構造系」を選んだのか
では、3つの系のうち、なぜ筆者は「構造系」を選択したのだろうか。
2つの理由があって、ひとつめは「建築材料に興味をもったから。」もうひとつは「自分にデザインは向いていないと感じたから。」である。
もともとはビルや学校といった大きな建築を設計したいと思って建築学科に入学したが、2年生で鉄骨やコンクリートなどの建築材料についての授業を受けて興味をもったため、構造系に進もうと考えた。
卒業後の進路は?
この章では建築学科の学生はどのような進路に進んでいくのかについて紹介する。
就職
就職先も系によって異なってくる。
たとえば、「意匠・計画系」の学生であれば建築家の設計事務所や組織で設計をおこなっている組織事務所、ゼネコンの設計部やハウスメーカーの設計など、建築物の設計に携わるひとが多い。
「構造系」の学生であれば、大きな建物(ビルや病院)をつくる際におこなう構造計算をする構造事務所やゼネコンの構造設計部、また電力会社やガス会社などのエネルギー関連会社、建設現場で指揮をとる施工監理など、デザインや設計より建物の構造的な設計やインフラストラクチャーに携わる人が多い印象である。
「環境・設備系」の学生は設備系の会社などに就職する学生が多い。
また学部卒業後に就職するひと(大学院に進学しないひと)は必ずしも建築に携わった職種ではない職業に就くひとも多くいるイメージがある。
大学院進学
就職する以外には大学院に進学するという選択もできる。
大学院に進学するためには、4年生の夏ごろにある大学院の入学試験(院試)を受験して合格する必要がある。
また大学院に進学する際、必ずしも自分が通っている大学の大学院に進学しなければならない、というわけではない。
東北大や名大に通っている大学生が東大の大学院に合格すれば、次の年からは東大生として東大に通うことができるのである。
大学院は将来的に専門性の高い職業に就くことや、研究者になることを目的とした機関で大学に比べてより専門性の高い研究や勉強をおこなうことができるのである。
建築士になるには?
建築学科に進むひとで建築士になりたいというひとは当然多いと思う。
では建築学科から建築士になるにはどうしたらよいだろうか?
1級建築士の資格をとるためには、1級建築士の資格を試験に合格して取得しなければならないことということを知っているひとは多いと思うが、だれでも建築士試験を受験できるわけではない。
受験資格を得るためには実務経験を積むことが必要であり、その期間は9年である。
しかし、大学にて指定の科目を履修して条件を満たせば実務経験を最大で2年まで必要な実務経験を免除することができる。
また、免除できる期間に関してはそれぞれの大学が開講している授業によるから気になるひとは調べてもらえればよいと思う。
まとめ
以上、建築学科に通う現役生として、入学したあとどのような生活を送っているのか、またどのようなコースや進路先があるのかなどについて解説した。
少しでも興味をもっていただけただろうか?
コースや授業の内容、履修の制度については若干大学ごとによって違うため、特定の大学の建築学科について知りたいひとはそれぞれで調べていただければ幸いである。