東大の理科は4科目から2科目を選ぶ形式だが、化学はもっとも多くの人が受験する科目である。
しかし理科2科目を合計150分で解かねばならない、という時間的に厳しい制約があり、多くの受験生にとって、落ち着いて取り組む時間的猶予はほとんどないだろう。
そのため受験生は自分が受けるもう1つの科目と相談しながら、問題の難易度を見極め、時間配分を決めて効率よく問題を解いていくことが必要である。
ここでは、2020年度の東大化学の予備校3社(河合・駿台・代ゼミ)の解答速報を比較し、効率よく問題を解いていくポイントやこれからの勉強をしていく人にとってのコツを解説のまとめとして述べていく。
この記事を読んで2020年度の東大化学についておさえていこう。
全体の総評
まず設問の形式としては、3年連続で第1問が有機化学、第2問が理論・無機化学、第3問が理論化学となった。(2016年度までは伝統的に理論→無機・理論→有機の順であった)
この理由としては、あくまで想像だが、解答欄の大きさが第3問は第1,2問の約2倍の大きさになることが関係していると思われる。
このことから、多くの計算が必要な理論化学の分野において計算過程を解答に残してほしい、という大学からのメッセージともとることができる。
計算問題において計算過程も解答に入れるという訓練もこれから勉強を進めていく人は行うと良いだろう。
また、第1問は昨年までとはことなり、2016年以来のⅠとⅡに分かれた出題となった。
第2問、第3問は昨年同様ⅠとⅡに問題が分かれていた。
また、問題のテーマもオーソドックスな設定の問題や基本的な問題が多く見られた昨年までとは異なり、東大らしい難易度の高い問題も見られた。
そのため難易度としては易化傾向が続いていた近年と比べては難化した。
全設問数としては31題となり、昨年の32題より1題減少した
以下に、各大問の出題分野と難易度を記す。
第1問 有機化学(難易度 Ⅰ:標準 Ⅱ:やや難)
今年の有機化学は、Ⅰが糖類全般の性質と反応およびグルコースを含む有機化合物の構造決定、後半が、レプリン酸という脂肪族化合物の構造決定に関する出題であった。
今年は有機問題における典型的な問題が出題されず、Ⅱでは高校範囲を逸脱するような問題も出題された。
とはいっても、まずは教科書レベルの知識をみにつけ、有機に関する基礎知識が広くあることが得点のための最低条件として挙げられる。
有機化合物の合成に関する問題は、東大やその他の難関国公立大学では頻出の問題である。
Ⅰの難易度としては、各問題が例年の東大入試で頻繁に問われていること、および問題の分量も、例年通りにすべてを処理するのには時間が厳しくなる程度に多かったということをふまえて標準とした。
Ⅱは見慣れない反応な上に、考え方によっては手が止まってしまうのでやや難とした。
有機化学は、学校の授業の進度によっては、問題演習を積むことが難しいという人もいるかもしれない。
とはいえ、このタイプの問題は典型的で頻出の問題も多く、演習を繰り返し行うことで、得点が見込める分野である。
ぜひとも東大を目指す理系受験生は、有機化学の対策に時間をしっかりとるべきである。
また、実戦形式で過去問を解いた後は解ききれなかった問題を時間を気にせずに解きなおしてみることも良い勉強になるだろう。
ここ最近の有機の問題に典型的な出題が多いことをふまえると、過去問から1つでも多くのことを吸収しようという姿勢が合格
への近道になると言えるからだ。
第2問 理論・無機化学(難易度 I:標準 II:標準)
第2問のⅠは空気中の機体に関する総合問題が出題された。
エの論述はやや高尚な知識を持っていることが必要であったが、他は容易であった。
Ⅱは電子式、分子の形、結晶構造に関する出題、東大頻出のテーマである。
問クで見慣れないイオンの形があったが、そこまで難易度は高くはない。
無機化学の分野は、覚える反応式、元素の性質がやや多くて煩雑だが、一度正確に覚えてしまえば、そのまま問題を解くことができるお得な分野である。
今年も教科書的な知識で解ける問題が見られた。
こうした基本的な知識をつけたうえで、さらに化学で点を取りたいということであれば計算問題の対策にも手を付けていこう。
計算問題は最初こそ時間がかかったり、計算ミスも多いかもしれない。
しかし、問題集や過去問の典型的な問題で演習を積み重ねれば、正確性も解く速度も上げることができる。
計算問題を得意にできれば、ほかの受験生に有意に差をつけることができるようになるのでぜひ頑張ってほしい。
第3問 理論化学(難易度 I:標準 II:標準)
第3問の理論化学もⅠとⅡに分かれていた。
Ⅰは炭酸ナトリウムの二岩塊滴定および緩衝液に関する総合問題である。
物質収支と電気的中性条件の式を立てた経験がないと難しいかもしれないが、東大を目指す受験生ならばこの手の問題は一度は経験しておくことが望ましい。
誘導にうまく乗れるかどうかが鍵である。
難易度は標準とした。
Ⅱは火山ガスの組成と反応についての問題が出題された。
東大では火山に関する問題が時折出題される。
火山に加え、海洋、大気、岩石の素性に関する問題もよく出題されるので、このような分野の問題演習をしっかりと積んでおこう。
全体的に難しいわけではないが、計算がやや煩雑である。
難易度は標準とした。
東大入試の理論化学は先述したとおり数年前までは第1問に配置されていた。
これは数年前に東大受験をした筆者の私見であるが、当時の第1問の問題は今年や昨年の問題よりも立式や計算そのものが大変な問題が多かったと感じる。
東大の化学は解ききれない、と思う所以は第1問の理論化学にあると感じ、受験でもほとんど時間をかけずに解けるところだけを拾った。
各予備校の解答速報の比較
分量については河合塾がやや増加、駿台が増加、代ゼミは同程度とした。
難易度については河合塾はやや難、駿台、代ゼミは難化したと発表した。
河合塾は例年と比較してもまだやさしいと評価した。
駿台は『東大らしい難易度の高い問題が見られた』、代ゼミは『時間不足に陥りやすい構成であった』との旨の分析を行った。
第1問
各予備校が発表した難易度はⅠは河合、駿台、代ゼミ全てが標準、Ⅱは河合、駿台、代ゼミ全てがやや難とした。
駿台は「高校化学の範囲を超えている」と評価し、これによりやや難としたと思われる。
第2問
各予備校が発表した難易度は、Ⅰは河合、駿台、代ゼミ全てが標準、Ⅱも河合、駿台、代ゼミ全てが標準とした。
代ゼミは平易な問題が多く、Ⅱは満点を狙いたいと評した。
第3問
各予備校が発表した難易度は、Ⅰは河合、代ゼミが標準、駿台がやや難として、Ⅱは河合、駿台、代ゼミ全てが標準とした。
駿台は経験がないと難しいであろうと評した。
まとめ
以上が2020年度の東大化学の解説である。
今年度の問題は典型的な問題も一部出題されたものの、高校範囲を逸脱するようなかつての東大らしい問題が出題された。
応用力が問われる問題が解けるようになることも重要であるが、まずは基礎的な問題を解けるようになることこそ、化学の力がついた証拠であり、こうした力のある学生を東京大学は求めている。
基本的な問題で知識を定着させ、その上で応用問題で訓練をすることが東大合格への近道と言えるのだ。
このことを踏まえて、これから受験を予定している人は、基本事項をしっかりとおさえつ、問題の演習を繰り返し行ってもらいたい。