東京大学の日本史は,形式や内容が独特かつ特徴的なので,特化した対策が必須となっている。
しかしその一方で,出題傾向はかなり一貫しており,頻出分野も明確なため,対策が立てやすいとも言える。
さて,2017年の東大日本史はどのような問題だったのだろうか。
本記事では,来年以降東大文系を受験する人たちに向けて,2017年東大日本史の問題を現役東大生の視点から解説していきたいと思う。
また参考に,駿台予備校・河合塾・東進ハイスクールの三大予備校の解答解説を比較し,まとめていくので,是非ともこれからの東大日本史対策に役立てて欲しい。
全体としての総評
2017年度の東大日本史は,従来通り4つの大問からなり,各大問は1行から4行までの論述問題2問からなっていた。
総記述量もほぼ例年と変わらず,よほどのことがない限り時間に困ることはないだろう。
問題の形式はいつも通り,おなじみの東大式を守ってきた。
第1問から第3問は3つから5つの参考文を載せて読み取りをさせる問題,第4問は年表を参照して考察させる問題であった。
総じてやはり,深くて広い基礎知識を活用しつつ,参考資料を読み取って得た情報をまとめていくという,東大日本史ならではの応用力が求められたと言える。
このような独特な東大の日本史に対処するためには,教科書や一問一答を駆使して知識をできるだけ吸収しつつ,論述の問題集や過去問を数多くこなすことで考察力を磨いていく必要がある。
この2つの要素のどちらか一方でもおろそかにすると,東大の日本史で高得点を取ることは難しくなってしまう。
また難易度に関しては,東大日本史としては標準レベルの問題から,高度な考察力と論述力が求められる歯ごたえのある問題までが満遍なく出題された。
一方で受験生なら誰もが知っているような知識だけで記述できる問題は,せいぜい1,2問程度であった。
以上から全体としては,やや難しかったと評価して差し支えないだろう。
しかしながらどの問題も,前述した知識と考察力の両者をしっかり持ち合わせていれば,決して歯が立たないものではない。
そういった意味では,受験生の総合的な「歴史の力」を測ることができる良問だったと言えよう。
第1問(分野:律令代から平安時代にかけての東北地方の情勢)
第1問は,律令代から平安時代にかけての東北地方の情勢が題材であった。
律令制は東大日本史の第1番で特によく出題されるテーマであり,今年もそれが第1問Aでバッチリ出た形である。
やはり東大日本史に挑む上では,律令制の完璧な理解は必須項目であると言えよう。
しかし今回はただの典型的な律令制に関する問題ではなく,地域を東北に限定することで変化をつけてきた。
例えば山川の「詳説日本史」では,p.40-41・p.51-52などに当時の東北に関する記述が載っている。
しかしここで厄介なのは,教科書には阿倍比羅夫や坂上田村麻呂などの東北統治について記述されているが,「誰が何をした」だけではこの論述は到底書けないということである。
東大日本史の論述では,特にHowとWhyに注意しなければ得点できないのだ。
はっきり言ってしまうと,このような問題は教科書の内容を丸暗記するだけでは,出題者の求める解答にはたどり着けないだろう。
つまりこの問題で大切なことは,5つの条件文をしっかり吟味し,そこから読み取れる情報を余さずに記述することである。
これが東大日本史の解き方の大きな特徴であり,醍醐味であるとも言える。
時には条件文の内容を要約して盛り込むだけで得点に結びついてしまったりするのが,東大日本史の面白いところである。
また2行の論述は書いてみると意外と制限内に収めるのが難しかったりするので,的確に要点を抑えて記述することが必要になってくる。
Bも東北に地域を限定した内容であったが,扱う時代の範囲が広く,書くべき内容を絞りにくい論述であった。
この問題でも例によって教科書の内容はあくまでも知識の下地にしかすぎず,記述を膨らませるためには条件文から必要事項を読み取っていく作業が大切である。
本問のように記述量が比較的多い論述では,下書きとしてマインドマップなどを書いてまとめてから記述に入ることを強くオススメする。
総じて第1問は,基本の知識だけでは解答できない,東大日本史らしい歯ごたえのある問題だったと言える。
第2問(分野:鎌倉幕府の西国支配)
第2問は,鎌倉幕府の特に西国支配に関する問題であった。
鎌倉幕府については,その統治機構の中でも西国方面との関係性が非常に狙われやすいテーマである。
逆に言えばこの問題は頻出であり,東大受験生ならしっかり書き切りたいところだ。
Aは条件文にほとんど手がかりがなく,教科書知識で記述して構わない問題である。
東大日本史では,教科書知識を問う問題と,条件文の読み取り能力を問う問題が混在しており,どちらにも対応できることが求められる。
今回の場合は承久の乱をきっかけとした西国支配の拡大について記述すればよい,簡単な典型問題である。
Bは一転して条件文の読み取りが非常に重要な問題である。
問題文のWhyについて的確に解答できたかどうかによって,とても大きな差がついた問題であると思われる。
この第二問のBでは,条件文の内容を要約するだけではなく,そこから関連する教科書知識のポイントを盛り込むことが必要となっている。
東大日本史では,このような教科書知識と条件文の読み取り能力の両方が必要となる問題がしばしば出題される。
これに対応できるようにするには,過去問の演習を通じた訓練が必要不可欠である。
第3問(分野:江戸時代の村・百姓)
第3問は江戸時代の村・百姓を題材とした問題だったが,今回は村請制度・年貢・諸産業といった頻出テーマから離れ,相続に関する4つの条件文から当時の女性の位置づけについて考察するというものであった。
Aはただ条件文を簡潔にまとめられるかどうか,その一点にかかっている問題であった。
このような問題で色気を出して知識をひけらかすと,逆に条件文の要点を記述しきれずに大きく失点してしまうことになるので注意が必要だ。
Bはまさに条件文を考察することが重要な問題であった。
「名前の書かれ方」から女性の立場を推測するというのは,もはや日本史の高校範囲を逸脱した専門的な課題であると言わざるを得ない。
それでも東大受験生は,条件文を頼りにして自分なりの考察を作り上げないといけないのである。
東大はこのような条件文の読み取り能力を問う問題によって,受験生の歴史的資料から考察を構築する力そのものを測っているのである。
この力は専門的に歴史学を学ぶ上で最も重要なもので,入学試験から既に本質的な歴史の素養が問われていると言っても過言ではない。
以上のように第3問は,知識だけでは片づけられない考察力が求められる,難易度の高い問題であったと言える。
東大受験生で日本史を得点源にしたいのであれば,このような高度な問題に対しても臆せず食らいついていける実力が必要なのである。
第4問(分野:近代史)
第4問は例年通り近代史からの出題であった。
今回は軍備をめぐる問題を通じて,内閣・政党・軍部などの関係について記述させる問題となっていた。
ここでとても重要な情報をお伝えしておこう。東大日本史の第4問では,近代史の知識そのものを問う論述がとても頻出なのである。
例えば2015年の第4問は,導入文がたった4行でほとんど手がかりとなる情報がなく,ただ自分の持ち合わせる知識を駆使して記述しなければならない。
2017年の第4問も同様の形式で,年表から読み取れるネタはあるものの,そこからそれなりの解答をひねり出すには,当時の出来事を的確に覚えている必要がある。
このように,東大の第4問を対策するためには,出来事のWhat・Who・Whenを確実に記憶することが一番効果的である。
なので近代史に関しては,一問一答を駆使して知識をストックしていくことを最優先にして欲しい。
ということで,本問はいわゆる「知識さえあれば書ける」論述であり,逆に知識があいまいだった受験生はほとんどなすすべがなかったのではないだろうか。
そういう意味では意外と差のつく問題だったとも言える。
各予備校の解答速報について
ここまで2017年度の東大日本史について,大問ごとに詳しく解説してきた。
ここでさらに,駿台予備校・河合塾・東進ハイスクールの三大予備校の解答と分析速報を,中立的な視点から比較・解説していきたいと思う。
是非とも一つの模範解答に固執せず,複数を参考にしてそれぞれの良い部分を取り入れることを忘れないで欲しい。
第1問について
Aについては,駿台・河合ともに「帝国」というキーワードを使い,ずばり簡潔に解答している。
一方で東進は「中央集権的政策」という部分に重きを置いていた。
このような60字程度の比較的短い記述では,要点を抑えて簡潔に述べることが重要であり,その点では駿台・河合の方が良くまとまっているように感じられる。
些細なことだが,記述の冒頭に「律令国家」と明記しているのも,問題文に適切に対応していて好印象だ。
Bについては,駿台と河合の模範解答のように,「東北地方に関する諸政策」と「その後の平安時代の展開」にきっぱり分けて記述するのが書きやすいやり方であろう。
東進の解答は参考文(4)を重要視したものとなっていたがやや冗長ぎみか。
河合の解答では「軍事貴族」というキーワードを使っているところも興味深い。
特に東大の日本史で注意して欲しいのは,参考文は余さず利用して解答の組み込まなければならないという点である。
それを顧みると,河合塾の模範解答が受験生の目指すべきところであると考えられる。
難易度評価は標準~やや難であった。
第2問について
Aについては,まず河合塾はなぜか「六波羅探題」というワードを使っておらず,このような冒険した解答は受験生にはオススメできない。
残りの駿台・東進は似たような解答だった。
Bについては,参考文の考察が重要な問題であるにも関わらず,駿台・河合・東進の3予備校の着地点は全く同じであった。
このことから,受験生の記述にもあまりブレはなかったのではないかと考えられる。
このような問題は差がつかないため,的外れなことを書くと非常に大きな痛手になりがちである。
難易度評価は標準であった。
第3問について
Aについては駿台・河合・東進の3予備校とも内容は全く同じであり,参考文から得られる解釈は一択であったことがわかる。
Bについては,それぞれの予備校の解答を読み比べるだけでこの問題が書きにくいものであったことがわかる。
というのも模範解答がバラエティに富んでいるからだ。
東進は解答の冒頭で「女性は男性より下位におかれ」と断言しているが,考察問題においてはこのような極論は控えた方が安全だろう。
また駿台は参考文から得られる情報に忠実な解答である一方,河合はそこから一歩踏み込んだ考察をしているが,これはこれでよくまとまっているように感じられる。
難易度評価は標準~やや難であった。
第4問について
Aについては,問題の聞き方が「政党政治にどのような影響を与えたのか」なので,それに適切に答えているのは河合・東進であると言える。
一方駿台は,二大政党時代という結論に帰着させるという独自路線の解答を出してきた。
だがここは,受験生の立場なら多数派を信頼して「政党の影響力の増大」というところに落ち着かせるべきであろう。
Bについては比較的基本的な問題であり,駿台・河合・東進の3予備校とも内容はほぼ同じであった。
しかし他で要点をちゃんと抑えられているのであれば,駿台のように「首相の狙撃」という知識ネタまで詰め込んでおくのもおもしろい。
難易度評価はやや易~標準であった。
まとめ
以上が、2017年の東大日本史の解説と、各予備校の解答速報の比較だ。
2017年の東大日本史は,例年に比べるとやや解きにくい問題が多かったように感じられる。
特に参考文を活用した深い考察が,しつこいほどに求められていた。
しかし難しくなったとはいえ,日本史ではやはり35点前後は最低でもキープしたいところだ。
もちろん日本史を得点源にしたい人は,40点を軽々とオーバーするくらいでアドバンテージを取っていきたい。
来年以降東大文系を受験する諸君には,東大日本史のレベルにしっかりついて行けるように,教科書・一問一答・論述問題集・過去問の全てを駆使して,知識と考察力の両面をこれでもかと強化していって欲しい。