大学受験の最高峰と言われている東大では、一般的に数学も難しいと言われている。
しかし、近年東大数学は昔に比べてだんだん難易度が落ちている傾向にある。
特に文系の数学ではその傾向が顕著である。
また、問題によっても難易度にばらつきがある年もあれば、全て標準的な難易度の年もある。
受験生はいったい本番でどの問題を落とさずしっかり解答できなければならないのだろうか?
また、駿台、河合、東進、代ゼミの4社が解答速報を出しているが、この解答も予備校によって違うこともある。
よって、この記事では、現役東大生による2020年度の東大数学(文系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめを発表する。
この記事で、2020年度の東大文系数学の全てがわかる。
特に来年、再来年東大を目指すであろう人は是非とも参考にしてほしい。
全体の総評
ここでは、まず2020年度の東大文系数学を各問題の分野と難易度を比較しながら総評を行う。
今年の東大文系数学はかなりはっきり難化したといっていい。
以下に記すのは、今年の文系数学の分野と難易度である。
問題 | 分野 | 難易度 |
第一問 | 微分法 | 標準 |
第二問 | 場合の数 | やや難 |
第三問 | 図形と方程式 | 標準 |
第四問 | 数列、整式 | 難 |
2017年度は「やや易」の問題が二問、「標準」の問題が二問、2018年度、2019年度は四問とも「標準」となっているということを考えるとかなりはっきり難化している。
標準を超える難易度の問題が出題されたのはかなり久しぶりのことである。
なので、受験生は「標準」の第一問と第三問を絶対に落としてはいけない。
この第一問と第三問は問題を見た瞬間にしっかり勉強している人は、解法が思い浮かぶ問題となっているので、これを落とすと合格からかなり遠のいてしまう。
また、第二問は難しい問題だが、絶対解けないということはない。
ただ、場合を数える段階で間違えやすい箇所があるので多くの受験生は正しく最後まで答えを出し切ることは難しかったように思える。
また、第四問に関しては近年類を見ないほどの難易度で、おそらくほとんどの受験生が(1)から解けなかったのではないかと思う。
よって、第一問、第三問は必ず得点したいとことだ。
第一問(分野:微分法 難易度:標準)
第一問は文系数学としては標準的な問題だ。
まず、三次の項の係数が1ゆえにこの三次方程式のグラフの概形はだいたい想像がついていないといけない。
なので、このグラフが極小となるところで、x軸に接する必要があるということがわかる。
ここから、微分して極小値を求めようということになるのである。
結局微分して、(導関数)= 0の方程式を解くと、x = 0, x = 2aでそれぞれ極大、極小になることがわかるので、
f(2a) = 0からbをaの式で表すことができる。(この問題においてy = f(x)と定義した上で)
あとは、グラフの決まっている形から、唯一Cとx軸で囲まれた領域に入りうる格子点が(0, 1)であるということがわかり、
f(0)が1より大きく2以下であるという条件からaの範囲が求められる。
この際2点ほど注意が必要である。
今回議論している領域は境界線含まないので、f(0)が1以上2未満であるとしてはいけないということである。
また、このとき(1, 1), (-1, 1)もこの領域に入り得ないということをきちんと議論する必要がある。
これがないとおそらく減点対象になってしまう。(答えの十分性のチェックである。)
第二問(分野:場合の数 難易度:やや難)
この問題は、だいたいの解答の方針はたった受験生が多いと思う。
しかし、この問題はしっかり数え上げないと、適さない場合まで含めてしまったり、重複して数えてしまったりしてしまうことがあり、間違えやすい問題だ。
このようなことから難易度は「やや難」とした。
(1)については、多くの人が、2直線が二つともxもしくはy軸に並行のとき、もしくはx軸またはy軸に並行な直線が1つずつのときと3つに場合わけをしたことだと思う。
このそれぞれの場合について数える時、単に残りの点から5つ選ぶとしてしまうと、間違えになる。
なぜならば、その中でももう1直線つまり3つの直線を通らない場合も存在する。
この場合を引き忘れると正しい答えがでないので注意が必要だ。
次に(2)であるが、これも(1)と比べてむずかしいかというとそうではない。
まず全ての直線に対して、同じ直線を2つの点が通る場合が存在するということをわかっていることが重要である。
あとは、具体的に点の配置がどのようになるか考えて、場合わけすれば(2)はそこまで難しくはない。
数え間違いがないよう丁寧に場合わけして、計算することができるかどうかみる問題となった。
第三問(分野:図形と方程式 難易度:標準)
この問題も文系数学としては標準的な難易度の問題である。
図形的に考えれば、(1)の求める領域は、原点を通る与えられた放物線の接線の第一象限の部分とy軸の正の部分に挟まれた領域であるということは、容易に想像がつく。
しかし、これができなくても計算によっても求めることができる。(代ゼミの解答速報を参照のこと。)
(2)については少し考え込んだ受験生もいるかもしれないが、このような正三角形が存在するためには、C上のある点を 右もしくは左に原点を中心にπ/3回転させた点が(1)で求めた領域に入っているということである。
つまりは(1)の領域を右もしくは左に原点を中心としてπ/3だけ回転させた領域が求める領域となるのだ。
ここまで考えられるとあとは簡単である。
(2)は少々ひねりが必要だが、しっかり勉強していきた受験生はこれくらいは思いついて欲しい。
第四問(分野:数列、整式 難易度:難)
この問題はかなり難しい問題だ。
近年の文系の数学の中では最も難しい問題だといってもいい。
この問題をみてすぐに解答が思い浮かぶ人はかなり少ないと思われる。
なので、他の問題が解けていない状況でこの問題について考え込んで時間を費やすのはかなりもったいない。
この問題の難しいところは、まず(1)で2の累乗の和を2乗したときの展開式を用いることができるかどうかということだ。
大学入試の数学の中でよく使う解法でもないので、かなり思いつきにくい。
また、(2)もfn(x)を整式の積の形で表すという発想がなければ難しい。
(3)は正直あとは(2)の答えの整式の最高次の項の係数比較でなんとかなるので、(2)まで解けてしまえば(3)を解くのは用意でろう。
しかし、(1), (2)が如何せん思いつきにくいのでこの問題は飛ばしてほかの問題に時間を割くというのが賢明である。
各予備校の解答について
ここまで各大問の解説を行ってきた。
実は、毎年駿台、河合、東進、代ゼミが解答速報を行うのであるが、これらの解答が問題によっては違う場合がある。
異なる解法を分析していくのは、数学の勉強に非常に役立つことである。
よって、ここでは、駿台、河合、東進に加えて今年は代ゼミの予備校4社の解答速報の比較を行う。
4社の解答速報を見比べて、違う視点を勉強したり、一番妥当な解法はどれか考えてみてほしい
第一問
予備校4社とも、Cがx軸で接するという、条件1をa, bの条件に置き換える手法は同じである。
河合はやや丁寧に議論をしているが、受験生には三次関数程度のグラフの概形はすぐに想像がつくので、微分して、増減表を書いた上で、いきなり、極小となるところでx軸に接するとしてよい。
しかし、条件2の議論では、東進、河合と代ゼミ、駿台都で大きく分かれた。
まず必要十分性の議論がかなり丁寧になされているのは、河合と東進だ。
両者とも格子点が与えられた領域にちょうど一個存在するのであればそれが(1, 0)であって他の点でないことをきちんと議論している。
代ゼミも 1 < f(0) ≦ 2が必要であるということに言及したのちに、この条件のもとで他の格子点が含まれないことの十分性の確認を行った。
受験生の場合は実際に時間を計っていて、他の問題とのバランスもあるので、東進や河合のような厳密な答案はかけなくとも、最低限代ゼミのような答案は記述したい。
駿台は十分性の説明がやや丁寧でない。
2a ≦ 2より、直線 x = 1の一部が領域に含まれることを言及してから、f(1) < 1をしめしたい。
第二問
(1)は予備校4社とも2直線が(i)x軸に平行、(ii)y軸に平行、と(iii)x軸、y軸に平行なもの1つずつと3つの場合に分けている。
(代ゼミは(i), (ii)をまとめているが、大差はない。)
東進と河合はその後、それらの直線上の点以外の点から5つ点を選び、そこからさらに、もう1直線点がない場合を引いている。
駿台と代ゼミは(i), (ii)においてのみ最初から、残りの直線にすべて点が配置されるような点の選び方を先に考えている 。
中身は多少異なっても、特に4社とも大きな違いは見られない。
(2)では東進、河合、駿台と代ゼミで大きく解法が異なった。
東進、河合、駿台では、条件を満たすためには、x軸に平行、もしくはy軸に平行な直線どちらか4本に注目したときに、直線状に2点、点が存在する直線が1つだけ存在することに着目している。
その組み合わせを考えた後は、その2点を固定して他の3点の配置を考えることによって答えを導き出している。
代ゼミは、余事象を考えることによって答えを導き出した。
個人的には、余事象を考える場合、余事象を考えた方が簡単になるときが有効だが、この場合は逆に帰って計算量が少し増してしまう。
東進、河合、駿台のような解法で試験では解いていくのが良いだろう。
しかし、場合の数や確率の問題は色々な数え方があるので別解も当然数多く存在する場合が多い。
別解も勉強になるので、両方の解法を勉強しておくとよいだろう。
第三問
まず、(1)では、解き方は河合、駿台、東進と、代ゼミで大きく分かれた。
河合、駿台、東進はともに、半直線OPの動きに注目して、図形的に解いている。
東進では、特に記述はなかったかが、駿台と河合は原点を通る直線がCの接線になるときの方程式をしっかりと導出している。
代ゼミは、C上の点のx座標をパラーメーターpとして設定し、pを用いて、半直線OPを表した。
その後に、パラーメーターpの存在条件を解いて求めている。
どちらで解いても構わないが、試験の場ではより短時間で解ける図形的な解答の方が好ましい。
ただ、東進は少し記述を省略しすぎているので、図形的に求めるのであれば、半直線OPの動きと、接線の方程式の導出過程は記述したほうがよい。
(2)では、4社とも(1)で求めた領域を±π/3回転させた領域が求める領域であるという方針には変わりない。
ただ、回転したあとのaの範囲の導出の計算過程に多少の違いは見られた。
河合、駿台、代ゼミは、tanの加法定理を利用した。
東進と河合の別解では別の方法で解いている。
しかし、文系が回転を扱う際はtanの加法定理が一番思いつきやすいだろう。
他にも複素数平面に落として回転させたり、行列の一次変換を使うという手段もあるが、どちらも文系にとっては高校範囲外である。
第四問
(1)は東進、駿台、代ゼミでは、(2^0 + 2^1 + … + 2^(n – 1))^2の展開を利用することにより導出している。
河合は 2^0(2^1 + 2^2 + … + 2^(n – 1 )) + 2^1(2^2 + 2^3 + … + 2^(n – 1 )) + … + 2^(n – 2) 2^(n – 1)をシグマを用いて表すことにより求めている。
(2),(3)は予備校4社ともどの解答も特に大きな方針の違いはなかった。
やはりfn(x) を整式の積の形に直して議論を進めていかないとこの問題は(3)まで解くことは難しい。
この形さえ思いついてしまえば、あとは(3)まですんなり解けたのだがいずれにしてもかなりの難問である。
河合の別解はa(n + 1, k + 1)の導出に着目することによって、(2)を解いている。
この解答でも問題がないが、少々記述量が多くなってしまうのと、流石に試験時間内にそれを記述しきるのは難しいだろう。
しかし、勉強にはなるので、来年度以降東大の受験を考えている人は、しっかり読んでみると良い。
まとめ
以上が、現役東大生による2020年度の東大数学(文系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめだ。
今年の問題は近年では稀に見るほど難問揃いの問題だ。
また、簡単に解ける問題というのも存在しなかったのが特徴だ。
しかし、ここまで難しい問題が含まれると必然的に取らなければならない問題が明らかになる。
今回の場合は絶対に第一問と第三問は落としたくないところだ。
結局のところ難しい問題は含まれるが、冷静にどの問題が解きやすいか選別して、その問題を確実に時間内に解き切ることができれば、文系といえども東大数学で苦労することはない。
また、文系でも数学ができればかなり得点源になる。
今後東大を志望している高校生、受験生には、是非、文系だからといって油断せずにしっかり勉強してほしい。