日本の大学受験のなかで最難関と言われているのが東大入試である。
その中でも当然数学は難しいとされている。
しかし、その難易度は年によってバラバラである。
さらに、同じ年度の問題でも難易度にはかなり差がある。
ということは、簡単な問題と難しい問題を判別して、得点できるところを確実に取る能力が要求されるのである。
この記事では、2022年度の東大理系数学の総評とともに、各予備校の解答速報を比較して解説していく。
東大志望の高校生、受験生の皆さんは、この記事を読んで、実際どれくらいのレベルの問題を解く必要があるのか把握しておこう。
全体の総評
まずは、2022年度東大数学(理系)全体の総評を行う。
今年度の東大の理系の数学は文系同様に難化したといえる。
しかし、今回は珍しく理系の方が、文系より難化の度合いがまだ易しい。
一応、文系も半分以上は取れるようにはなっているが、簡単な問題がなかったり、標準的な問題が標準問題の中でも難しめの問題である。
今までの東大数学を考えると、標準の難易度より少しだけ簡単な部類である。
各問題の出題分野と難易度は以下のようになっている。
問題 | 分野 | 難易度 |
第一問 | 微分法・積分法 | やや易 |
第二問 | 数列・整数 | やや難 |
第三問 | 図形と方程式・微分法 | 標準 |
第四問 | 微分法・積分法 | 標準 |
第五問 | 積分法 | 標準 |
第六問 | 確率・ベクトル | やや難 |
問題の難易度の構成は、やや易が1問、標準が3問、やや難が2問である。
まず、第一問はかなり簡単でサービス問題なので、絶対に落としてはいけない。
この問題を落とすようであると、合格はかなり怪しいだろう。
さらに、第三問、第四問、第五問の標準問題のうち、いずれか2問の得点は確保したいところだ。
第四問の(2)が標準問題のうちではやや難しめの問題なので、第三問と第五問は取りたいところである。
さらに、第二問の(1)はいままでの過去問の中でたくさん出題されている典型問題である。
なので、難化しているとはいうものの、去年の問題が簡単で合っただけで、今年の問題も意外と得点できるところがある。
まずは、得点できるところでしっかりと得点することが重要である。
第一問(分野:微分法・積分法 難易度:やや易)
この問題は定積分によって定義された関数の最大最小を調べる問題である。
数3の微分積分の基礎的な問題だ。
今年度の6問の中でも簡単な方で、正直この問題を落としていては、合格は難しいだろう。
(1)は、網羅系参考書レベルの問題だ。
積分で定義された関数の微分は、そのままインテグラルを外せば良いだけなので、簡単だ。
(1)で最小値の持つ x の値がわかったので、(2)ではその時の関数値を求めるだけだ。
ここで、定積分を実際に計算しなければいけないのだが、これも網羅系参考書レベルの計算だ。
対数が被積分関数に含まれているときは、それを消すために部分積分を用いるというのが原則である。
今回もこの原則に従い、計算していけば、答えを求めることは難しくない。
このように、少なくとも青チャートやFocus Goldなどの網羅系参考書でしっかりと勉強した人であれば、最終的に答えまで辿り着くのは決して難しくはない問題である。
一度勉強した人間からすると、サービス問題なので、数3まで満遍なく勉強しておくことが大切だ。
第二問(分野:数列・整数 難易度:やや難)
こちらは、数列と整数を絡めた問題であるが、(1)は典型問題であるがゆえに簡単であるが、(2)以降は、難しく、本番で実際に解ける人は少ないだろう。
文系の第三問にも同じような問題が出題されている。
若干数列が単純になっているが、枝問自体が難しくなっているので、難易度は変わらない。
(1)は整数列の余りの周期性を帰納的に示す問題である。
この問題は過去問でも何度も出題されているので、絶対に取りたい問題のうちの一つである。
(2)以降は、あまりみないタイプ問題であるが、(1)から得た規則性を考えてみるのが良いだろう。
(1)によると、a3 = 5 であり、a3m ≡ 0 (mod 5) となっている。(ただし、 m は自然数)
よって、 a3m は a3 の倍数となっていることがわかる。
ここから、an が ak の倍数になるための必要十分条件は n が k の倍数になっていることではないかと予測ができる。
あとは、これを漸化式を使って実験していくわけである。
まず、数列 {an}は増加列であるということを踏まえると、an ≧ ak であるので n ≧ k である。
そして、an ≡ 0 (mod ak) とすると、
a(n + 1) ≡ (an)^2 + 1 ≡ 1 ≡ a1
a(n + 2) ≡ (a1)^2 + 1 ≡ a2
a(n + 3) ≡ (a2)^2 + 1 ≡ a3
…
a(n + k) ≡ {a(k – 1)}^2 + 1 ≡ ak ≡ 0 (mod ak)
このように、akで割った時のあまりを考えた時に、その余りは 0, a1, a2, …. , a(k – 1), ak ≡ 0 という周期性を持つことがわかる。
これと、条件を満たす n の最小値が k であるということを踏まえると、 n は k の倍数でなければ an は ak の倍数でなくなり、 an が ak の倍数であるとき、 n は k の倍数であるということがわかるだろう。
(3)については、(2)と(1)を両方応用させて、さらにユークリットの互除法を使う。
8091 = 4 x 2022 + 3 であることを踏まえると
(a8091)^2 ≡ (a3)^2 ≡ 25 (mod a2022)
となる。
あとは、この数列のすべての項が25の倍数にはならないことを数学的帰納法で証明して、(1)を利用して5が答えとなることが導けるだろう。
ただ、やはり(2)以降は、他にもより簡単な問題があることを踏まえると一生懸命考えて時間を使ってしまうのは勿体無い。
(1)だけはしっかりと解いて、他の問題に時間を使うというのが正しい選択だろう。
第三問(分野:図形と方程式・微分法 難易度:標準)
座標平面と、微分法を絡めた、標準的な問題である。
ただ、初めて見る設定があるので、その設定を正しく理解することが大切だ。
まず、問題の中で定義されている「十分離れている」とはどういうことなのだろうか?
もちろん定義通りに式で覚えておいてもよいが、図形的にどういうことなのかを理解するとこの問題の議論を簡単に進めることができる。
点 S が点 T から「十分離れている。」とは、
点 S が、点 T を中心とるす、x, y 軸に並行な辺を持つ一辺の長さが 2 の正方形の外部にある(周を含まない)
(この場合、中心とは、対角線の交点をいう。)
ということだ。
つまり、例えば、(1)の場合だと、(ii)を満たす点の集合を表す領域は、領域Dから3点 O, A, B を中心とする正方形の部分を除けば求めることができる。
その領域と放物線上の点 P が共有点を持つような a の範囲を求めればよい。
(2)も、(1)の領域を考えて、そのうち、点 P を中心とする正方形を除いた部分というのを考えれば答えは簡単に出る。
もちろん場合分けを忘れないことも大切だ。
(3)は、二次関数と三次関数の微分で終了する。
文系レベルの最大最小問題ゆえに、(2)までできていれば、(3)も自動的に解くことができる。
くれぐれも計算ミスには気をつけてほしい。
東大は、このように、初めて見るような設定を問題の中に定義して議論させる問題が多い。(特に理科などには多い。)
授業や人の説明に頼らず、参考書などの文字から独学で何かを学んだ経験がないと、このような初めての設定の問題は難しくなる。
今では、そこそこクオリティーの高い講義や解説がインターネットを使えば手軽に視聴することができる。
しかし、東大受験を考えているのであれば、できるだけ参考書から新しいことを学ぶように心がけることも大切である。
第四問(分野:微分法・積分方 難易度:標準)
この問題は、標準的な東大の整式の微積分の問題であるが、他の標準問題よりも少し難しく、「やや難よりの」標準である。
(1)は、当然、点 P を (a, b) などと座標を定義すると思うが、任意もしくはあるどの文字に対して、あるどの文字が存在すればよいのかということを考える必要がある。
この問題を図形的に考えると、
座標平面上のどんな点でも、与えられた三次関数 y = x^3 – x と異なる3点で交わる直線が存在する。
ということである。
直線は、1点とその傾きが決まっていれば存在しうるので、傾きを定めた時、任意の点 P の座標を表す2つの実数に対して、傾きとなる実数が一つ以上定まるということだ。
仮に、点 P (a, b) , 傾きを m と定めた時に、
任意の実数 a, b に対して、問題文の条件(i)を満たすある実数 m が存在するということである。
まずは、このように条件をいいかえて何を定めて何を証明するのかということを考えることが大切である。
(2)については、様々な方法が考えられるが、直線と三次関数を表す曲線との連立方程式の解を α, β, γ, などとおいて、まずは条件に挙げられている部分の面積を積分表す。
これと、解と係数の関係を使うと、α, β, γ, に関する条件がでてくる。
ここから図形的にいきなり答えを出してもよいが、この条件を a, b, m の条件に置き換えて答えを導出するやり方もある。
(2)は少し手こずるかもしれないが、(1)は特に絶対に解かなければならない問題だ。
第五問(分野:積分法 難易度:標準)
東大らしい、標準的な回転体の求積問題だ。
立体の体積を求める問題は、立体の形を考えないことが大切である。
形がわからなくても体積を求めることができるというのが積分の強みなので、立体自体の形を考えるのはナンセンスだ。
わかっていれば良いのは、切り口の形だけだ。
この場合は、z = 一定 となる平面で切るのが正しい選択であろう。
さらに、今回は点 P と点 Q の中点の通過領域の体積を求めるのだが、点 P は線分 AB を回転させた面上を通る。
これをさらに言い換えると、線分 AB 上の点 P’ に対して、線分 P’Q が長さ2を保って動いた時の点 M の通過範囲を回転させたものが立体 K になるということだ。
なので、回転させた面をいきなり考えるのではなく、切り口で回転させてからその切り口の面積を求めるというのがこの問題のもう一つのポイントとなる。
また、点 P を固定させた時に、線分 PQ の通過領域は円錐の側面を描き、点 M は円を描くということが感覚的にわかると解答が早い。
ただ、仮に分からなかったとしても媒介変数表示を使い、求めることもできる。
この問題も落としたくない問題の1つだ。
第四問か第五問どちらかは解いてほしいところである。
立体を含めた数3の問題は苦手意識を持たれがちだが、しっかり勉強すればむしろ得点源にできる。
東大を受ける人であればしっかりと準備して入試に臨みたいところだ。
第六問(分野:確率・ベクトル 難易度:やや難)
この問題は、ベクトルを用いた確率の問題である。
この問題もかなり難しいので、他の標準的な問題をしっかりと得点してからこの問題に取り組みたいところである。
まず、認識しておくべきは、 v0 + v1 + v2 = 0 になるということである。
(1)については、まだ解きやすい。
考えられる場合としては、(i)点 Xn が原点にとどまる場合、(ii)長さ1の正三角形を形成して動く場合、(iii)長さ2の正三角形を形成して動く場合である。
それぞれ何通りのコインの出方があるのかを考えれば良い。
(i), (iii)については1通りしかないが、(ii)は裏がどこに入るのかによって何通りか考えなければいけない点注意が必要である。
(2)からはかなり難しくなる。
まず、表の回数が3の倍数回でないと、点 Xn は原点に戻ってこれないので、 r が3の倍数でないときは、 pr = 0 である。
つぎに、 r が3の倍数である本で、裏を並べる。
裏を並べた時に、裏の各隙間に表が入った時に、3種類のうちどの方向のベクトルが入るのかがわかる。
結局、3種類のベクトルの数がそれぞれ同じになれば良いので、同じだけの隙間に同じ個数だけ表を嵌め込むことになる。
ここで、重複組合せを使っていくのだ。
ただ、ここまで試験中で考えるのはかなり難しい。
他の問題に優先的に時間を使うことが大切だ。
各予備校の解答について
ここまで各大問の解説を行ってきた。
実は、毎年駿台、河合、東進、代ゼミが解答速報を行うのであるが、これらの解答が問題によっては違う場合がある。
異なる解法を分析していくのは、数学の勉強に非常に役立つことである。
よって、ここでは、駿台、河合、東進に加えて今年は代ゼミの予備校4社の解答速報の比較を行う。
4社の解答速報を見比べて、違う視点を勉強したり、一番妥当な解法はどれか考えてみてほしい
第一問
この問題は、先ほども述べたように、網羅系参考書レベルの簡単な問題だ。
なので、予備校4社とも解答にそこまで違いは見られない。
河合だけが、積分の別解を紹介している。
t = sin x への置換である。
積分は、2通り計算できるものも多く存在するため、別解があれば、それも一緒に自分のものにしておくことも大切だ。
ただ、基本的に対数関数は部分積分というのを覚えておくと、だいたいの問題に対処はできるだろう。
難易度についても、予備校4社ともやや易としている。
4社がそろって簡単だと言っているので、絶対に落とせない問題であるということがよくわかるだろう。
我々もこの問題はやや易とした。
第二問
(1)は過去問にも何度も出題されている典型問題であるがゆえに、予備校4社とも解答は同じである。
(2)は東進、河合、代ゼミは基本的に同じで、
a(m + l) ≡ al (mod am)
を帰納法で示している。
しかし、この手の問題は、解答を書くために予測や実験をあらかじめしておいて、帰納法で示す。
解答としては、これで問題はないが、これをいきなりみてもわかりにくい。
駿台の解答は、実験の一部を解答に使ってっくれているので、最初に見る際は、こちらを見るとわかりやすい。
難易度は、東進が難、それ以外の3社がやや難である。
(1)が典型問題であることを考えて、我々はやや難とした。
第三問
(1)については、河合と代ゼミは(ii)の条件を満たす領域をいきなり提示している。
それに対して、(ii)の条件を東進は図形的に説明し、駿台は「十分離れている」の定義の式に代入することで説明している。
問題作成者の意図として「十分離れている」を理解しているかどうか確認したいというものがあるので、この説明は答案に書いておくべきだ。
(2)については、基本的な解法の違いはない。
最終的に面積を求める際に、予備校4社で、その根拠がなかったり、説明が異なったりしているなどの違いがみられた。
これは、正直中学生でも計算できる部分なので、わざわざ丁寧に説明する必要はないだろう。
「図の斜線部の面積を求めると、」などと書いて、いきなり導出してかまわない。
(3)については、二次関数と三次関数の微分をするだけなので、特に予備校4社で解答の違いはみられない。
難易度については、予備校4社とも標準とした。
設定を読解するのがつまるポイントとなるが、東大に合格するレベルであれば、できて当然だ。
この問題も決して落としたくない問題という意味で、我々も標準とした。
第四問
(1)については、直線と三次関数とを連立させた三次方程式を導出し、異なる3つの実数解の存在条件に落とし込むところまでは同じである。
異なる3つの実数解の存在条件を求めるところからは2通りの方法がある。
まず、微分して、極大値と極小値が異符号になることを用いる方法だ。
これは、東進、河合の正規の解答、代ゼミで見られたやり方だ。
ほとんどの人は、こちらで解くと思われる。
しかし、計算が少し煩雑になってしまう。
ここで、三次関数のグラフの形を考えると、極大値、極小値でなくても、 y 座標が異符号になる2点の組み合わせ(ただし、 x 座標が小さい方が、y 座標が大きくなることが必要。)が存在すれば、題意を満たす。
河合の別解と駿台がこのやり方をしている。
(2)についても、面積に条件を同値変形していく際に、2つのアプローチが見られた。
まず、β = 0 を導出してから、これを解答に反映させているやり方だ。
これは、東進、駿台、代ゼミのやり方である。
それに対して、河合は最初から β を消去して考えている。
図形的に最後の答えが簡単に出せるという意味でも、前者の解法の方が理解しやすいだろう。
難易度については、東進、河合、代ゼミが標準、駿台がやや難である。
(2)は少し難しく躓いてしまう人もいるかもしれない。
ここでは、標準としているが、どちらかというと「やや難」よりの標準である。
第五問
この問題は、東進、河合、駿台では大きな解法の違いはない。
代ゼミに関しては、点 P を 線分 AB 上のある1点に固定したときの点 M の通過領域が円になるということを媒介変数表示を使って求めている。
これは、感覚的にわかりたいところであり、代ゼミのように数式で証明しなくとも減点にはつながらない。
河合も参考の部分でこのことにふれている。
難易度については、東進、駿台、代ゼミが標準、河合がやや難としている。
この程度の求積問題であれば、しっかりと対策をした人ならば十分解答することができ、難しいとは言い難い。
よって、ここでは標準とした。
第六問
(1)については、予備校4社とも、表の回数が0, 3, 6回の3つの場合について考えており、概ね解答は一緒である。
(2)についても、重複組合せを使って確率を求める部分はどの解答も本質的に変わらない。
多少表現の仕方に違いはあるものの、この問題では、それぞれの予備校にあまり違いは見られなかった。
難易度については、東進、河合、代ゼミがやや難、駿台が難とした。
我々も(1)だけであれば少し手がだせるだろうと考えやや難とした。
まとめ
以上が、2022年度の東大理系数学の総評と、各予備校の解答速報を比較の解説である。
これを見ると、難化しているとは言っても、意外と点を拾うことができる問題があるのがわかるだろう。
ただ、それを見抜いて、適切な順で問題を解いていく必要がある。
実際に、同日模試を解いてみた高校生の中には、難しく感じたり、難しく見えてしまい手が出なかったという人が多いだろう。
このように、東大は、実は基礎的で簡単な問題を難しく見せるということ頻繁にする。
そのような問題にひっかからず見抜くためにも、数1Aから数3までの全ての分野に対して、抜け目なく対策をしておくのが大切なのである。
今回の記事を見て、東大はどのくらいのレベルを要求しているのかわかっただろう。
最終的にこれらの問題を解かなければいけないということをイメージして、日々の勉強に励んでほしい。