東大の理科は4科目から2科目を選ぶ形式だが、化学はもっとも多くの人が受験する科目である。

しかし理科2科目を合計150分で解かねばならない、という時間的に厳しい制約があり、多くの受験生にとって、落ち着いて取り組む時間的猶予はほとんどないだろう。

そのため受験生は自分が受けるもう1つの科目と相談しながら、問題の難易度を見極め、時間配分を決めて効率よく問題を解いていくことが必要である。

ここでは、2019年度の東大化学の予備校3社(河合・駿台・代ゼミ)の解答速報を比較し、効率よく問題を解いていくポイントやこれからの勉強をしていく人にとってのコツを解説のまとめとして述べていく。

この記事を読んで2019年度の東大化学についておさえていこう。

全体の総評

まず設問の形式としては、3年連続で第1問が有機化学、第2問が理論・無機化学、第3問が理論化学となった。(2016年度までは伝統的に理論→無機・理論→有機の順であった)

この理由としては、あくまで想像だが、解答欄の大きさが第3問は第1,2問の約2倍の大きさになることが関係していると思われる。

このことから、多くの計算が必要な理論化学の分野において計算過程を解答に残してほしい、という大学からのメッセージともとることができる。

計算問題において計算過程も解答に入れるという訓練もこれから勉強を進めていく人は行うと良いだろう。

また、第1問は昨年に引き続き小問ⅠとⅡに分かれることなく、1つにまとまって出題されたが、問題の流れは問ア~カと問キ~ケで2つに分けられた。

第2問、第3問は大問内でⅠとⅡに問題が分かれていた。

また、問題のテーマも複雑なものはなく、どれも対策をしてきた受験生には手を付けやすかったであろう。

その分差のつきやすい問題構成であり、良問揃いだった。

全設問数としては32題となり、昨年の29題よりは増えたがほぼ例年通り(35題前後)の分量だった。

一方難易度としては例年よりは若干簡単で、昨年と比較して難易度は変化なしといえる。

以下に、各大問の出題分野と難易度を記す。

小問

出題分野

難易度

1

有機(フェノール)

標準

2

無機・理論(リン・燃料電池)

やや易

無機・理論(金属の精製・分離)

やや易~標準

3

理論化学(酸化還元滴定)

標準

理論化学(結晶格子)

標準

第1問 有機化学(難易度:標準)

今年の有機化学は、前半がフェノールを出発点とした医薬品中間体化合物の合成、後半が、フェノール樹脂の合成の問題であった。

必要とされる知識は教科書レベルのものも多く、有機に関する基礎知識が広くあることが得点のための最低条件として挙げられる。

有機化合物の合成に関する問題は、東大やその他の難関国公立大学では頻出の問題である。

また、問エの異性体の個数を問う問題や問カ・ケの論述なども、過去問研究をしっかりと行っていた受験生にとってはなじみのある出題であった。

難易度としては、各問題が例年の東大入試で頻繁に問われていること、および問題の分量も、例年通りにすべてを処理するのには時間が厳しくなる程度に多かったということをふまえて標準とした。

有機化学は、学校の授業の進度によっては、問題演習を積むことが難しいという人もいるかもしれない。

とはいえ、このタイプの問題は典型的で頻出の問題も多く、演習を繰り返し行うことで、得点が見込める分野である。

ぜひとも東大を目指す理系受験生は、有機化学の対策に時間をしっかりとるべきである。

また、実戦形式で過去問を解いた後は解ききれなかった問題を時間を気にせずに解きなおしてみることも良い勉強になるだろう。

ここ最近の有機の問題に典型的な出題が多いことをふまえると、過去問から1つでも多くのことを吸収しようという姿勢が合格への近道になると言えるからだ。

第2問 理論・無機化学(難易度 I:やや易 II:やや易〜標準)

第2問のⅠは無機化学で重要な元素のひとつ、リンを題材に、化合物とリン酸を使用した燃料電池に関する出題であった。

基礎的な知識と計算力があれば手を付けられる難易度であり難易度はやや易とした。

イでは十酸化四リンの構造式を記せ、というヒント付きの珍しい問題が出題された、やや応用力が試された。

エ、オも典型的な計算問題であり、対処はしやすかった。

Ⅱも無機化学の典型的な重要事項である金属化合物の分離・電解精錬に関する問いであった。

こちらも無機化学に関する知識を使うことができれば正答に至りやすいものが多かったが、東大の入試ということもあり手順を

追うのがやや複雑であった。

従って難易度はやや易~標準とした。

カ~ケは金属の精錬に関する基礎から応用的な知識を問う良問であった。

コ・サの計算問題も決して難しいとは言えないが、時間と相談して手をつけなかった受験生も多くいたと思われる。

無機化学の分野は、覚える反応式、元素の性質がやや多くて煩雑だが、一度正確に覚えてしまえば、そのまま問題を解くことができるお得な分野である。

今年も教科書的な知識で解ける問題がⅠにもⅡにも見られた。

こうした基本的な知識をつけたうえで、さらに化学で点を取りたいということであれば計算問題の対策にも手を付けていこう。

計算問題は最初こそ時間がかかったり、計算ミスも多いかもしれない。

しかし、問題集や過去問の典型的な問題で演習を積み重ねれば、正確性も解く速度も上げることができる。

計算問題を得意にできれば、ほかの受験生に有意に差をつけることができるようになるのでぜひ頑張ってほしい。

第3問 理論化学(難易度 I:標準 II:標準)

第3問の理論化学もⅠとⅡに分かれていた。

Ⅰは典型的な酸化還元滴定の問題だった。

チオ硫酸ナトリウムとヨウ素を用いた標準的な問題であり、計算も複雑なものは出題されなかった。

難易度も例年に近いものであり標準とした。

序盤で反応式が書けなければ計算問題を解くこともできないので、基礎力の試される問題であった。

オの記述は以下にも東大らしい記述で、実際に実験をするときに誤差を減らす工夫について考えさせている。

化学が実験の上で役に立つ学問であること、実験には誤差が付きまとうということは理系大学生になれば誰しも自覚させられることであるが、それについて対処する力があるかを見ている良問である。

Ⅱは結晶格子に関する問題であり、こちらも基礎的な力が問われるセットになった。

記号が様々に登場して混乱しやすいが、落ち着いて追っていけば無理なく解けるように作られている。

難易度は標準とした。

カ~ケは結晶格子についての標準的な問題でありぜひとも取っておきたい。

コ・シの計算問題は、結晶格子の問題で引っ掛かりがちな原子同士の接触などを立体的に把握する力を見る典型的な問題であった。

このあたりは演習量や得意・不得意に差が出やすい問題であり、合否を分ける問題とも言えるだろう。

東大入試の理論化学は先述したとおり数年前までは第1問に配置されていた。

これは数年前に東大受験をした筆者の私見であるが、当時の第1問の問題は今年や昨年の問題よりも立式や計算そのものが大変な問題が多かったと感じる。

東大の化学は解ききれない、と思う所以は第1問の理論化学にあると感じ、受験でもほとんど時間をかけずに解けるところだけを拾った。

しかし、近年第3問に移ったあたりから計算量も少し減ってきており、時間内に落ち着いて考えられる問題が増えてきたように感じる。

理論化学は時間がかかるということはいまだに事実であるが、簡単な問題も出題されるようになってきており、対策に時間をかけた分だけ得点につながりやすくなってきているといえる。

過去問の計算問題が解けるようになれば、きっと十分な計算能力がつくはずなので、頑張って勉強をしてほしい。

 各予備校の解答速報の比較

分量については河合塾がやや増加、駿台と代ゼミは増加とした。

難易度については河合塾・代ゼミは昨年並み、駿台は昨年度比で難化したと発表した。

河合塾は例年と比較してもまだやさしいと評価した。

駿台と代ゼミはそれぞれ『オーソドックスな問題構成』、『学習量が得点に反映される』との旨の分析を行っていた。

第1問

各予備校が発表した難易度は河合・代ゼミが標準、駿台がやや難であった。

駿台は「実験操作の読み取りが難しかった」と評価し、これによりやや難としたと思われる。

駿台では問ケの論述が難しかったと評価した。

第2問

各予備校が発表した難易度は、河合はⅠ,Ⅱともやや易、駿台はⅠ,Ⅱとも標準、代ゼミはⅠがやや易、Ⅱが標準であった。

どの予備校でもイの構造式を書かせる問題は目新しいとしたものの、平易な出題であるという評価であった。

第3問

各予備校が発表した難易度は、河合はⅠ,Ⅱともに標準、駿台はⅠがやや難、Ⅱが標準、代ゼミはⅠ,Ⅱとも標準であった。
駿台は問エの計算・オの論述が難しかったと評価した。

まとめ

以上が2019年度の東大化学の解説である。

今年度の問題は典型的な問題が非常に多く出題され、しっかり対策してきた受験生が点を稼ぐことのできるセットであった。

このようなありふれた問題を解けるようになることこそ、化学の力がついた証拠であり、こうした力のある学生を東京大学は求めている。

基本的な問題で知識を定着させ、応用問題で訓練をすることが東大合格への近道と言えるのだ。

このことを踏まえて、これから受験を予定している人は、基本事項をしっかりとおさえつ、問題の演習を繰り返し行ってもらいたい。