東大入試の数学は一般的には非常に難しいと言われている。
昔から受験数学の最高峰という位置付けにたっていた。
しかし、その難易度は実は年によっても、問題ごとによってもバラバラである。
2018年度の理系数学はどうだったのであろうか?
受験生はどの問題を確実にとかなければならなかったのか?
また、河合、駿台、東進の予備校3社の解答を比較するとどうなるのか?
ここでは、現役東大生による2018年度の東大数学(理系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめを発表する。
この記事を読めば、2018年度の東大文系数学の解答速報だけではわからない詳しい解説がわかる。
全体の総評
文系と同様理系も昨年と比べて難化した。
しかし、これは決して今年が難しくなったわけではなく、昨年が異常なまでに簡単だったからだ。
文系の数学に関しては、解法がすぐに思い浮かぶものばかりでどれも標準的な問題であったのに対して、理系の今年の問題は絶対はずせない簡単な問題、標準的な問題、難易度が高い問題がバランスよく配置されており、入試問題としてもこのセットはかなり良いものではないかと思う。
問題別の分野と難易度は以下のようになっている。
問題 | 分野 | 難易度 |
第一問 | 微分法、極限 | やや易 |
第二問 | 数列 | 標準 |
第三問 | ベクトル、定積分、極限 | 標準 |
第四問 | 微分法 | やや易 |
第五問 | 複素数平面 | やや難 |
第六問 | 空間座標, 体積 | やや難 |
まず、これを見ると第一問と第四問は絶対に外せないことがわかるだろう。
これらは、見た瞬間に解法が浮かぶような典型問題で、青チャートに載っていてもおかしくないレベルである。
多少、式変形や同値変形が難しいかもしれないが、これをうまく切る抜け正確に答えまでたどり着ける力が必要である。
この二つの問題を落としてしまうとだいぶ合格が厳しくなってしまうので、注意しなければならない。
次に取っておきたいのが、第二問か第三問のいずれかである。
第二問については、(1)までは計算するだけなので、既約分数であることに十分注意すれば答えられるはずだ。
第三問についても、標準的な東大の問題で、まずは与えられた条件から点Rの通過範囲がどのような図形になるのか把握することが重要であるが、これさえ把握できてしまえばあとは計算するだけの問題だ。
この二問は東大理系数学の極めて標準的な問題で、第一問、第四問をしっかり押さえた上でどちらか一方は押さえたい問題だ。
両方完答できたものは、数学の合格者平均点を超えてきて、数学を得点源にすることができる人になる。
さらに、ここで難問の第五問と第六問をに手を出せるとかなり高得点が見込めるだろう。
特に第六問に関しては、枝問にわかれており、完答は難しくとも、(1)まではだれでも手を出せんる問題ではないだろうか?
このように、第一問、第四問は完答必須の問題、第二問、第三問のどちらか一方完答必須、そのうえで第五問、第六問に手を出せるとかなり高得点が期待できるという問題であった。
もちろん理科三類の人はこれ以上得点が必要なので、第一、二、三、四問は完答必須で、第五問、第六問のどちらか完答しておくと得点源になるという状況である。
第一問(分野:微分法、極限 難易度:やや易)
数Ⅲの微分法の典型的な問題で、理系であれば必ず完答必須の問題となっている。
問題の難易度もやや易である。
微分するときに若干計算に手間取りはするものの、理系の東大志望者であればこれは難なくクリアーして欲しいところである。
微分して、増減表を書けば、答えがでるという頭を何も使わない問題だ。
極限についても教科書レベルの極限で公式を適用するだけですぐに答えが求められてしまう。
これ以上あまり言及することがないほど簡単な問題である。
第二問(分野:数列 難易度:標準)
この問題は極めて標準的な東大の数列の問題といえよう。
この問題は文系の数学第二問と類似性がみられる。
また、これは枝問がなければかなりの難問になるが、近年数列の問題にはだいたい枝問がついておりこの誘導にのっておけばそこまで苦労することなく完答ができる。
まず(1)では普通に計算すると
2(2n + 1)/n(n + 1)
となるがこれは既約分数ではないことに注意しなければならない。
なぜなら分子が偶数になるのはいうまでもないが、同時に分母も偶数になるからだ。
n, n + 1は連続する整数なのでどちらか一方が偶数になり全体として偶数になる。
なので正しくは
pn = n(n + 1)/2, qn = 2n + 1
というのが答えになる。
この部分で引っかかってしまった人が多いように思われるが、東大志望の理系であれば気づけなければいけないポイントだ。
(2)に関しては、まず自力でa1, a2, a3, …と計算してみるのが第一のステップだ。
するとa3以降は整数にならないことに気づく。
また、(1)でも止めたan/a(n-1)がn>3で1より小さいことからこの数列は減少列であることがわかる。
さらに、計算していくとa8で数列{an}は1より小さくなるので、a3, a4, … , a7が整数でないことを示せれば自ずとa1, a2のみが整数であることがわかる。
しかし、この解法は芸がなさすぎる上、計算ミスが命取りになりやすい。
計算ミスのリスクを回避しもっと賢く特には以下の事実を利用することである。
an = an/a(n-1) * a(n-1)/a(n-2) * … * a3/a2 * a2/a1 * a1 ・・・(i)
= qn* q(n-1) * … * q2 * q1 * a1/pn * p(n-1) * … * p2 * p1
これで、pn , qnの整数の性質を考えれば、n >= 3 でan が整数でなくなることは容易に示せる。
こちらのほうが計算ミスのリスクを回避でき、なおかつ賢く簡単に答えを求めることができる。
一般的にこのようにan/a(n-1)を最初に計算させる問題は(i)のような形にanを式変形して、数列{an}の性質を求めさせることがあるので、覚えておこう。
第三問(分野:ベクトル、定積分、極限 難易度:標準)
こちらも第二問と同様東大理系数学の標準的な問題となっている。
また、これは文系の数学の第四問に類似性がみられる。
この問題はまず、点Rの通過領域がどのような図形になるかしっかりと把握することがポイントである。
正しくベクトルを理解している人であれば、これは放物線をx軸正の向きに平行移動したときに得られる通過範囲であることがわかる。
ただ、ここでも注意しなければならないのが、kの値によってその図形の形はことなる。
つまり0< k < √2とk >= √2で場合わけが必要なのである。
ここを見落としてしまうとこの問題は完答できない。(片方しか極限が正しくでない.)
これさえ乗り越えればあとは面積を計算して、極限に飛ばすだけである。
どちらも有限確定値に収束する。
第四問(分野:微分法、極限 難易度:やや易)
こちらも青チャートにでてくるレベルの簡単な問題で、合格したいのであれば絶対に落とせない問題だ。
難易度ももちろんやや易で、第一問のように少し複雑な計算があるわけでもないので絶対に落とさないで欲しい。
文系にも枝問つきの同じ問題が出題されていたが、こんな問題枝問など必要ない。
見た瞬間にすぐに微分して、3次関数のただしグラフの形を把握することが必要だ。
また、どんなときに解が3つ存在するのか、条件にはあてはまるのはどんな時か正しく見極める必要がある。
そして、グラフの図示であるがa = 1で重解になっていることがポイントである。
しかし、この2点が素直にできてしまえば簡単に答えがでる。
なおかつこの2点も理系数学受験者であればできないとまずい。
この問題は必ず完答するようにしよう。
第五問(分野:複素数平面 難易度:やや難)
少し難しめの複素数平面の問題である。
複素数平面は僕が受験した2015年度から行列のかわりに新課程に含まれた分野である。
実際に東大の入試問題として登場したのは2016年度がはじめてであるが、2017年度もあわせて、3年連続出題されている。
2016年度、2017年度の複素数平面の問題は新課程に新しく含まれた分野ということでやや簡単目な問題となっていたが、今年の複素数平面の問題は結構骨の折れる問題となっている。
おそらく、今後は容赦なく複素数平面の難問が出されてもおかしくないと思われるので、苦手分野にせず、しっかりと対策しておくことが重要になってくる。
(1)については、標準的な複素数の問題といえよう。
まず、uをzで表すところが肝である。
これには色々なやり方が存在する。
複素数平面に慣れていない人は複素数平面を普通の座標平面に落として、考えるというやり方が一番簡単だろう。
他にも複素数平面の知識と図形的な性質を合わせて、uとzの関係式を導出するというやり方がある。
両者とも方法は色々ある。
後ほど説明するが、色々な予備校の解答速報を見てみると非常に参考になるだろう。
uをzで表せてしまえば、あとは複素数の公式を用いてwと|w + w~ + 1|/|w|を表すだけなので、ここにはそこまで解答の差異はみられない。(共役な複素数を便宜上w~で表した)
問題は(2)である。
この(2)もしっかりと複素数平面の理解がないと難しいだろう。
R(w)の軌跡を求めるのであるから、(1)で唐突に現れてた、|w + w~ + 1|/|w| = 2を使うのはしっかり理解しているひとにとっては自明であるが、複素数平面に慣れていない人はまずこの発想が思い浮かびにくいだろう。
|w + w~ + 1|/|w| = 2の意味をしっかり考えると、原点Oを焦点、直線x = 1/2を準線とする放物線の一部であることがわかる。(駿台の解答速報参照のこと)
また、wの偏角の範囲を決定することも慣れていない人にとってはやりにくい。
このように複素数平面の公式をがっつり使う問題になっていて、複素数平面慣れをしていない受験生は難しく感じただろう。
また、この分野は過去問は非常に少ないので十分演習を積むのが難しかったのではないかと思われる。
複素数平面の問題ががっつり出されていた昔の問題を25ヶ年などで解くだけでなく、他の大学の複素数平面の問題も解いておいて複素数平面の問題に慣れておくことが今後は重要になってくる。
第六問(分野:空間座標、体積 難易度:やや難)
理系の東大数学の近年のレベルからすると難易度はやや難である。
しかし、枝問の数が多いので完答は難しくとも、少しは手をだして欲しかった問題だ。
(1), (2)はなにより空間座標を正しく頭のなかでイメージすることが重要だ。
どのような図形になるか問題を読んだ時点で少なからずイメージして図示できないければならない。
これは、得意な人と苦手な人とでわかられるが、日頃から空間図形のイメージをしていないと難しいだろう。
また、空間座標をある軸に対して垂直な面で切った時どのようになるのか正しく把握する力も必要となってきる。
これは空間座標を取り扱う時の定石なので必ず訓練して入試に臨んで欲しい。
(3)については3つの集合の和集合に関する基本的な知識が要求された。
この体積は以下の公式を適用することがまず最初のステップである。
A∪B∪C = A + B + C – A∩B – B∩C – C∩A – A∩B∩C
このように集合という基本的な概念をわかっているかどうかちゃっかりこういうところで試すのが東大の入試問題らしいところである。
これさえわかってしまえばあとは(4)はSとTをもとめるだけなので、(3)までいってしまえば(4)は楽だったのではないかと思う。
いずれにせよ、空間座標をまずイメージする能力がないとこの問題は厳しいだろう。
空間の問題は2、3年に一度のペースで出題されている東大理系数学では頻出中に頻出なのでできるだけ訓練して受験に望みたいところだ。
各予備校の解答について
ここまで、2018年度東大数学(理系)の大問別解説をしてきた。
毎年、河合、東進、駿台の各予備校が解答速報を発表しているが、それらは問題によっては解法がかなり異なる場合もある。
そこで、ここでは2018年度東大数学(理系)の各予備校の解答速報を比べるとどうなのか大問別に徹底解説していく。
また、各予備校が発表している難易度を比べるとともに我々の難易度発表の根拠につしても述べていこう。
違う解法の研究をすることは数学力アップにもつながる。
各予備校のどこがどう違い、解法としてそれぞれどうなのか細かく把握していこう。
第一問
解説でも述べた通りあまり言及することのない簡単な問題であるがゆえ、解法はほぼ一つに定まっている。
なので、各予備校ともどれも微分して増減表を書き極限をもとめるという全く同じ解法を使っている。
また、3社ともやはり問題の難易度をやや易としている。
我々としても絶対完答しなければならない易しい問題であることから難易度はやや易とした。
第二問
(1)に関してはただ計算して既約分数であることに注意すればよいだけなので、どの予備校も解法は同じである。
ただ、先ほども述べたように(2)では解法が二つ存在する。
- 数列{an} がn>=4で減少列になることをつかんで1以上のanを順番に見ていくやり方
- an = an/a(n-1) * a(n-1)/a(n-2) * … * a3/a2 * a2/a1 * a1 = qn* q(n-1) * … * q2 * q1 * a1/pn * p(n-1) * … * p2 * p1を用いて、pnの整数の性質から求めるやり方
である。
東進と河合の別解にはこの前者のやり方が使われている。
駿台と河合の解答は後者のやり方が使われている。
後者のほうがどちらかというと複雑な計算を必要としないエレガントな解法といえるだろう。
難易度については、東進がやや難、河合と駿台が標準としている。
ほかの年度の数列、整数の問題と比較しても例年通りの標準的な難易度の問題だと思われるので、我々も河合や駿台と同じく難易度を標準とした。
第三問
第三問についても標準的な東大の問題であるため、いたって解法の差はみられなかった。
しっかりと場合わけを考えられていれば解法は一つに定まる。
これは文系の数学の解説記事でも書いたのであるが、一点だけ駿台と東進の解答には放物線が移動してできた図形をいきなり長方形と面積が等しいと何の根拠も説明せずに解説している。
たしかに、これは正しいのであるが、河合塾のようにy軸による積分で面積を求めるなどといった根拠説明が必要である。
減点されるまでは行かないと思うが、減点されるリスクを負いたくないのであればしっかりと説明すべき部分である。
難易度については、予備校3社ともに難易度を標準としている。
我々も例年と比べても標準的な難易度の問題であるとした。
第四問
これもまた理系にとってはサービス問題である。
予備校3社とも微分して増減表を書き求められている条件を導出したあとそれを図示するというやり方をとっている。
この問題も非常に簡単で解法が決まりきっているので当然どの予備校も解法は同じである。
難易度についても東進は易、駿台と河合がやや易としている。
問題の方針自体は簡単であるが、グラフの図示などが少々難しいとまではいわないが簡単ではないので我々はやや易としたが、東進が易と発表したほど簡単な問題であるということである。
第五問
この問題については、難問であるとともに解法が非常に多い問題となっている。
なのでどの予備校も解答が違っている。
まずは、駿台の解答から解説していく。
駿台の解答が一番複素数平面の知識を用いた標準的な解き方となっている。
特に、|w + w~ + 1|/|w| = 2の式の意味をしっかりと捉えているところがよく、おそらく東大側が一番求めていた解答ではないかと思われる。
それと正反対にあるのが東進の解答である。
東進の解答は複素数平面に慣れていない人でも理解しやすいように、できるだけ複素数平面を座標平面上に落として考えている。
複素数平面をあまりやってこなかった人はこちらの解法のほうが安全だろう。
そうはいっても、全てを座標平面上に落として考えることは難しいので、複素数の問題をしっかり対策しておくことが重要だ。
河合の解答は、(1)に関しては幾何学的な性質をかなり利用して様々な方法を用いて解いている。
これを見てもわかる通り、非常に別解が多い問題なのだ。
(2)の1番目の解答は東進の解答とほぼ同じである。
Rの軌跡に含まれる放物線の部分を特定するのに偏角を用いているのは駿台と類似している。
河合の(2)の二つめの解答はw = v^2とおくことでvの軌跡は直線となるので、考えやすくなるというものだ。
しかし、vが直線になるという発想は試験上で思い浮かびにくいので少し遠回りな解答ではないかと思われる。
このようにこの問題には解法がいくつもあり、どれも勉強になるものなので予備校の解答を実際に比べてみたり、他に別解がないか自分で考えてみるなどしてみると良い。
また、難易度については、東進と駿台はやや難、河合は難としている。
確かに複素数平面に慣れていないと難しく、そもそも複素数平面の過去問の問題数自体が少ないので対策しにくいだろう。
しかし、慣れていれば標準的な複素数平面の問題なので、他の歴代の難のついた問題と比較してそこまでは難しくないかと思われる。
なので、我々は難易度をやや難とした。
第六問
やや難しめの立体の問題であるが、3社とも解法に大きな差が見られなかった。
というのも、誘導がしっかりついているため、この問題は解法はほぼ一つしかないと思われる。
(1)については、y = tなる平面で切った時の図形の図示というありがちな問題だ。
どんな立体図形が与えられたとしても、どの平面で切られたとしても、その図形をすぐ図示できるよう日頃から訓練しておくことが重要だ。
また、(2)も、どの予備校も同じ解法を用いている。
(3)も同様に3つの集合の公式を用いて解いている。
(4)は(3)で導出した公式をそのままあてはめるだけでよい。
なので、このように細かい計算方法に違いは見られるかもしれないが、大まかな解法はほぼ一緒になる。
難易度については、3社とのもやや難としてる。
東大の中では標準的な立体の問題となっているが、立体図形に対して苦手意識を持っている受験生が多いこと、そうはいっても丁寧な誘導が付いていることなどを加味して、我々も難易度をやや難とした。
まとめ
以上、現役東大生による2018年度の東大数学(理系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめである。
今年は、2017年度がかなり簡単であったため、難易度も戻り標準的な難易度の問題となった。
また、やや易が二問、標準が二問、やや難が二問と六問同士の難易度のバランスもかなりよく、どの問題を先に解くべきか瞬時に判断できなければいけない問題となっている。
もちろん他の科目との兼ね合いもあるが、第一問、第四問、と第三問、第四問のいずれか一方は完答、理三であれば第三問、第四問の両方は完答していないと、合格は厳しくなる。
また、今回はかなり難易度の高い複素数平面の問題が出題された。
しっかり複素数平面の演習を積んでいなければこの手の問題は厳しかっただろう。
今後もこのような複素数平面の問題が容赦なく出題されてもおかしくないので、来年以降受験する人たちは複素数平面の対策を怠らないことが重要だ。