東大の物理の難しさには2つあり、ひとつには問題自体の難易度が挙げられ、もうひとつには試験時間の厳しさが挙げられる。
東大では150分という試験時間の中で、2科目で合計6題もの大問が出題される。
それぞれの問題で聞かれていることを正しく読み取り、難易度を見極め、解ける問題を正確に、かつ素早く解いていかなければならない。
もし時間配分を間違えて、難しい問題に時間をかけすぎてしまうと、後ろにあった簡単な問題に手をつけられず、得点を伸ばせない、という残念な結果に終わってしまうことも十分ありうる。
しかしながら、難易度も高いため、落ち着いて取り組み、物理現象を正確に記述できる力がなければ、高い得点を望むことができないのもまた事実である。
ここでは、2018年度の東大物理について、予備校2社(河合・駿台)の解答速報を比較し、問題を素早くかつ正確に解いていくためのポイントについて紹介していく。
この記事を読んで2018年度の東大物理についておさえていこう。
全体の総評
2018年度の物理は、2017年度に比べ問題数はあまり変化がなく落ち着いて取り組めたものの、計算量などが必要となる問題が多かった。
また設問自体の難易度としては、問題文の条件を正しく理解、整理するのがやや煩雑だったため、全体的に難化した。
設問の種類としては、今年度も、式を記述させて定量的分析について問う問題と、正しい物理現象のふるまいを予測し、グラフの概形を答えるという、定性的分析について問う問題の両方が出題された。
以下に、各大問の出題分野と難易度をまとめた。
問題 |
分野 |
難易度 |
第1問 |
力学 ・単振動 ・2体問題(慣性系) |
標準 |
第2問 |
電磁気 ・多重極板コンデンサーの極板間引力 ・単振動 |
やや難 |
第3問 |
熱力学 ・理想気体の膨張 |
やや易~標準 |
第1問 力学:単振動・2体問題(難易度:標準)
第1問は例年通り、力学からの出題であった。
今年度は、摩擦のない面の上での、振り子がつきの台のふるまいについて考えるという、問題演習をしてきたかで経験の差が生まれやすい、ありふれた問題設定であった。
大問は、さらにⅠとⅡに分かれており、Ⅰでは振り子を振って、装置を動かしたときを考え、Ⅱでは台に加速度をつけて押すことで、装置全体を動かしたときを考えた。
Iはいわゆる2体問題に関する基本的な問題である。
(1)は、台と小球を1つの系として運動量保存則、エネルギー保存則の式を立てればよい基本問題。
計算をミスしなければおのずと答えは出てくる。
(2)からは、いわゆる2体問題にありがちな、「重心から見た系」で考える、という解き方を知っていたかどうかがカギとなった。
(2)、(3)で丁寧に誘導をしてくれているが、この程度のアプローチは東大受験生であれば誘導無しでも思いつけるくらいにしておきたいところである。
(4)も誘導に従えば、小球の運動が、重心を振り子の中心と考えたときの単振動に近似できることは明らかである。
Ⅱも慣性系と静止系で考える、標準的な問題である。
(1)は、台そのものが等加速度運動をしているので、台に乗ってしまえば重力加速度gと水平方向の加速度aを合わせた見かけの重力がはたらいている世界で考えればよいことになる。
(2)は、(1)が分かれば基本的なエネルギー保存則の問題である。
(3)は、定性的なグラフの選択だが、F(0)とF(t0)の大きささえが分かれば解けるので、特徴的な値を考えて絞り込もことが大切であった。
(4)は、台がat0で等速直線運動していること以外はすべてⅠの暗示条件であることに気づければ簡単だ。
この問題も運動方程式を立てれば、単振動の式であることが分かるので、それを踏まえて解答すれば問題ない。
単振動の周期や振幅の式についても聞かれているので、このあたりの基本をしっかり押さえてあった人は着実に点を取れる問いであった。
以上から、第1問は2体問題という、演習量によって差のつきやすい問題を選んでいるが、問題としては解きやすいものが多かった。
よって難易度は標準とした。
また仮に重心で考える、というセオリーを知っていなくても本問の場合は誘導も付いていたのでその範囲には必ず手を付けて点を取ろう。
これから東大を受験しようと思っている人は、本問の問題設定が標準的であることを意識して問題演習を積んでいってほしい。
またその際には、力の向き、大きさについて常に意識して問題を解くことが大切である。
このことが、正確に式を立て、解くために重要であることを忘れないでほしい。
第2問 電磁気:運動する導体棒にかかる誘導起電力(難易度:やや難)
第2問も例年通り、電磁気からの出題となったが、コンデンサーの極板間引力をテーマにするという、近年あまり出題歴のなかった問題が出題された。
コンデンサーの問題は、とにかく、極板にたまっている電荷、それによって発生する電位差について意識して解いていくことが大切である。
これらを追っていくことができれば、エネルギー、極板間引力などを出すことは難しくないからだ。
大問は、2枚の金属板と、それを結ぶばねからなるコンデンサーに関する問題(Ⅰ)と、5枚の金属板からなる多重極板コンデンサーに関する問題(Ⅱ)の2つに分かれていた。
後半の問いは、設定が複雑な印象である。
Ⅰの(1)(2)はいずれもコンデンサーに関する基本的な問題である。
電荷と電場の大きさの式さえわかっていれば回答することができる。
(3)は第1問に続き、単振動の周期を聞いているが、運動方程式を立てて適切な近似をしてma=-kxの形に持っていくことができればよい。
ただし、計算が面倒ではある。
東大物理では、この問題のように最初の問題が簡単であることも多いため、たとえ苦手な問題であっても、最初の部分だけは解いて点を取る、ということができる。
Ⅱは、金属板が5枚になり、実質4つの直列コンデンサーについて考える問題である。
4つのコンデンサーがあり、設定が複雑ということでこの問題をあきらめた受験生も多いだろう。
非常に差のつく問題であるといえる。
(1)は、まず、電荷が分布した結果、極板3にそれぞれ(Q+q)、(Q-q)の電荷がたまったことを正しく把握できたことが解答への第一歩である。
次に、それによって極板間引力がどうなったのか、それでばねののびでどれだけ変位したのかを計算せねばならない。
(2)は、やっていることは電圧を与えられた文字で表すだけであるが、与えられた文字が多くなり計算ミスを起こしやすいことが考えられる。
(3)は、V=0になっただけで(2)を利用することができれば早いが、そのことに気づくのに時間がかかるだろう。
(4)は、(3)が解ければ、簡単な式変形で運動方程式を整理することはできるが、ここまで到達できた受験生は多くなかったと思われる。
以上から、第2問は大問の前半と後半で難易度が大きく異なっていた。
後半の問題については、考えることも計算も、試験場では時間を使うものであり、点を伸ばすのは難しかったであろう。
よって難易度はやや難とした。
電磁気は、受験生の中には習って間もない、という人もいるかもしれない。
しかし毎年必ず出る分野なのできちんと学習、対策をして、基本的な問題をまずは解けるようになろう。
また、今年のように試験では難問が出ることもあるが、直前期に時間を測って解くとき以外は、このような問題には時間を取ってしっかりと考え、手を動かして計算するという訓練をしておこう。
第3問 熱力学:理想気体の膨張(難易度:やや易〜標準)
第3問は、昨年に引き続き熱力学からの出題であった。
第3問はおもに波動と熱力学のどちらかが出題される。
毎年どちらも出る可能性があるので、しっかりと勉強しておこう。
また、3年前から新課程になり原子物理についても学習指導要領に組み込まれた。
それについても、今後出る可能性は0とは言えないので余裕のある人は勉強しておくことをお勧めしたい。
今回の大問では、真空のガラス管、空気の入ったガラス管、上部が開口しているガラス管が連結している装置を考えた。
Ⅰは初期状態、Ⅱは微小の熱を空気に加え、わずかに膨張させたとき、Ⅲはさらに熱を加え、真空がなくなったときに関してそれぞれ考える問題であった。
Ⅰはまず、初期状態での各容器の液面の圧力のつり合いを考える問題であった。
Aの5hの液体がちょうど大気圧に相当していることが分かれば、気体が3hの液体と同じ圧力を与えることは分かるので、これは簡単である。
ⅡはBの上部の空気にわずかに熱を加え膨張させたときのつり合いを見ている。
(1)は、AとCの液面差が5hに気づけば同じ高さだけ変化することが分かる。
(2)は、圧力の変化は、液面の高さの変化に相当することが分かれば解ける。
(3)は、液体をxだけ押したことが分かれば解ける。
(4)も、液面がどれだけ変化した高さに来たかを考えればよい。
(5)は、空気も押しているということに気づければわかるが、(3)と(4)を比較して考えた方がいいだろう。
従ってⅡも、液面の変化に注目すればたいてい解けるようになっているので、比較的簡単である。
Ⅲはxがさらに大きくなり、真空がなくなった状態である。
そのことに気づけば(1)は解けるが、(2)は内部エネルギー、仕事を考えなければならないのでやや煩雑であった。
熱力学の問いで重要なのは、加熱や、ストッパーの取り外しなどの操作で気体の温度、圧力、体積がそれぞれどう変わったのかを逐次把握して、追っていく能力である。
今回の熱力学の問題は過去に東大で出題された問題寄りも設定としては単純な問題だったといえる、よって難易度はやや易~標準だろう。
熱力学の分野は範囲も広くないので、対策は、時間をとって行えば比較的しやすい分野といえる。
これらに留意したうえで、問題集などで演習を積んで、本番で点を取っていこう。
予備校の解答速報の比較
全体の総評
分量については、問題数の少なさからか、河合が変化なし、駿台は計算量が増えたことで増加としていた。
難易度に関しては、昨年度が簡単だったため、2社ともに難化と発表した。
しかし、東大物理の標準レベルはこのレベルかまたはそれよりも上であると思われる。
第1問
全体の難易度は河合が標準、駿台がやや難。
Ⅰは確実に点を取るべき、というのが共通見解として見られたので、やはり落としたくはないところだ。
Ⅱについては、河合はこのレベルの問題を解けるようにしておくべき、との旨で標準的としているが、駿台は大変な問題であるという認識であった。
特に(3)のグラフの選択については、駿台は難しいとの判断であった。
第2問
全体の難易度は河合が標準、駿台がやや難。
極板間引力については最低限知っておくべきであるとの共通見解が2社で見られた。
Ⅱの問題設定については駿台でも「苦手な学生が多い」という見解であったので、物理が得意な学生にとっては、有利に差をつけることができたと思われる。
第3問
全体の難易度は河合と駿台ともに標準であった。
液面にはたらく力については頻出、としていたのは駿台である。
全体の見通しが立ちやすい問題であったのは共通見解のようである。
Ⅲの(2)については、解き方のアドバイスを2社ともに行っていたので、この問題だけはテクニックが必要であったと考えられる。
まとめ
以上が2018年度東大入試物理のポイントのまとめである。
この記事から、今年の物理は昨年度よりは難化し、物理の学習をしっかりしてきた受験生が差をつけることが期待できる内容だったことが分かる。
このような問題のセットで必要なことは、たとえ苦手でも点をもぎ取っていく力である。
日頃の学習では時間をかけて問題にじっくり取り組みつつも、試験では解ける問題を優先して解いていく、という力も身につけてほしい。
これから学習を進める人たちにはぜひこうした実践的な演習を積んでもらいたい。