東大理系受験生にとって一番選択する人が多いのが化学である。
しかしながら、化学は受験生の中では決して楽な科目ではなく、多くの受験生が苦しむ。
その原因は、東大の化学が、例年分量が多く、理科2科目150分というシビアな制限時間の中ですべての問題に手を付けるということは、ほぼ不可能であるということにある。
そのため受験生は自分が受けるもう1つの科目と相談しながら、時間配分を決めて効率よくやっていくことが必要である。
ここでは、2017年度の東大化学の予備校3社(河合・駿台・東進)の解答速報を比較し、効率よく問題を解いていくポイントを解説のまとめとして述べていく。
この記事を読んで2017年度の東大化学についておさえていこう。
また、以下の記事では、東大化学の過去問演習方法も解説しているので合わせて見ておいてほしい。
全体の総評
まず設問の形式として最も大きく変わったのは、例年第3問であった有機化学が第1問に移動し、理論が第3問に移ったことである。
また、第1問になった有機では、長年続いていた、大問内でⅠとⅡに問題が独立して、2つの事柄が問われるということがなくなり、1つにまとまって、問題数が減った。
また、難易度もかなりやさしくなり、基本的な化学式、反応式をしっかり理解してきた受験生にとっては非常に点の取りやすい問題が多かった。
全体として難易度は易化した。
以下に、各大問の出題分野と難易度を記す。
問題 | 小問 | 出題分野 | 難易度 |
第1問 | 有機化学 | 易 | |
第2問 | Ⅰ | 無機・理論化学(陽イオン) | やや易 |
Ⅱ | 無機・理論化学(窒素) | やや易 | |
第3問 | Ⅰ | 理論化学(鉛蓄電池) | やや易 |
Ⅱ | 理論化学(気体の分圧) | やや易 |
第1問 有機化学
今年の有機化学は、まず燃焼物質の質量測定による有機化合物の分子式の決定を行った。
次に構造式の類推、高分子化合物の基本事項を問う、といった有機化学の学習の初期にやるような範囲から簡単な問題が出題された。
これは、近年ではまれにみるほどの簡単な問題ばかりであり、受験生であればなるべく点を落としたくはないところである。
難易度は易。
この程度のレベルの問題は必ず演習などでやっておけば解けるようになるので、これから受験をする予定の人は今回の問題は基本レベルと思って、よりレベルの高い有機化学の問題演習を積んでほしい。
第2問 理論・無機化学
第2問は例年通り、無機化学に絡めた理論化学との融合問題が2題出題された。
分量はほぼ例年通りであり、計算問題が少ないことから、難易度はやや易。
それぞれを見ていこう。
Ⅰ.陽イオンの系統分離
Ⅰの前半はまず、銀イオン、バリウムイオン、銅イオンについての基本的な知識が問われた。
実験の手順を間違えたという体で書かれているので、普段の陽イオンの系統分離の問題とは違う手順も含まれるかもしれないが、各イオンの性質をしっかりとおさえてあれば大きな問題はないだろう。
オ.の溶解度積の問題も、標準的な問題であったので、時間に余裕のある受験生は取り組んでおくと、他の受験生と差をつけられるチャンスの問題だった。
陽イオンの性質については、東大化学で毎年何らかの形で聞かれるので、整理して覚えておくことが必要である。
覚え方のコツとしては、周期表の違い元素同士の相違点、類似点に着目すると知識が系統だって覚えることができるのでお勧めしておく。
Ⅱ窒素酸化物
空気中の窒素酸化物について注目し、窒素について無機化学のあらゆる範囲の知識が問われた。
特に、キ、クで問われている硝酸に関する反応式は、有名であるが、差がつく反応式であるため、しっかりとおさえておいて、差をつけられないようにしたい。
こうした範囲の問題についてはどれほど知識が整理されて暗記しているかが問われるので、事前の準備をしっかりと行ってきた受験生にとってはこのあたりの問題は軽くとれただろう。
この範囲も、落とすと差をつけられてしまう分野なので、無機化学の暗記は正確に行っていくことを常に心がけよう。
特に非重金属イオンは、様々な酸化数をとりうるので、酸化数の違いがどのような化合物の違いにつながるかを理解しておくことが大切である。
第3問 理論化学
第3問は例年第1問で出題されていた理論化学が出題された。
ここでは大問が2つの問いに分かれるという形式は受け継がれている。
しかしながら、設問の総数は減少していて、計算の量も少なくなっているので、難易度はやや易。
Ⅰ.鉛蓄電池
イの問題は高校の定期試験レベルの問題。
これは絶対に落とせない。
ウの物質量計算も反応式が書ければ、あとは状態方程式を用いれば解ける。
この程度の計算をミスなく確実にこなすことができるようになるとライバルに差もつけやすくなる。
Ⅱ. ハーバー・ボッシュ法による生成アンモニア分圧
気体同士の反応における各気体の分圧を計算する問題が出題された。
エ、オは反応速度に関する基本的な事項なのでミスなく答えたい。
カの問題も、気体反応についての演習を積んでおけば比較的簡単に解くことができる。
キの問題は、気体の圧平衡定数についての説明が問題に付してあるので、これは比較的解きやすかった。
これまでの東大の理論化学の問題は、試験中に時間を十分にかけられず、それを見越して過去問演習も中途半端になりがちである。
しかし、2017年度の問題をはじめとして、解きやすい問題も含まれているので、必ず基本をしっかり押さえて理論化学の演習をしておくことが大切である。
各予備校の解答速報の比較
分量、難易度については各予備校のいずれも、分量は減少、難易度は易化したと発表した。
駿台は、第2問の無機化学の範囲が多岐にわたったと判断し、「幅広い学習が要求される」、とはしたものの、各予備校とも「基本的な問題が多かった」、との見解は一致していた。
河合と東進が、「この難易度が来年度も続くとは限らない。」というほどに今年の難易度は例年になく取り組みやすく簡単だったといえる。
第1問
各予備校が発表した難易度は河合が易、駿台と東進がやや易であった。
問アのbにあてはまる化合物名を答えよ、という問いは駿台、東進は「化合物名」とあるため、水酸化ナトリウムを答えとしていたが、河合は「実験に実際に使われる物質」としてソーダ石灰を解答としていた。
問題文の意図をくみ取れば化合物名が正解となるかもしれないが、どちらの解答にせよ、化合物の構造決定の原理が分かっているので正解となると思われる。
第2問
各予備校が発表した難易度は、Ⅰ,Ⅱともに河合はやや易、駿台と東進が標準としていた。
駿台の解答速報でも触れられていたように、この問題は広い範囲の知識が問われたので、標準的な知識は必要であったが、計算の量は少ないので、やはり差がつくセットとなったという印象を受ける。
第3問
各予備校が発表した難易度は、Ⅰ、Ⅱともに河合、東進はやや易、駿台が標準としていた。
この問題も計算量が少ないという各予備校で見解が一致していた。
やはりしっかりと得点できるような計算力があることが大切である。
まとめ
以上が2017年度の東大化学の解説である。
今年度の問題は非常に難易度がやさしく、例年の東大化学の厳しさというものは影を潜めたといえる。
しかしながら、これは今年だけの傾向かもしれないし、今年も例年通りの対策をして臨むことで高得点を期待できる問題が多かった。
このことを踏まえて、これから受験を予定している人は、基本事項の復習と、問題の演習を繰り返し行っていってもらいたい。