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2019年度東大世界史解答速報の比較と解説まとめ

東京大学の入試において,二次試験の社会科目の比重はかなり重い。

二科目合わせて120点というのは国語や英語の配点に匹敵するし,一科目だけをとっても数学と20点しか変わらない。

英語や数学で満点近く取って社会の失点をカバーしてしまう猛者も

まれにいるが,普通の東大受験生なら社会をおろそかにするなど到底考えられないだろう。

そもそも世界史という科目は覚える量が膨大で,なおかつ東大はその知識を独特で長大な出題形式で問うてくる。

こうなってくると,今高校1年生の読者の方たちはこれから世界史をどう勉強すればよいかわからず,高校2年生の読者の方たちは東大二次の対策をどう進めればよいかわからないといった感じで途方に暮れていることだろう。

本記事では,そんなこれから東大受験に挑戦する高校1・2年生の皆さんに向けて,最新の2019年入試の問題を概観した上で,東大二次の世界史を対策するにあたり心掛けるべきことやコツなどを詳細に解説していこう。

さらにインターネット上で見られる数ある大手予備校の模範解答を比較・評価し,皆さんが取り組んだ時にどれを参考にすればよいのかを議論していく。

目次

全体の総評

東大二次の世界史は形式が非常に独特だ。

独特ではあるが,もう何十年も同じ形式を守ってきているため,特化した対策は立てやすいし必須でもある。

例年第1問は600字前後の大論述,第2問は60字程度の小論述が何問か並び,第3問は基本的に一問一答で時折30字以下の短い記述が出る。

2019年度の東大世界史は従来通り3つの大問からなり,第1問は22行660字の大論述,第2問は60字から90字までの小中論述で,第3問は11問の一問一答であった。

後述するように第1問は,ここ最近の上限であった20行600字を突破して22行660字というヘビーさであったが,一方で第2問では4行以上の論述がなく,第3問では近年よく見られた1行論述がない一問一答のみの出題形式だったため,総合的に見れば例年と変わらない分量であった。

第1問が持っている知識をひけらかせばよいというわけではなく,問題文をよく分析した上で答案の論旨構造を練る必要がある問題であったため,第2問と第3問を早めに処理した上で第1問にじっくり取り組むのが理想的だったと言えよう。

昨年比較の難易度評価は河合塾が変化なし,駿台予備学校と代々木ゼミナールが易化であった。

各大問の解説

それではそれぞれの問題の解説・考察をしていこう。

第1問 18世紀半ばから20世紀初頭までのオスマン帝国の解体過程 やや難

近年の第1問は最大20行600字までの上限の中で多少変動していたが,今年ついにその上限を突破,22行660字の論述を課してきた。

過去問に取り組んできた今年の受験生は,ちょっとした新傾向に驚いたのではないだろうか。

このような長大な論述にトライする際は,答案を書く前のメモ書きが重要になってくる。

その下書きで,まず問題から得られる情報を抽出し,次に自分が持ち合わせた知識を羅列し,最後にそれらの要素を論理構造に注意しながら繋げていくという作業をしなければならない。

それでは今年の第1問の中身を見ていこう。

出題内容としてはオスマン帝国の解体過程がテーマとなっており,論述の見通しは比較的立てやすかったのではないかと思われる。

しかしオスマン帝国を含めたイスラーム圏の歴史はやや整理がしにくく,人によっては苦手なイメージを持っていることもあるだろう。

それでも第1問の20~30点と思われる配点を,苦手なテーマが出たからとごっそり失うのはあまりにも厳しい。

やはりどんな内容が来ても一定以上のクオリティで書けるよう,複雑なところや周辺地域史であってもしっかり勉強しておかなければならないという当たり前の事実を再確認させられる。

他に今年の第1問の印象として,問題文(導入文)の情報量が多く,これを無視した答案を書いて大幅な減点を食らった受験生が相当いそうだと感じた。

まず,冒頭から7行にわたる導入文では,冷戦後のイスラーム圏における混乱について大まかに述べられている。

そして問題文の最初に,「以上のこと(導入文)を踏まえ」と但し書きがされている。

この但し書きがかなりの曲者である。もちろん解答の軸はオスマン帝国の解体過程であり,字数制限の大部分を割いて冷戦後の混乱について書くというのはあり得ない。

しかし出題者が導入文でかなり力を入れて論じている以上,完全に無視していいのかというとそういうわけでもなさそうだ。

理想としてはオスマン帝国の解体過程について説明しつつ,その中でも現代史に影響している要素については軽く話を膨らませるというやり方が考えられる。

さらに問題の条件として,「帝国内の民族運動や帝国の維持を目指す動きに注目しつつ」とあるので,論述の論理構造は時系列で出来事を追いつつ,帝国解体に向けた活動と帝国維持に向けた活動の二項対立を採ればよいとわかる。

また指定語句については,あまり解釈に苦しむようなものは見られず,答案の中での使い方のブレというのは考えにくい。

唯一,日露戦争という別地域の出来事を,青年トルコ革命と関連させることができるかどうかが差のつく点だったと思われる。

ただし,指定語句のそれぞれについて起こった事を説明するだけでは絶対に点にならない。

その起こった事が,帝国解体あるいは帝国維持というトピックスにおいてどのような意義を持っていたのかという部分まで必ず記述しなければならない。

以上のように,東大二次の世界史はただ持っている知識をひたすらひけらかせば点に繋がるというわけでは決してないのだ。

大事なのはとにかく問題文に沿って,出題者の意図を汲んだ答案を作成することである。

ただ世界史の知識を人並みに持っている受験生と,東大二次の世界史で高得点を取れる受験生の間の差は,問題文に忠実に従って論述できるかどうかにかかっている。

これらの論述答案の作成プロセスは一朝一夕で身に着けられるものではなく,遅くとも高校3年生の夏頃から,典型問題を網羅した論述問題集や過去問などに取り組むことで少しずつ慣れていく必要がある。

最後に今年の第1問を評価すると,テーマが好き嫌いの分かれる地域・時代であったことと,問題文に留意しなければならない条件がいくつか見られたことから,標準~やや難しめで非常に差のつく良問であったと言えよう。

第2問 各国間の境界線を巡る対立 やや難

第2問は各国間の境界線について,今日の領土争いへの影響という面も含めて考察させる問題であった。

内容としてはやはり教科書レベルの知識であり,東大二次の世界史を対策する上で最も重宝するべきバイブルはやはり教科書なのだとつくづく実感する。

問(2)は多くの受験生がおろそかにしがちな周辺地域史が題材であり,そもそも地図で示された地域が南洋諸島であることを正確に読み取れるかどうかで相当な差がついたと思われる。

問(3)は個人的に非常に東大らしいと感じた問題である。

世界史上の出来事と現代の国際情勢への影響を絡めて論述する形式は,東大が頻繁に出題してくるものであるため注意が必要だ。

まさにここ数年,日本政府は韓国・中国・ロシアといった国々と国境を巡って一進一退の論戦を交わしており,日頃からニュースに目を向けている人ならば多少なりともその背景にある歴史的事実を調べようとしているはずだ。

さすがに天下の東大が,日韓や日中の国境争いに関して受験生に論じさせるのは政治色が強すぎるということで直接は取り上げられなかったのだろう。

しかしそれでも近隣の中国と韓国の対立を考えさせるということに,東大の思惑が見え隠れしているような気がしてならない。

これらをまとめると,第2問は問(2)と問(3)が差のつく問題であり,みんな解けて当然ではないという意味でやや難しめであったと言えるのではないだろうか。

第3問 歴史上のヒト・モノ・情報の伝播 標準

地域間の関係性を題材とした,つまり世界史をヨコから見るような問題は東大二次の世界史で頻出である。

その中でもヒト・モノ・情報の地域間の移動については過去の問題で散々扱われてきており,真新しさはない。

問われた世界史用語に関しても教科書レベルからの逸脱は見られず,確実に得点しておきたい問題だ。

各予備校の解答速報について

ここまで2019年度の東大世界史について,大問ごとに詳しく解説してきた。

ここでさらに,駿台予備校・河合塾・東進ハイスクール・代々木ゼミナールの四大予備校の模範解答と分析速報を,中立的な視点から比較・解説していきたいと思う。

是非とも一つの模範解答に固執せず,複数を参考にしてそれぞれの良い部分を取り入れることを忘れないで欲しい。

第1問

第1問については,筆者個人としては河合塾の模範解答を強くオススメしたい。

文章の論理構造や指定語句の使い方といった部分において,各予備校の違いというのはほとんど見られない。

だが決定的に違うのは,問題文の最初にある「以上のこと(導入文)を踏まえ」という但し書きを意識しているかどうかという点である。

これをちゃんと意識していれば,オスマン帝国末期の出来事が冷戦後の各国間および民族間の対立に対してどのように影響したのかという考察を盛り込まないわけにはいかないであろう。

その点において,河合塾の模範解答は唯一,セーヴル条約による分割統治が現代のパレスチナ問題やシリア内戦などの諸問題に根付く元凶となったことに触れており,問題文に忠実な答案であると言える。

また代々木ゼミナールの模範解答も,イギリスの二重外交などを通して直接的ではないが同様の議論を展開している。

一方で駿台予備学校と東進ハイスクールの答案は,オスマン帝国末期に起こった出来事を淡々と述べることに終始しており,出題者の意図を忠実に守っているかどうか疑問が残る。

現代が抱える課題とリンクさせて史実を考えさせるような,ある意味時事問題ともとれる内容を頻繁に出してくる東大二次の世界史。世界史の知識に加えて,日頃から国内外のニュースに興味を持ち,その出来事の背景まで探ろうという姿勢を持っているかどうかを,真正面から問うてきているのだ。

各予備校の難易度評価は標準~やや難であった。

第2問

問(1)と問(2)bは,誰が書いてもそうなるだろうという答案でどの予備校も落ち着いていた。

受験生の間でも差のつかない問題だったのではないだろうか。

問(2)aは,河合塾と代々木ゼミナールの答案のように地図上の該当箇所がどこだと判断したのかを明記した方が採点者に対して親切だろう。

問(3)aは指定の時代が7世紀までであるため,唐と結んだ新羅による半島統一まで触れるべきであり,その点で代々木ゼミナールの模範解答は不十分であると考えられる。

問(3)bの解答におけるキーワードは冊封であり,これを書き洩らしている代々木ゼミナールの模範解答はありえないと言わざるを得ない。それ以外の3予備校はあまり違いのない答案である。

各予備校の難易度評価は標準であった。

第3問

第3問は一問一答であり,模範解答は駿台予備学校・河合塾・東進ハイスクール・代々木ゼミナールの4予備校で食い違うことがなかったので,解説は割愛する。

難易度評価は標準であり,(10)が最難であったという意見が多かった。。

まとめ

以上、現役東大生による2018年度の東大世界史の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめだ。

最後に,ここまでの本年度の問題の考察を踏まえて,東大受験を志す高校1・2年生にこれから身に着けて欲しい力と,そのためにやるべきことをおさらいしておこう。

①インプット面
教科書レベルの知識を教科書に忠実に説明できる力
→ 遅くとも高校3年生の夏の終わりまでに,山川などの教科書を読み込む。

②アウトプット面
問題文から問われていることや留意すべきことを読み取り,それに正確に従いながら論理的に記述できる力
→ 遅くとも高校3年生の秋の初めから,典型問題を網羅した論述問題集や東大の過去問などを通して論述の実戦演習を行う。

また論述答案の作成に関しては,素人が独学でやろうとしても的外れなやり方が身に着いてしまうだけであるので,やはり専門家の教えを乞うのが必要不可欠になってくる。

理想を言えば,自分である程度採点できるようになるまでは,学校や予備校の先生に頻繁に答案を見てもらうのが一番である。

東大世界史での一般的な目標点は,他の科目との兼ね合いにもよるが,大体35点前後であると言われる。

世界史を得点源にしたい人ならば,40点オーバーは必要不可欠だろう。

それぞれの目標点をもぎ取るために,日ごろから学習に励んでいって欲しい。

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