大学受験の最高峰と言われている東大では、一般的に数学も難しいと言われている。
しかし、近年東大数学は昔に比べてだんだん難易度が落ちている傾向にある。
また、問題によっても難易度にばらつきがある。
理系では難問もまだ含まれるものの昨年度はとうとう網羅系参考書にも乗っているような簡単な問題が出題された。
受験生はいったい本番でどの問題を落とさずしっかり解答できなければならないのだろうか?
また、駿台、河合、東進、代ゼミの4社が解答速報を出しているが、この解答も予備校によって違うこともある。
よって、この記事では、現役東大生による2020年度の東大数学(理系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめを発表する。
この記事で、2020年度の東大理系数学の全てがわかる。
特に来年、再来年東大を目指すであろう人は是非とも参考にしてほしい。
全体の総評
今年度の東大の理系の数学は文系同様に難化したといえる。
各問題の出題分野と難易度は以下のようになっている。
問題 | 分野 | 難易度 |
第一問 | 極限、不等式 | 標準 |
第二問 | 平面図形 | 標準 |
第三問 | 微分法、積分法 | 標準 |
第四問 | 数列、整式 | 難 |
第五問 | 空間図形、積分法 | 標準 |
第六問 | 二次曲線、三角関数 | やや難 |
標準的な問題が4つと難しい問題が2つとなっている。
近年1、2問は簡単な問題が含まれているのに今年度は一つも簡単な問題がないといってよい。
また、すぐ方針が決まる問題でも微積の計算がややこしかったりと全体として近年稀に見るほどこの6問の組み合わせはむずかしいだろう。
このセットであれば、標準の問題をできれば3問は取りたいところだ。
しかし、4完するのは時間的にもかなり難しいだろう。
2完であとは少々部分点をとっても他の教科次第では合格することも可能である。
また、内容的には、教育課程が変更されてから複素数平面は毎年出題されていたが、今年はその出題が無かったのが大きな特徴ともいえる。
第一問(分野:極限、不等式 難易度:標準)
この問題は難易度は標準としたが、難易度としては少し難に近めの標準問題である。
(1), (2)に関しては、 x -> ∞ のときを考えると自明なのだが、この発想が出てこないと解けないだろう。
また、この当たり前のことを証明するときに使うのが背理法である。
x -> ∞ のときに証明すべき題意を否定して、矛盾を導き出すことは思いついてしまえば簡単である。
(3)は(1), (2)の条件の元で、 a, b, c それぞれどのような値になるか絞って、不等式自体を同値変形したときに、必ず x > 0 となることを証明すればよい。
(1), (2)ができてしまえば(3)もできるうえ、発想が出てきにくいが出てしまえば一瞬で解けてしまうということを考えると、問題の難易度は標準が妥当である。
ただ、最初の発想があったかなかったかで、解けた人と解けなかった人がかなりはっきり別れた問題となった。
第二問(分野:平面図形 難易度:標準)
この問題は、理系数学としてはは、標準的な問題だ。
図形的に、点 X の通過範囲がどのような図形になるかということが考えることができれば、容易に解けただろう。
最悪、思いつけなくても、例えば A(0, 0), B(a, b), C(c, 0), X(x, y) として計算することができる。
かなり煩雑になるが、入試の現場での最終手段としてはわるくないと思う。
この問題は標準の4問の中では比較的解きやすい問題なので、あまり落としたくはない問題だ。
第三問(分野:微分法、積分法 難易度:標準)
この問題も東大数学としては標準的な微積の問題となっている。
解答の方針はすぐ立つので、あとは多少煩雑になる微積の計算をなんとかやりこなせば得点するのは難しくない問題である。
この問題のセットであれば絶対に落としたくない問題の一つだ。
(1), (2)は指示通り計算するだけなので、東大理系の受験生であればできて当然である。
(3)は(1), (2)でもとめた線分 OP の傾きと長さを元に P の概形を書くところで少し頭を使うかもしれない。
ただ、これさえ乗り切ってしまえばあとはただ積分計算するだけである。
この問題を落とすようでは正直合格は厳しいだろう。
第四問(分野:数列、整式 難易度:難)
この問題はかなり難しい問題だ。
こちらは、文系でも第四問として出題されているが、理系だからといって簡単な問題になるというわけではない。
この問題をみてすぐに解答が思い浮かぶ人はかなり少ないと思われる。
なので、他の問題が解けていない状況でこの問題について考え込んで時間を費やすのはかなりもったいない。
この問題の難しいところは、まず(1)で2の累乗の和を2乗したときの展開式を用いることができるかどうかということだ。
大学入試の数学の中でよく使う解法でもないので、かなり思いつきにくい。
また、(2)も fn(x) を整式の積の形で表すという発想がなければ難しい。
(3)は正直あとは(2)の答えの整式の最高次の項の係数比較でなんとかなるので、(2)まで解けてしまえば(3)を解くのは用意でろう。
しかし、(1), (2)が如何せん思いつきにくいのでこの問題は飛ばしてほかの問題に時間を割くというのが賢明である。
第五問(分野:空間図形、積分法 難易度:標準)
この問題も東大理系数学らしい標準的な求積の問題である。
まず、(1)では T の形がイメージできるかどうかがかなり大切になる。
イメージできてしまえば答えを出すのは簡単だろう。
仮にイメージできなくとも、少々面倒だが、第二問のように、パラメーターを設定してベクトルを用いて図示することもできる。
(2)が少々難しかっただろうが、z = 一定 なる平面で切った時の切り口を正しく導き出せるかがポイントだ。
これさえできてしまえば、あとは積分するだけなので、切り口の形を正しく求められるかがこの問題の大きなポイントとなっただろう。
昨年度までの簡単な問題では、最高難易度の求積問題レベルであるが、今年の6問の組み合わせではこの問題も決して落としたくはない。
第六問(分野:二次曲線、三角関数 難易度:やや難)
こちらは、(1)については、さほど難しくはない。
なので、最初微分しようと思う人もいるかも知れないが、微分したところで、 sin が cos になるだけであまり意味がないということがわかるだろう。
与えられた方程式を見ると、 Asinθ と sin(θ – α) との大小関係で、解が決まってくる。
なので、微分よりもむしろ、適当な値を代入して、Asinθ と sin(θ – α) との大小関係を用いて、中間値の定理により解の個数を求めるのだとわかる。
α の正負によって、最後の解の位置が異なってくるので、その場合分けを忘れないことに注意が必要だが、概ね中間値の定理で証明ができるので、しっかり勉強した人であれば、(1)を取ることは難しくなかったのではないだろうか?
(2)については、問題文の条件が長く複雑なので、まず何を言っているのかわからないという人が多かったのではないだろうか?
まず、何が4個あるのかというと、これは「楕円 C 上の点 Q が4つ存在する。」という条件だ。
そして、接線と直線 PQ について長ったらしく書かれているが、直線 PQ とは点Qにおける、楕円 C の法線である。
なので、言い換えると、
領域 D 内の点 P と楕円 C 上の点 Q とを結んだ直線が、楕円 C の法線となるような点 Q が4つ存在する。
ということになる。
そして、点 P は領域 D 内の点なので
楕円 C 上の点 Q における法線が領域 D と一部を共有するような点 Q が4つ存在する。
ということである。
ここまでたどり着いてしまえば、あとは標準的な問題になる。
しかし、かなり余裕を持って解ける人でないと、他に標準的な問題もある中で、実際の試験でここまでたどり着くのは難しいだろう。
ここからは、点 P と媒介変数表示で表した点 Q において、その方向ベクトルが、法線の方向ベクトルと一致するという条件式を立式するのである。
そうすると、(1)と似た方程式が出てくるので、ここからは(1)を用いれば大丈夫だ。
ただ、(1)は A > 1 のときに4個あるということしか証明されていないので、 A > 1 であることと解が4個存在することは必要十分条件であるということをしっかりと(2)で示すことが必要だろう。
各予備校の解答について
ここまで各大問の解説を行ってきた。
実は、毎年駿台、河合、東進、代ゼミが解答速報を行うのであるが、これらの解答が問題によっては違う場合がある。
異なる解法を分析していくのは、数学の勉強に非常に役立つことである。
ただ、誠に申し訳ないことであるが、執筆時期が遅くなり、上記の4社のうち2社しか閲覧ができない状態になっている。
そこで、ここでは、現在閲覧可能な河合、東進の予備校2社の解答速報の比較を行う。
2社の解答速報を見比べて、違う視点を勉強したり、一番妥当な解法はどれか考えてみてほしい。
第一問
表現方法は多少異なるものの、2社とも同じように(1), (2)は背理法で解いている。
(3)も基本的に両者の解法に差はない。
河合には、別解が載っているが、これも東進と河合の正規の内容と本質的にはあまり違いはない。
難易度については、両者とも標準としている。
限りなく x が大きくなったときにどのようになるのか、考えれば、当たり前のことなので、背理法を使おうという発想になる。
そこさえクリアーしていればさっと解けてしまうので我々も難易度を標準とした。
第二問
東進と河合の正規の解答は、ほとんど同じようなもので、点 X が外部にあることを確かめた後、その位置によって場合わけすることで、 点 X の通過領域を求めている。
河合はこの他に、ベクトル方程式を使った別解を掲載するとともに、座標の △ABC を設定した別解も可能であると言及している。
感覚的に形が想像できない人は、座標平面を使ってやるしかないので、受験生や高校生の皆さんで余力がある人は、座標平面においた解答も自分で作ってみると良い。
難易度については、東進、河合ともに標準とした。
多少感覚があれば早く解くことができるが、座標を使っても解けなければいけない点を考えて、ここでも標準にした。
第三問
この問題も、両者の解答にあまり違いはない。
強いて言うなら、東進は(2)において、 1/2{f(x)}^2 計算することによって、微分したときに整関数になるように工夫している。
普通に解いたとしてもたいしたことはないだろう。
難易度については、東進はやや易、河合は標準としている。
解答の方針はかなり簡単にたつが、多少計算力が必要な点を考慮して、我々は標準とした。
第四問
この問題は、河合、東進ともに解答の内容はほぼ同じである。
解き方もこの方法で解くのが概ね正攻法だ。
ただ、この問題もかなり難しいので、解けなかったとしてもあまり気にする必要はない。
難易度は、河合、東進ともにやや難とした。
ただ、この問題発想がかなりしにくいので、我々はこの問題を難とした。
第五問
東進は、(1)を感覚的に導いていて、幾何学的な根拠があまりない。
それに対して、河合は、幾何学的な根拠をしっかりと示して答えを導出している。
どちらがよいかといえば、河合の答案だが、実際の試験では、ここまで記述している余裕はないと思われるので、東進ほどの答案でも十分点数がくるだろう。
また、(2)に関しても、河合はしっかりと数式で z = 一定 の切り口がどのようになるのか求めている。
それに対して、東進は、断面がどのようになるのか、それぞれの図形の動き方を図からイメージしながら書いている。
こちらも河合ほど記述に時間をかけるのは、現実的ではないので、東進の記述量でも点数は十分取ることができるであろう。
東大の問題には、形が想像できず1から式を使って全て計算していかなければいけない求積問題も確かに存在する。
しかし、今回のように形が想像しやすい場合はイメージを使って解いた方が、時間の短縮につながる。
難易度は河合がやや難、東進が標準である。
他の東大の求積問題と比べると形がイメージしやすいことを考慮して、ここでは標準とした。
第六問
(1)に関しては、東進も河合も中間値の定理を用いて答えている。
両者ともしっかりと f(x) の連続性に言及して、しっかりと「中間値の定理より」という言葉を使っている。
この記述は、高校生、受験生が忘れやすいポイントなので、注意しよう。
(2)については、河合が法線の方程式を導出してから、そこに点 P の座標を代入しているのに対して、東進は (法線の方向ベクトルと接線の方向ベクトルの内積) = 0 を用いて立式している。
立式は、複数やり方があるので、どのようにやってもよいだろう。
立式以降の解き方は両者とも同じである。
東進と河合の解答のように、 r > 1/2 の場合についてしっかり言及しておくのが重要である。
難易度については、河合、東進ともにやや難としている。
(2)の問題文の条件を理解するのが、人によっては難しいと思われるので、ここでの難易度もやや難とした。
まとめ
以上、現役東大生による2020年度の東大数学(理系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめだ。
今回の問題は、簡単な問題がなかったという点で、合格点を取るのが少し大変だっただろう。
しかし、実力さえあれば逆に3完はしたいところだ。
こちらで示した、標準的な問題を計算ミスなく最後まで解き切る力というのがないよりも大切なのである。
過去問演習でも、落としたくない問題でしっかり落とさない計算力を身につけるように心がけよう。