東大の世界史は形式が独特だ。
第1問は600字前後の大論述,第2問は60字程度の小論述が何問か並び,第3問は基本的に一問一答で時折30字以下の短い記述が出るというように,毎年同じような出題形式を守っている。
このバラエティーに富んだ3つの形式に対しては,それぞれに合った対策をしっかり講じなければならない。
出題形式は伝統を守っている一方で,出題内容は様々だ。
もちろん他の大学でもよく問われるイスラーム文化や三角貿易,宗教史などは東大でも狙われやすい。
だが東大の世界史は,一般的な頻出ネタに限らず,多岐にわたる分野からあっと言わせるような問題をぶつけてくることがしばしばである。
例えば2010年の第1問はオランダ史に的を絞った大論述であり,2014年の第1問はロシアの対外情勢について取り上げていた。
そしてなんといっても,一番最近の2016年の第1問はまさかの現代史からの出題であった。
そんな何を出してきてもおかしくない東大の世界史,2017年は果たしてどのような問題だったのだろうか。
本記事では,来年以降東大文系を受験する人たちに向けて,2017年の問題を現役東大生の視点から解説していきたいと思う。
また参考に,駿台予備校・河合塾・東進ハイスクールの三大予備校の解答解説を比較し,まとめていくので,是非ともこれからの東大世界史対策に役立てて欲しい。
全体としての総評
2017年度の東大日本史は,従来通り3つの大問からなり,第1問は20行600字の大論述,第2問は30字から90字までの小中論述からなり,第3問は10問の一問一答とこれも例年と変わらない形式であった。
しかしその内容を見ると,2017年度はなんと第1問の大論述で古代のみをテーマに指定してきた。
この手の問題は最近の東大世界史では全く見られず,新傾向であると言えるだろう。
だが、東大世界史は,2016年度の第1問で現代史を出題して度肝を抜いたばかりなので,今回新傾向をぶつけてきたのもさほど驚くことではない。
また古代ローマと古代中国は比較的取っ付きやすい範囲なので,書きにくいということは決してないだろう。
第2問は周辺地域に関する知識を問う問題が多く,やや差のつきやすいものであったが,第3問は至って平易な一問一答であり,全体的には例年と変わらない難易度であったと言える。
総じて地域や時代の偏りがなく,広範囲で深い知識が求められる問題であった。
そのため知識量の差がそのまま直接得点の差に繋がりやすかったのではないかと思われる。
第1問(分野:古代ローマと古代中国の帝国支配 難易度:標準)
第1問は例年通り20行600字の大論述。
しかしながら今年の東大世界史は爆弾を仕掛けてきた。
なんと約40年ぶりに,出題範囲を古代に絞ってきたのである。
第1問に限って言えば,最近では2001年のエジプト史の問題でアクティウムの海戦が指定語句としてちらっと出てきたものの,それからかれこれ16年の間,古代についてはほとんど触れられてさえいない。
そのため2017年の東大受験生は,多くの人が古代史の大論述の演習などせずに入試に臨んだのではないだろうか。
しかしこの問題に限って言えば,記述するべき内容は教科書範囲内の至って平易なものなので,東大受験生ならばしっかり太刀打ちできなければならない。
まず指定語句を用いて要点を整理し,それに関連する知識を盛り込んでいくという定石通りの方法で十分対処できよう。
本問は古代中国と古代ローマの2地域それぞれの社会変化について聞いているので,前半は古代中国について,後半は古代ローマについてときっぱり分けて記述するのがやりやすい方法だろう。
指定語句に関しては使いにくい語句がいくつか見られた。
特に「第一人者」という語句からオクタウィアヌスを連想するところは差がつく要素だったのではないかと思われる。
また「漢字」という語句を中国の集権的支配の象徴として捉えられるかどうかも大きなカギであった。
以上のように,指定語句を全て的確に使用し,横(地域)と縦(時代)をわかりやすく整理して書けるかどうかが,第1問において重要なポイントであったと言える。
最近は2016年の現代史,2017年の古代史と変化球が続いているので,今後もどの分野が出題されるかわからないという前提のもとで,満遍なく学習を進めていかなければならない。
第2問(分野:各時代・各地域の少数派集団 難易度:やや難)
第2問は3行記述が1問,2行記述が4問,1行記述が1問,一問一答が2問であった。
この問題数・分量は例年とほとんど変わっていない。
大問を通じた題材として,少数派集団と多数派集団の関係が取り上げられた。
このようなテーマだと大抵の場合,欧米などの主要な地域から離れたところにフォーカスすることになるため,幅広く詳細な知識が必要となる。
本問の場合も,ポーランド・シンガポール・カナダとなかなか重箱の隅を突くようなネタが出題された。
特にポーランドには多くの外的勢力に代わる代わる支配されてきた歴史があるので,是非とも一国の歴史として縦を整理して把握することをオススメする。
以上を踏まえて,世界史の合格ラインを確保するためには,問(2)(a)や問(3)(b)を確実に記述し,残りの問題で4分の3程度は書き切ることが必要になってくる。
教科書と一問一答を細かくしつこく読み込んで,知識を定着させることの重要性を,改めて感じさせる問題であった。
第3問 (分野:歴史上の様々な戦争 難易度:やや易)
第3問は従来通り一問一答形式の問題が並び,記述形式は1問もなかった。
小問10問からなり,回答は11個とこれも従来通りである。
参考までに,各問題の正答である語句の頻出度を,東進ブックス「世界史B 一問一答」を参照して載せておこう。
頻出度は3段階であり,数字が大きいほど頻出の語句である。
- 問(1) シャープール1世: 3
- 問(2) ウマイヤ朝 :3 / メロウィング朝 :3
- 問(3) グスタフ=アドルフ :3
- 問(4) トラファルガーの海戦:3
- 問(5) 李鴻章 :3
- 問(6) サン=ステファノ条約:3
- 問(7) ファショダ事件 :3
- 問(8) ベトナム独立同盟会 :3
- 問(9) 部分的核実験禁止条約(問題文): 2
- 問(10) グロティウス :3
このように,問(9)の部分的核実験禁止条約を除くと,見事に頻出度3ばかりであった。
ここで失点するのは痛すぎると言えよう。
しかしながら似たような位置づけの用語を混同して,どっちだっけ……となることはありがちなパターンなので,そうならないようにあらかじめ混同しやすい用語を整理して覚えておくことが大切である。
またいくら東大受験生といえども,ド忘れはなかなか防げないものである。
たとえ第3問でどうしても思い出せないところがあっても,そこはたかが1,2点だ,記述で取り返せば大丈夫と割り切って引きずらないべきである。
各予備校の解答速報について
ここまで2017年度の東大世界史について,大問ごとに詳しく解説してきた。
ここでさらに,駿台予備校・河合塾・東進ハイスクールの三大予備校の解答と分析速報を,中立的な視点から比較・解説していきたいと思う。
是非とも一つの模範解答に固執せず,複数を参考にしてそれぞれの良い部分を取り入れることを忘れないで欲しい。
第1問について
第1問については,駿台・河合・東進の3予備校とも,古代ローマの記述と古代中国の記述にきっぱり分ける構成で変わりなかった。
しかし東進の模範解答の例1のように,先に古代中国後に古代ローマの順で記述するのは,問題文の順序にそぐわないので避けた方が良い。
このことがどの程度採点に影響するかはわからないが,こういったことを守っておいた方が安全である。
指定語句の使い方についても,駿台・河合・東進の3予備校ともほぼ変わりがなかった。
特に「漢字」という指定語句は,どの予備校も中国の統一的支配を支える重要なファクターとして盛り込んでおり,ここを書けたか否かが大きく差のつくところだったと考えられる。
さらに駿台・河合のように,古代中国の「漢字」と対比した古代ローマの「ラテン語」にも言及できるとなお良い。
また駿台の講評で述べられている,
どのような『社会的変化』が政治にいかなる影響を及ぼし,政治体制の変化の原因となったか?という因果関係に留意しながら論旨を展開することが求められている
という注意点は,本問の論述を書く上で非常に大切なことである。
東大世界史の論述を書くときには,問題文に忠実に即して,何を問われているかを常に意識しなければならない。
難易度評価はやや難であった。
第2問について
問(1)(a)については,西側への穀物輸出について触れている駿台・東進がより良いと考えられる。
(b)については,問題文の「それはどのような人々であるか」という問いに対して冒頭で端的に答えている駿台が,書き方としては一番参考にしやすいだろう。
問(2)(a)については,監督しつつ自治を認めるという支配方法が述べられていれば問題ないだろう。
この内容は多くの大学で頻出であり,東大もその例外ではない。
(b)については,マレーシア連邦の設立のくだりを省いてしまった東進がやや見劣りしている。
問(3)(a)については,フランスの入植・フレンチ=インディアン戦争・パリ条約の3項目を詰め込めば大丈夫だ。
アメリカの開拓史も東大世界史ではよく狙われるポイントなのでしっかり整理しておきたい。
(b)については,市民権・投票権の制限には是非触れておきたいので,東進の模範解答はやや不足である。
難易度評価は標準であった。
第3問について
第3問は一問一答であり,模範解答は駿台・河合・東進の3予備校で食い違うことがなかったので,解説は割愛する。
難易度評価はやや易であった。
まとめ
以上が2017年度東大世界史の解説と各予備校の解答速報の比較である。
東大世界史の問題形式は独特だが,毎年変わらないために対策はしやすいと言える。
そのためにも過去問の演習は自信がつくまで何回もこなそう。
また来年以降東大世界史を受験する諸君には,どんな分野を問われてもしっかり答えられるよう,教科書の隅々まで読み尽くすことを何よりも優先して欲しい。
特に周辺地域史や文化史,現代史など,勉強を後回しにしがちで定着もしにくい分野は,早め早めに徹底して頭に叩き込むべきである。
東大世界史での一般的な目標点は,他の科目との兼ね合いにもよるが,大体35点前後であると言われる。世界史を得点源にしたい人ならば,40点オーバーは必要不可欠だ。
それぞれの目標点をもぎ取るために,日ごろから学習に励んでいって欲しい。