東大の物理には問題の難易度が高く、試験時間が厳しいという2つの大きな壁がある。

東大では150分という試験時間の中で、2科目で合計6題もの大問が出題される。

それぞれの問題で聞かれていることを正しく読み取り、難易度を見極め、解ける問題を正確に、かつ素早く解いていかなければならない。

時間配分を間違えて難しい問題に時間をかけすぎてしまうと、後ろにあった簡単な問題に手をつけられず、得点を伸ばせなかった、という残念な結果に終わってしまうことも十分ありうる。

しかしながら、問題の難易度も高いため、落ち着いて取り組み、物理現象を正確に記述できる力がなければ、高い得点を望むことができないのもまた事実である。

ここでは、2019年度の東大物理について、予備校3社(河合・駿台・代ゼミ)の解答速報を比較し、問題を素早くかつ正確に解いていくためのポイントについて紹介していく。

この記事を読んで2019年度の東大物理についておさえていこう。

全体の総評

2019年度の物理は、問題の難易度が非常に難しいわけではないものの、昨年度に比べると各大問で問題数がやや増加し、落ち着いて取り組むには時間が厳しかった。

また設問の難易度としては、受験生が今までに解いてきた典型的な問題設定が少なく、その場で起きている物理現象について、問題の誘導に乗りながら解析していくという力が広く問われた。

問題文の条件を正しく理解、整理するのが煩雑な問題もあり、全体的にやや難化した。

設問の形式としては、立式に関して穴埋め形式の問題が出題されるという珍しい傾向が見られた。

式を用いて定量的分析について問う問題が増加した分、物理現象のふるまいを予測し、グラフの概形を答える、または記述をするという定性的分析について問う問題はほとんど出題されなかった。

以下に、各大問の出題分野と難易度をまとめた。

問題

分野

難易度

1

 力学

・単振動

・慣性力

やや難

2

 電磁気

・コンデンサー

・交流回路

標準

3

 波動

・幾何光学

標準

第1問 力学(単振動・慣性力)

第1問は例年通り、力学からの出題であった。

問題の設定は、最初の導入文で「台車の上の物体の運動について以下の設問Ⅰ,Ⅱに答えよ」とある通り、大問の前半では台車の上にばねと物体を乗せた状態を考え、後半では台車の上に倒立振子を乗せた場合を考えた。

一見するとⅠとⅡでは問題の設定が全く異なるようにも見えるが、解いていくとそれぞれの対応が見えてくるため、これから受験を控える学生にとっても、じっくり取り組む価値のある良問である。

 

Ⅰは台車の上に固定した慣性系(y座標系)での運動を正確に把握できたかが問われた。

問題の設定としては、演習量によって差のつく分野であり、準備をしてきた受験生にとってはかなり有利な問題であった。

(1)は絶対落とせない等加速度直線運動に関する基本問題。速度-時間グラフが作る図形の面積が距離になるという基本に立ち返り、グラフを書いて求めればミスも防げただろう。

(2)、(3)は慣性系で考えることになるが、この問いでは台車に与えられた加速度が時間によって変化するため、物体にかかる慣性力も経時的に変化する。

そのために慣性系におけるばねのつり合いの位置が変化するということに注意して論述を進めていくことができたかが問われた。

本問のように経時的に状況が変化する設定の問題は過去にも頻出であり、対策しておくことを勧めたい。

なお(3)に関しては、計算だけでなく、問題の状況を適切に図に思い描くことも正答に至るためには必要であったためやや難であった。

しかしながら、(2)と似た状況であることを立式できれば部分点を獲得することも可能である。

正答にまでは至らないまでも泥臭く部分点をかき集めることも東大合格への一歩である。

 

Ⅱの倒立振子は、過去の類題が少ない珍しい問題設定であり、それもあってか、(2)は穴埋めの問題で丁寧な誘導がついていた。

(1)は、以降の議論の導入にあたる易しい問題であった。重力と慣性系を棒に平行と垂直な成分にそれぞれ分解し、近似を用いれば正答にたどり着く。

東大物理は「見たことがない問題設定のときほど誘導が丁寧なために序盤の問題が解きやすい」という特徴がある。

時間がないときでも簡単に解ける可能性が大いにあるので安易に捨てないようにしたい。

(2)はセンター試験のような論述の穴埋めをする形式の問題であり、近年ではややまれな出題形式となった。

誘導が丁寧なため、ア~オは時間に余裕があれば取り組んでおきたい。

i~iiiの穴埋めについては単振動の速度変化という、難易度のやや高い内容が聞かれたのでここでの失点は大きな点差に結び付かないと考えられる。

詳しい配点は不明だが、ⅠとⅡを合わせて配点が20点しかないことを考えると各穴埋めの配点は高々1点か2点であり、深追いして時間を使いすぎては後ろの点の取りやすい問題を逃してしまうことにつながる。

適切な時間配分の中で、分からなったら先に行くという戦略が非常に大切であることが言える。

 

以上から、第1問は慣性力の経時変化という、演習量によって差のつきやすい問題設定であり、計算量は後半に行くにつれ増え、設定された場面を正確に把握する力も求められた。

よって難易度はやや難とした。

本問は力学を正確に理解しているかが問えるとともに、時間配分の練習にもなる良問であった。

これから東大を受験しようと思っている人は、本問のような形式が東大物理では標準的であることを意識して問題演習を積んでいってほしい。

またその際には、基本的ではあるが、力の向き、大きさについて常に意識して問題を解くことが大切である。

このことが、正確に式を立て、解くために重要であることを忘れないでほしい。

第2問 電磁気(コンデンサー、交流)

第2問も例年通り、電磁気からの出題であり、今年度は抵抗を考えたコンデンサーを直列につなげた素子を用いた回路に関する問題が出題された。

電磁気の問題ではコンデンサーの電気容量や、直列・並列のときの合成用量、交流の位相差などについて半ば公式として存在する法則が多く登場するが、本問はそれを知っていた受験生にとってはやや有利になった。

 

大問は、Ⅰで抵抗のある円柱を挟んだコンデンサーについての基本問題が聞かれ、ⅡでコンデンサーをN枚つなげた素子を直流電源、抵抗、交流電源につなぐという設定の問題であった。

Ⅲは、誘電率εと抵抗率ρを求めるためにブリッジ回路という出題の珍しい回路について問われた。

第1問でも述べたように、珍しい設定の問題では最初の方の問題は比較的易しくなる傾向がある。

この問いもその傾向のある問題と言え、部分点を取るために目を通しておくことが重要であった。

 

Ⅰは基本的な暗記事項ともいうべき落とせない問題である。

このあたりの導出などは、「物理のエッセンス」(河合出版)などが詳しいので、基礎の定着が必要な人は読むことをお勧めする。

 

Ⅱは素子Xの正体が抵抗Rと電気容量Cが並列になったものをそれぞれ直列につなげたものであることを考えると、抵抗とコンデンサーの直列回路に関する標準的な問題であった。

(1)はコンデンサーをN個つなげると合成用量は1/N倍されることを知っておけば容易に正答にたどり着けた。

(2)はコンデンサーにたまった静電エネルギーがNに反比例する、ということだけではなく、コンデンサーの合成抵抗の増加によるジュール熱の変化にも着目する必要があったため注意が必要であった。

(3)は交流回路に関する基礎的な問題であり、抵抗とコンデンサーに流れる電流の位相差などをちゃんと理解していることが重要であった。

 

Ⅲは第1問Ⅱ(2)に続いて穴埋め形式であった。

ブリッジ回路という機器なじみのない設定の出題であった。

穴埋めの中には電位差と電流を把握していれば解ける簡単な問題もちらほら見受けられた。

深く考えて完答を目指すよりは、分かるところを拾って解いていくことが大切な問題であった。

 

以上から、第2問は標準的な回路についての基本的~やや応用の知識を問う問題であった。

(3)の問題の一部は式の整理などが煩雑であるが、それ以外は基本的な知識のみで解答にたどり着ける問題も多く、難易度は標準とした。

電磁気、特に、本問の後半で問われた交流回路などは実践的な問題を解く間もなく受験に臨まざるを得なくなってしまう人もいるのではないだろうか。

しかし電磁気はどの単元からも毎年必ず出うる分野なので、きちんと学習、対策をして、まずは基本的な問題を解けるようになろう。

また、今年の問題は様々な公式を知っていると若干有利であった。

しかしながら、例年の東大の物理では基本的な知識のみから論理的に考える力を試されることが多い。

したがって、勉強するときも公式の暗記に傾倒するのではなく、それぞれの式の意味を理解して使えるようになることを目指して勉強に取り組んでほしい。

第3問 波動(幾何光学)

第3問は、昨年までの2年間熱力学が出題されていた傾向から一転して波動分野から出題された。

第3問はおもに波動と熱力学のどちらかが出題される。

毎年どちらも出る可能性があるので、しっかりと勉強しておこう。

また原子物理の分野についても、今後出る可能性は0とは言えないので余裕のある人は勉強しておくことをお勧めしたい。

 

今回の大問では、屈折をテーマに見かけの光源の位置を求める問題が出題された。

屈折の問題は東大の過去問・市販の問題集のいずれでもよく取り上げられているものであり、テーマとしてはとっつきやすかった。

しかし、角度を求めるのに三角比を使うなど、この手の問題に慣れていない受験生は解答に苦労しただろう。

その分差がつく問題と言える。

 

Ⅰではまず(1)~(4)で光源と観察者の位置関係のうちの1つの例について丁寧な誘導付きで関係式を導出し、(5)で同様の導出を別の位置関係の例でも行った。

こうした誘導は、大学の作問者が作ってくれた船のようなもので、素直に乗って正解までたどり着くことができるようにしたい。

 

ⅡはⅠで導出した関係式を用いて媒質の境界が平面になる例を考えた。

(1)は、導出した式をそのまま用いるだけでよい。

(2)は2つの媒質の間に別の媒質を入れるため、見かけの光源の位置を2度設定する必要があり、やや複雑な問題であった。

(3)はⅠで導出したそれぞれの式に値を入れ適切なものを選べばよい。

ただし、時間的に落ち着いて考えることは難しかっただろう。

(4)はレンズの焦点距離の公式に当てはめるだけの、それまでの問題とは独立して解ける問題であった。

東大の物理ではそれまでの流れとは無関係に解ける問題が最後に来ることがある。

途中で分からなくても最後の問題まで注意して目を通すことも重要なテクニックである。

 

今回の問題は、過去問と照らし合わせても形式、分量ともに典型的な出題と言える。
よって難易度は標準だろう。

波動の分野では今回のように文字が多く出てくるのも出題の特徴である。

文字の多さに惑わされず、求めるべきものを計算ミスなく求めるトレーニングを積み重ねていこう。

予備校の解答速報の比較

分量については、問題量、計算量が増加したため、河合がやや増加、駿台が増加、代ゼミが増加としていた。

難易度に関しても、河合がやや難化、駿台と代ゼミは難化と発表した。

しかし、昨年までの問題は東大物理の標準レベルよりも低かったため、例年の分量・セットに戻ったとも見ることができる。

第1問

全体の難易度は河合がやや難、駿台が難、代ゼミがやや難。

3社ともにⅡの穴埋め形式の問題は難易度が高く、計算量も重いため、Ⅰでなるべく正答しておくべきという判断であった。

第2問

]全体の難易度は河合が標準、駿台がやや難、代ゼミがやや難。

ⅠとⅡで点を稼ぐべきという見解が共通して見られた。

交流回路について勉強しておくことが、点を取るための最低条件であったと思われる。

第3問

全体の難易度は河合が標準、駿台が標準、代ゼミがやや難。

Ⅰは取っておきたい問題という見解で一致していた。

Ⅱは、駿台と代ゼミが「丁寧に考える力が要求された」と評価しており、やはり時間内に解ききることは難しかったと思われる。

まとめ

以上が2019年度東大入試物理のポイントのまとめである。

この記事から、今年の物理は昨年度より難化し、物理の問題を解くことになれているだけでなく、戦略的に解く問題を選ぶ力も問われた内容だったことが分かる。

日頃の学習では時間をかけて問題にじっくり取り組むことが大切であるが、試験では解ける問題を優先して解いていく、という力も身につけてほしい。

これから東大を目指す人、物理の学習を進める人たちにはぜひこうした実践的な演習を積んでもらいたい。