現時点で東京大学の受験を考えている人ならば、東京大学には理科1類・理科2類・理科3類の理系科類と、文科1類・文科2類・文科3類の文系科類がそれぞれ存在することはよく知っているだろう。
東京大学の入学試験はこの科類単位で分かれて実施される。
出願の時点でどの科類を受験するか決めて出さなければならないし、一度出願してしまうとその年の入学試験では他の科類を受験できなくなる。
入学試験の採点や合否判定も科類ごとにまちまちだ。
当然科類によって受け入れ定員は違うし、採点基準まで違うらしい。そして何より人気・難易度が変わってくる。
さすがに理系か文系かという選択は、各個人の得意不得意や将来設計によって決めるべきだろう。
しかし科類の選択となると、それ以外にも考えなければならないことがいろいろある。
科類の選択の上で特に考えなければならないのは、まず各科類がどの学問分野を専門に扱っているか、そして人気・合格難易度という点からの比較の2点であろう。
とはいえそれぞれの科類が何をやっているのかというのは、外部からだとなかなかわかりにくいだろう。
筆者自身も実際に入学して初めて、詳しい実情をやっと知ることができたくらいである。
そこで今回は、東京大学の受験を考えているがどの科類を受験するか決められない、これから志望科類を決めるという人たちに向けて、各科類の特徴を現役東大生の視点から詳しく解説していこう。
科類間の共通点・相違点
各科類の特徴の詳しい解説に入る前に、東京大学の6つの科類がどのような点で共通しており、どのような点で違っているのかを説明しておこう。
共通点
1つ目は、入学試験の形式・日程・問題である。
6つの科類全部がセンター試験と二次試験の二段階選抜を行い、科目の指定も理系・文系のそれぞれの中で統一されている。
二次試験では全ての科類の試験が同時刻に行われる。
二次試験の問題も同一の内容である。
理系・文系の間では国語や数学の分量と難易度がやや違ってくるが、理系の受験生は同じ理系向けの問題を、文系の受験生は同じ文系向けの問題を解かされる。
つまり東大理系の入試を見据えた対策をしていれば、理1・理2・理3のどれに出願しても通用するし、文系の場合も然りだ。
それでも合格難易度において差が生じるのは、出願者数や倍率が違ったり、採点基準が微妙に違ったり、そもそも出願者のレベルに差があったりするためであると考えられる。
2つ目は、1・2年生の間の授業内容である。
東京大学の1・2年生はまだどの専門学部にも属さず、教養学部の学生としてひとくくりにされる。
科類ごとに要求される単位数が変わってくるものの、それでも教養学部全体で合同の授業を受講することになる。
極端な話、文科1類の学生でも天文学の授業を取れるし、理科2類の学生でも法学の授業を取ることができる (と言うと自由な感じで聞こえはいいが、例えば文系の生徒が熱力学の授業を取るとなると相当な覚悟が必要だ)。
もっとマイルドな例としては、文科1類に所属していても経済学や心理学、言語学といった授業の単位を取る必要があるし、理系の科類でも第二外国語の単位をいくつか取らなければならない。
こういった点から、最初の2年間での学習内容はどの科類に行ってもさほど変わらないと言える。
3つ目は些細な点だが、通うキャンパスについてである。
どの科類の学生も、教養学部での2年間は駒場キャンパスに通うことになる。
実家生であれば家から遠い近いの問題は大きいと思うが、それを抜きにすると閑静な住宅街の真ん中にあり、繁華街渋谷が徒歩圏内の駒場キャンパスはなかなか便利で居心地が良い場所だ。
慶應大学などは学部によってキャンパスが違うので、それも考慮して学部を選ぶ必要があるかもしれないが、東京大学を受験する上ではその必要はないと言える。
相違点
こちらが本記事の本題となるわけだが、科類による相違点は主につ挙げられる。
何よりも重要な1つ目は、3・4年生で所属する学部・学科である。
2年生から3年生に上がる際に行われる進学振り分け、いわゆる「進振り」によって後期課程で進学する学部・学科が決まるわけだが、科類によってはほぼ全員が特定の学部に進学していたり、優先枠によって進学しやすい学部が決まっていたりするのである。
もし大学で学びたい学問分野が既に決まっているのであれば、その学部に進学しやすい科類を受験するのが間違いなく一番良いだろう。
2つ目もこれまた重要、ずばり合格難易度である。
前述したように科類によって受験者のレベルがやはり多少違ってくるから、合格がより難しい科類・より易しい科類というものが出てくる。
自信があれば難易度の高い科類に出せばよいし、なんでもいいからとにかく東大生になりたいと思っているのであれば難易度が低い科類を受験するべきだろう。
ちなみに進学振り分けではほんの一部の例外を除いて、どの科類からも全ての学部・科類へ進学することができる(そのためにとんでもなく高い成績が必要となることもあるが)。
そのため入学試験ではとりあえず難易度が低い科類に滑り込んでおき、入学してからめちゃくちゃに頑張って勉強して意中の学部・学科に進学することも不可能ではない。
とはいえハードルがまだ低い方の科類であっても東京大学であることには変わりないので、当然他の大学とは比べものにならないほど合格するのは難しい。
科類ごとの特徴
それでは6つの科類それぞれの特徴を、ちょっとした裏話の紹介も含めて解説していこう。
理科1類
東京大学の6つの科類の中で最も大所帯なのがこの理科1類で、なんと定員は1100人を超える。
枠が多い分倍率は例年2.5倍少々に留まり、他の科類と比べてもやや低くなっている。
しかし倍率が低いからと言って難易度が低いわけではなく、むしろ理科2類より高いというのが通説のようだ。
後期課程の進学先は工学部・理学部が主である。
物理学・化学といった高校生でも馴染みある分野から、情報工学・航空工学・都市工学・建築学などの大学ならではの分野まで幅広い選択肢がある。
ただしそれらの学科は得てしてブラックもいいところなので、進学にはかなりの覚悟が必要だ。
ほとんどの学生が院に進み、卒業後はエンジニアなどの専門職として一般企業に就職したり、大学や研究機関で研究を続けたりする。
理科一類というと、真面目に研究に打ち込む学生が多いイメージがある。
どちらかというと、華やかなキャンパスライフよりも自分の好きな勉強に没頭したいという人に向いているだろう。
女子の割合はダントツで低く、理科1類ドイツ語選択のクラスなどでは、女子が40人中1, 2人しかいないなんてこともざらだ。
理科2類
後期課程で農学部・薬学部を中心に進学する理科2類。
一見理科1類との区別がなかなかつかないが、将来的に生き物を扱うようになりがちなのが理科2類だと認識しておけば大丈夫だろう。
倍率は6つの科類の中で理科3類に次いで2番目に高いが、世間では理科1類と比べるとまだ難易度が低い方だと評価されている。
なぜそうなっているのかは筆者もよくわからない。
理系の例に漏れずほとんどの学生が院進し、卒業後は生物系の研究者や一般企業の専門職になる人が多い。
獣医や薬剤師も、ここ理科2類から獣医学科・薬学科に進むことで目指すことができる。
薬学部や理学部といった進学先はブラックで有名だが、一方で多くの学生が進学する農学部は理系の中では比較的平和な方であり、課外活動に精を出す選択肢も十分考えられる。
また農学部や薬学部は、研究室対抗のソフトボール大会やサッカー大会をやる学科が多いらしく、学科内の仲も良いようだ。
女子の割合は理系科類の中では一番高くなっている。
理科3類
他の科類のことはよく知らなくても、「理3」がいわゆる東京大学医学部にあたることは知っているという人も少なくないだろう。
泣く子も黙る日本最高峰の医学部、東京大学理科3類。
その合格難易度は天下の東大の中でも群を抜いている。
「進振り」での医学部の枠はほぼ全てが理科3類に割り当てられており、理科3類イコール医学部と捉えても差し支えないだろう。
センター試験で9割取るのは当たり前、他の科類からするともはや同じ大学の学生とは思えないような集団だ。
当然医学部の学生は東京大学の中でも一目置かれている。
しかも天は二物を与えるらしく、医学部で勉強しながらスポーツや音楽などの部活・サークルで活躍するようなエリートもたくさんいるのがすごい。
医師国家試験に受かって医師として社会に出る学生がほとんどだが、中でも臨床より研究により強いのが特徴のようだ。
ここにチャレンジするという勇者は、覚悟を持って受験に立ち向かわなければならないし、それでも合格するのはほんとうに難しい。
文科1類
文科1類の進学先はほとんどの場合で法学部である。
3年生からとんでもない分量の勉強に明け暮れ、最終的に司法試験を通過して法曹関係に進むのが基本のルートだ。
さらに文科1類→法学部→国家公務員というエリート街道も存在し、官庁への就職者が特に多い。
そんな文科1類は、昔から文系科類の中で一番難易度が高いと言われている。
現在ではその差は縮まってきているようだが、それでも文系最高峰なのは間違いないだろう。
文系の中でも賢く、努力家な学生が集まっている印象がある文科1類。
とはいえ課外活動と学業の両立を上手くこなしている人もたくさんいる。
最近では、とりあえず一番難しい文科1類に出願して無事合格・入学するも、「進振り」でやはり法律には興味が持てないと判断して後期教養学部などに進学するケースも増えているそうだ。
法学部に進むつもりならば悲惨な成績でもほぼ大丈夫なのだが、それに甘えていた結果留年の憂き目に遭う学生がかなりいたりする。
文科2類
文系の中でも経済学部に進みたいと考えているのであればこの科類になる。
経済学部に進学する学生がダントツに多く、他には後期教養学部・教育学部・理系の学部などに若干名が行く程度である。
ただし最近になって「進振り」の制度が変わり、成績がどんなに酷くてもエスカレーターで経済学部に上がれるという保証はなくなってしまったらしい。
合格難易度は文系科類の中で2番目であることが多いが、年によっては文科1類に追いついたり文科3類に追いつかれたりするため、予測は非常に難しい。
文科2類を語る上で欠かせないのが、学生のイケイケ感だ。
大学内では「文2はウェイ」というのが通説となっている。
特に文科2類スペイン語などは、華やかなサークルに所属して大学生活を謳歌している学生が多いイメージがある。
女子の割合も高く、いわゆるキラキラ系女子がたくさんいる。
就職先は官庁や外資系を含めた金融業界など、これまたエリートコースを行く人がとても多いのが特徴だ。
文科3類
文科3類の主な進学先は文学部だが、文学部で扱われる学問領域は非常に多岐に渡るため、「進振り」での選択肢が最も多いと言える科類だ。
文学部には歴史学科・文芸学科・言語学科・社会学科・心理学科など様々な学科が存在し、進学先として人気のある所から例年定員割れする所まで様々だ。
文科3類の中でも優秀な学生には、後期教養学部に進学して国際関係などを学ぶという道も開かれる。
また他にも教育学部への進学者や、思い切って理転して農学部へ行くも一定の割合で存在する。
一方で法学部・経済学部に進学するためには相当良い成績が必要であり、入学してからそれを目指すくらいなら初めから文科1類・文科2類に出願した方が無難である。
国家公務員や外資系などに進むエリートは少ないが、それでも多くの学生が銀行・製造・マスコミなどいろいろな業界の大手企業に就職している。
学生の雰囲気としては、趣味にのめりこむタイプの人が多く、かつ歴史や文学といった趣味を学科での研究対象にしている人もたくさんいる。
進路の選択肢が多いことを、自由に選べるから嬉しいと前向きに捉えるか、道が決まっていないから楽じゃないと捉えるかは人によるだろう。
まとめ
長々と書いてきたが、ここでの説明はあくまでも各科類の特徴を並べただけのものだし、結局は自分で後悔のないように出願先を決めないといけない。
科類を選ぶうえで一番重要視する要素は人によって全然違うだろう。
勉強できる分野、勉強に費やされる時間、合格難易度、学生の雰囲気、就職先など……
東京大学では「進振り」のお陰で、2年生から3年生へ上がる時に専門を選びなおせる。
だから出願の段階で全てが決まるというわけではない。
とはいえ、それぞれの科類の進学先として主要でない学科へ移るには、それ相応の成績を取るための努力が必要になるということをしっかり忠告しておこう。