東大の国語は難しい。
現代文では他大学では扱われない抽象的な文章も多く扱われるし、古文漢文も採点基準がいまいち読み取れず、実際の試験で「これは点が取れた」と思っていた学生でも、予想より点数がはるかに低いこともざらにある。
塾や予備校などでは、「国語なんかに時間を使うな!」「国語ではなく他の科目で差をつけるべき」と言われる。
実際、東大対策をするときに、国語を重視する人は少ない。
しかし、実際の入試結果はどうだろう?
東大の実際の入試では、1点どころかセンター圧縮の0.1点が合否の分かれ目となることも少なくない。
他の科目で大きく差をつけることがもしできたなら国語を気にせずとも合格はできるだろう。
でも、多くの人はそうではなく、わずか0.1点の差を争い、少しでも点数を稼ぐ必要があるはずだ。
そしてその差というのが最後に現れる科目、それこそが国語である。
もう一度言おう。
東大の国語は難しい。
でも、それを乗り越えることで、大きく合格に近づくはずだ。
この記事では、そんな東大国語(理系)の2017年度の全体的な総評と3問の個別の総評を行う。
また、多くの受験生が読むであろう大手予備校三校(河合、駿台、東進)について、その解答は時に鵜呑みにしてはいけないときもある。
そんな予備校の解答についてもこの記事で扱う。
この記事を読んで、これからの受験勉強に役立てよう。
全体の総評
今年度の理系国語の問題は、わずかに易化したといえる。
現代文では問題数自体は減少したものの傍線部が長くなり、その分深い読み取りが必要となった。
対照的に古文・漢文は基礎的な知識や語彙を問う問題が多く、特に古文については頻出である「源氏物語」から出題されたこともあって余裕をもって解答できた受験生も多かったと予想できる。
古文・漢文を早めに終わらせ、現代文にどれだけじっくり時間をかけられるか、が一つのキーポイントだった。
そのためにも古文・漢文の基礎知識を身に着けておくことは、東大入試を受けるうえで必須といえる。
第一問(現代文・評論 「芸術家たちの精神史」 難易度:やや難)
第一問は、京大文学部哲学科出身、京都工芸繊維大学の教授で哲学者の伊藤徹が書いた「芸術家たちの精神史」という本の一節が出題された。
哲学者の文章については2015年にも池上哲司の「傍らにあること――老いと介護の倫理学」が出題されており、傾向として大きな変化はなかった。
問題形式としては、「どういうことか」「なぜそう言えるのか」といった説明問題に加えて、(四)では本文全体の論旨をまとめさせる問題が出題された。
こちらも例年通りの出題傾向と言える。
ただし、分量については2016年が中問6つだったのに対して中問5つであり、問題数自体は減少した。
肝心の難易度についてだが、まず(一)については例年よりも傍線部の分量が多くなり、2016年度のように代名詞を言い換えることもないためある程度難しい問題であった。
(二)についてもテクノロジーについて抽象的な議論がなされている文章をまとめる必要があり、読解力だけでなく解答欄にまとめるだけの表現力も求められていたと考えられる。
難しいのが(三)で、傍線部の前だけでなく一見例の提示のように見える後の部分を見ながら回答を作成する必要があった。
(四)についても文章全体をまとめる必要があったため、例年同様時間がかかる作問だった。
(五)については漢字問題で難易度は例年通りだった。
少なくとも漢字については絶対とっておきたい問題で、そのほかの問題については満点を取るのは難しくともある程度部分点をとっておきたい範囲だ。
以上のように、今年の第一問は例年と比べて見かけの問題数は少ないものの、その難易度は難化したといえる。
とはいえ問われていること自体は例年通り「どういうことか」「なぜか」なので、読解力および東大対策をどのように行ってきたかが試されただろう。
第二問(古文 「源氏物語」 難易度:例年通り)
今年の古文は『源氏物語』の中でも玉鬘十帖と呼ばれるうちの一つ・真木柱巻からの出題だった。
序文においてある程度あらすじは説明されているものの、当然源氏物語全体の話の流れを知っている人、また該当箇所を読んだことがある人は有利な出題であった。
(一)の現代語訳については、傍線部アについては形容動詞「おろかなり」の意味について知っているかを問う問題でとっておきたい問題、傍線部イ・エについては「聞こゆ」「しのぶ」といった動詞の意味に加えて文脈を読み取る問題となっていた。
傍線部イ・エの問題については、文章の読解で躓いた場合は難しかったかもしれないが、それでも部分的には回答しておきたい。
(二)についてはかなり難しい問題だった。
主語は冷静に考えれば右近のことであろうとわかるが、全体を正確に訳すのはそれまでの部分について正確に読んでいる必要があり、難問であったといえるだろう。
一方(三)については比較的優しく、「好いたる人」が現代語での好きの意味でなく「好色な人」という意味でつかわれているところまでは押さえておきたいポイントである。
以上のように、古文は語彙の知識と文脈を読み取る読解力の両方が問われている問題だったといえる。
難易度としては、大筋を知っている人が多い源氏物語が出題されたこともあったが文章の読み取り自体は難解で、前年は和歌の意味を読み取る問題があることを考慮しても前年と同じ程度であったと言える。
第三問(漢文 「賢奕編」 難易度:やや易)
第三問・漢文はあまり有名でない作品からの出題となった。
作者の劉元卿は明代の教育者であるが、教科書の出典となったことはほぼなく、今回の出題によって初めて見たという受験生がほとんどだっただろう。
小問別にみていくと、(一)の現代語訳では主に文法事項についての知識が問われた。
普段あまり注意することのない「於」の意味などが問われ、難易度としてはやや難といったところだ。
(二)は三問の中では比較的簡単で、正解しておきたい問題だ。
(三)はそれまでの流れをくんで回答する必要があるものの、文章を落ち着いて読むことさえできれば回答にたどり着けたはずだ。
分量については昨年と比べて漢詩から文章という変化はあったものの、やや減少している。
以上より、第三問は全体的な難易度としてはやや易である。
無名の作者の問題であり、漢文の前提知識があまり使えなかったかもしれないが、落ち着いて解けば回答までたどり着けない問題ではなかった。
試験では常にどんな問題が出てもいいよう心構えをしておこう。
各予備校の解答について
ここまで、それぞれの問題についてみてきた。
しかし、受験生が各大学の問題と同様に当たり前に見るものとして、各予備校の解答があげられる。
解答は、確かに受験のプロである各予備校の講師が作成しているもので、ある程度は信頼できる。
しかし、時には難易度の評価が各予備校によってずれたり、解答の着眼点がずれていることも多くある。
ここではそんな各予備校の解答について解説していく。
受験勉強の参考にしてほしい。
第一問について
第一問については現代文の評論ということで、予備校ごとに解答もかなり差があった。
概観すれば、細部としては東進のほうが文意をくみ取った解答をしているが、文章を読んでみてわからないところがあった受験生には東進の解答を読んでもいまいちピンと来ない点もあるだろう。
一方で駿台・河合はある程度かみ砕いて書かれており、受験生は一度こちらを読んでみてから東進のものを読むとより深い理解につなげることが可能だ。
問題の難易度についてはどの予備校もある程度昨年より難化しているとしている。
第二問について
第二問は古文であり、各予備校で目立った変化はなかった。
ただし、反語の表現などについては駿台・河合のほうが東進よりも丁寧に回答されており、この点はこちらを採用したほうがいい。
難易度は難化と例年通りという評価に分かれたが、文章の難易度を重視したか、源氏物語が出題されたことによってある程度有利な受験生が出たことに着眼したか、という違いだろう。
第三問について
第三問は漢文であり、文章の読み取りには大差はなかったようだが、どこまでを解答に入れるかは評価が分かれるようだ。
具体的に言うと現代語訳の設問において駿台はあまり「霊力」のような単語を使わず、あくまで文法的な理解によって解答を作成している印象を受ける。
しかし、文章を読み取れるということを解答に盛り込むことを考えれば、やはりある程度文意に沿った解答を心がけるべきだ。
よって、漢文は河合・東進の解答を参考にするとよい。
難易度はどの予備校も易化という判定だった。
まとめ
東大理系国語の入試について解説した。
東大国語は、全くの初見で臨めば難しいが、ある程度コツをつかんでしまえば安定して高得点が狙える科目でもある。
今年の傾向でいえば、古文・漢文の基礎知識が重要といえる。
受験生には東大入試といえど、基礎知識をおろそかにせず勉強してほしい。