東大の物理には問題の難易度が高く、試験時間が厳しいという2つの大きな壁がある。

東大では150分という試験時間の中で、2科目で合計6題もの大問が出題される。

それぞれの問題で聞かれていることを正しく読み取り、難易度を見極め、解ける問題を正確に、かつ素早く解いていかなければならない。

時間配分を間違えて難しい問題に時間をかけすぎてしまうと、後ろにあった簡単な問題に手をつけられず、得点を伸ばせなかった、という残念な結果に終わってしまうことも十分ありうる

しかしながら、問題の難易度も高いため、落ち着いて取り組み、物理現象を正確に記述できる力がなければ、高い得点を望むことができないのもまた事実である。

ここでは、2020年度の東大物理について、予備校3社(河合・駿台・代ゼミ)の解答速報を比較し、問題を素早くかつ正確に解いていくためのポイントについて紹介していく。

この記事を読んで2020年度の東大物理についておさえていこう。

全体の総評

2020年度の物理は、難化した昨年と比べて分量がわずかに減少し難易度も落ち着いたものであった。

力のある受験生にとっては、かなりの高得点が期待できる問題であった。

また設問の難易度としては、受験生が今までに解いてきた典型的な問題設定が少なく、その場で起きている物理現象について、問題の誘導に乗りながら解析していくという力が広く問われた

問題文の条件を正しく理解、整理するのが煩雑な問題もあり、全体的にやや難化した。

設問の形式としては、立式に関して穴埋め形式の問題が出題されるという珍しい傾向が見られた。

式を用いて定量的分析について問う問題が増加した分、物理現象のふるまいを予測し、グラフの概形を答える、または記述をするという定性的分析について問う問題はほとんど出題されなかった。

以下に、各大問の出題分野と難易度をまとめた。

第1問 力学(面積速度・中心力・万有引力・ボーアの量子条件)

第1問は例年通り力学からの出題であったが、一部原子分野と絡めた問題が出題された。

これは教科書的な分野に囚われることなく、体系的な物理の力を身につけて欲しいという東大からのメッセージであるように思える。

実際、第1問は「中心力」という一貫したテーマの下問題が出題された。

中心力とは、物体に働く力の向きが常にある固定された点の方向を向くような力のことである。

このような力では、Ⅰで問われているように面積速度が保存し、Ⅱで問われているようにエネルギーを向心方向とそれに垂直な方向に分けて議論すると考察が楽になる

そして、その具体例としてⅢで扱われているような万有引力の下での運動、及びそれを量子化したものがある。

Ⅰは中心力と面積速度に関しての問題である。

万有引力の下で面積速度が保存するのはどうしてか、それを一般化して、面積速度が保存するのはどのような力が加わるときかを考察したことがある受験生にとっては、この問題は楽に解けたであろう。

そうでない受験生でも、丁寧な誘導に従えば十分に解答可能な問題であった

(1)は絶対落とせない運動学の基本問題である。

速度や加速度の定義を思い起こせばア〜エは非常に容易である。

オ、カも、ア〜エの答えよりAvの差分を求めればできる。

また、時間でAvを微分しても良い。

(2)は面積速度が保存するための条件を求める問題であった。

中心力が働くときに面積速度が保存することを知っている受験生は楽に解けたであろうが、そうでない受験生も(1)を利用すれば解けたであろう。

(3)は、力が常に速度に直行していることを見抜けば、仕事がともに0であることがわかる

Ⅱは中心力下での力学的エネルギーを考察する問題である。

運動エネルギーを向心方向とそれに垂直な方向に分ける議論の仕方は入試物理としては目新しいものであるが、これも誘導に従えばそこまで難しい問題ではない

(1)は単純に差を取るだけでも解答可能であるが、速度を向心方向とそれに垂直な方向に分解することに気づけばより楽に解答ができる。

(2)は少し難しく感じるかもしれないが、(1)を参考にvrが0であるときに最小になること、つまり等速円運動をするときに最小になることに気づけば答えることができる

Ⅲは原子分野からの出題で、あまり見られない設定の問題であったが、やっていることは教科書に載っているボーアモデルと同じである。

クーロン力と万有引力間がどちらも距離の逆二乗則に従う中心力であることに着目すれば楽に解答できたであろう。

(1)は、ボーアモデルと同様にして量子化条件と運動方程式を連立すれば解くことができる

(2)は数値計算の問題である。この問題で問われているように、大体の桁数を数値計算によって把握することは物理においては非常に重要である。

受験物理では数値計算が疎かにされがちであるが、大体の桁数を計算によって推定する訓練はしておいて損はないであろう。

以上のように、第1問は中心力という一貫したテーマのもと出題されており、見慣れない問題も出題されたが、誘導に従えば十分に解答可能な問題であった

よって難易度は標準とした。

本問は力学を正確に理解しているかが問えるとともに、時間配分の練習にもなる良問であった。

これから東大を受験しようと思っている人は、本問のような形式が東大物理では標準的であることを意識して問題演習を積んでいってほしい。

またその際には、基本的ではあるが、力の向き、大きさについて常に意識して問題を解くことが大切である

このことが、正確に式を立て、解くために重要であることを忘れないでほしい。

第2問 電磁気(電磁誘導)

第2問は例年通り、電磁気からの出題であり、今年度は一定磁場の加わるレール上を走る導体棒の電磁誘導の問題が出題された。

これは入試物理としては典型的な設定であるため、取り組みやすいと感じた受験生も多かったであろう。

Ⅰ(1)は基本的な暗記事項ともいうべき落とせない問題である。

運動方程式と回路方程式を連立して議論すればよい。

このあたりの導出などは、「名門の森」(河合出版)などが詳しいので、基礎の定着が必要な人は読むことをお勧めする。

(2)は速さの変化量が加速度を用いて表されること、および加速度が運動方程式を用いて表されることを思い起こせば楽に解ける

(3)は少し難しいかもしれないが、電気量の変化が時間変化と電流の積で表されることと、(2)で時間変化を速度変化を用いて表せれることに気づけば答えることができる。

(4)は見慣れない問題であるが、誘導にしたがってコンデンサーとの類似点に気づけば答えることができる

(5)も(4)と同様である。

ⅡもⅠ(1)同様基本的な問題である。

Ⅲは2つの導体棒に流れる電流が常に等しいことに気づけば解くことができる

流れる電流が等しいので、導体棒2は1に比べて常に2倍の力を受ける。

つまり、2の終端速度は1の2倍になる。

以上から、第2問は標準的な電磁誘導についての基本的~標準的な問題であった。

Ⅰの(3)以降などエネルギーに関する少し込み入った議論が必要な問題もあったが、基本的な知識及考察で解ける問題が多く、難易度は標準とした。

(3)が解けなかったからといって第二問を解くことを諦めてはいけない

Ⅰを解くことは難しいかもしれないが、ⅡやⅢはこの流れに関係なく解くことができる。

このように、入試物理では同じ大問内でも繋がりが薄い問題が出題されることが多々あり、1つの問題が解けなかったからと言ってその大問を全て捨てるのは危険である。

電磁気、特に、本問の後半で問われた電磁誘導は入試物理においては頻出の分野なので、きちんと学習、対策をして、まずは基本的な問題を解けるようになろう。

また、東大の物理では今年の問題のように基本的な知識のみから論理的に考える力を試されることが多い

したがって、勉強するときも公式の暗記に傾倒するのではなく、それぞれの式の意味を理解して使えるようになることを目指して勉強に取り組んでほしい。

第3問 熱力学(気体の状態変化、熱サイクル)

第3問は、昨年波動が出題されていたのとは異なり、熱力学が出題された

第3問はおもに波動と熱力学のどちらかが出題される。

毎年どちらも出る可能性があるので、しっかりと勉強しておこう。

また、原子物理の分野についても、今年は第1問で少し問われただけであったが、大昔の東大のように第3問丸々使って出る可能性も0とは言えないので、余裕のある人はよりしっかり勉強しておくことをお勧めしたい

今回の大問では、気体の状態変化および熱サイクルの問題が出題された。

全く同じ熱サイクルの問題を見かけることはなかなかないが、どの問題でもやることは同じである

その変化がどのような変化であるかをしっかりと把握し、状態方程式や熱力学第一法則を組み合わせていけば解くことができる。

この手の問題では、各状態変化における圧力や温度などがどうなっているかを図などに書き把握することが重要になってくるが、今回の問題では親切にもその図が与えられていた。

これから熱力学の問題を解く時は、この問題を見習って各状態における物理量を表にまとめると解きやすくなる。

Ⅰでは各操作でした仕事を求める問題が出題された。

各々の変化がどのような変化であるかを把握すれば、これは難しい問題ではなかったであろう。

Ⅱは操作④に着目して考えている。

(1)は、内部エネルギー変化を素直に書き下せば解ける。

(2)は、この変化が定圧変化であることに気づけば楽に解ける。

(3)は、容器XとYの合成系が断熱されており、外部からの熱の出入りがないことに気づけば解ける。

Ⅲは低温熱源から熱を高温熱源に与える方法を考察する問題であった。

やや見慣れないテーマであるが、これも誘導にのって落ち着いて解けば難しくはなかったであろう。

(1)は各々の状態変化の特徴、および変化前と変化後の温度の大小関係に着目すれば良い。

(2)も内部エネルギーが増加することからわかる温度の大小関係に着目すれば解ける。

(3)は、熱力学第一法則およびⅡ(3)に着目すれば良い。

(4)は、状態CとDが物体Zの温度で決まることから何周目でも不変であることに気付けると良い。

今回の問題は、過去問と照らし合わせても形式、分量ともに典型的な出題と言える。

よって難易度は標準だろう。

熱力学の分野では今回のように文字が多く出てくるのも出題の特徴である。

文字の多さに惑わされず、求めるべきものを計算ミスなく求めるトレーニングを積み重ねていこう。

予備校の解答速報の比較

分量については、予備校ごとに評価が分かれ、代ゼミが増加、駿台が減少、河合塾は変化なしとしていた

難易度に関しても、河合がやや易化、駿台と代ゼミは易化と発表した。

第1問

全体の難易度は駿台がやや難、駿台、代ゼミが標準

駿台は見慣れない議論が所々見受けられるためやや難としており、物理的に難しい問題ではないとしていた。

第2問

全体の難易度は河合、駿台、代ゼミともに標準

基礎的な問題で点を稼いでおくべきという見解が共通して見受けられた。

第3問

全体の難易度は河合がやや易、駿台、代ゼミが標準。

できるだけ短時間で正しい答えを導けると良いという見解が見受けられた。

まとめ

以上が2020年度東大入試物理のポイントのまとめである。

この記事から、今年の物理は昨年度より易化し、物理の問題を解くことになれているだけでなく、戦略的に解く問題を選ぶ力も問われた内容だったことが分かる

日頃の学習では時間をかけて問題にじっくり取り組むことが大切であるが、試験では解ける問題を優先して解いていく、という力も身につけてほしい。

これから東大を目指す人、物理の学習を進める人たちにはぜひこうした実践的な演習を積んでもらいたい