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2019年度東大国語(理系)解答速報の比較と解説まとめ

東大の2次試験では、全受験生が国語を最初に受験する。最初に受験する科目だからこそその後の精神状態への影響も大きい。

一方で東大受験において、国語が重要視されることは少ない。採点基準がはっきりせず、どのような解答を書けば良いのかも分からない。

どれだけ勉強しても自分と相性の悪い文章が出題されれば、良い解答が書けないこともある。だからこそ、「国語よりも英語や数学に時間を割くべき」と言われるのだろう。

 

しかし実際はどうだろうか。0.1点で合否が分かれる東大入試において、国語が合否を分ける結果になることも少なくない。

ある設問において、迷った末に選んだ解答の方向性が間違っていた、漢字の解答を間違えた、などである。

今年もそんな東大の国語入試問題の解説と、各予備校の解答速報の比較をして分析をしていく。受験生が勉強をする際の参考となり、力を伸ばす一助になれば幸いである。

目次

総評

全体としてみると、今年の国語の難易度は昨年並みといえる。

第一問の評論は、文章がさほど難しくはない分、解答での正確な記述が求められる。

第二問の古文は、本文自体は読みやすかったが、例年通り解答を簡潔にまとめる力が重要である。

第三問の漢文は、本文の正確な読解ができたかが鍵を握ったと思われる。

第一問(現代文・評論「科学と非科学のはざまで」 難易度:標準)

本文は神戸大学大学院農学研究科教授の筆者が、無秩序な世界に秩序を与える科学について論じたものであった。

本文中に出てきた「カオス」や「エントロピー」といった物理で用いられる言葉を始め、随所に物理学を感じさせる表現も見られた。

受験生の中には、こうした言葉に馴染みがない者もおり、少し文章が読みづらかったかもしれない。

こうした知識があると文章が頭に入りやすいなど、読解の助けになることもあるので、教養を深めることを日頃から怠らないようにしたい。

しかし、こうした言葉についての知識がそれほどなくても、文章の論理構造を読み取ることはそれほど難しくなかったのではないか。

問題数も、2017年・2018年と同じく5問と、1問減少した2017年以来の形式が続いているため、時間的にもそれなりに余裕はあったと思われる。

小問ごとにみていくと、まず(一)は、「どういうことか」という問いではあるが、傍線部の次の文が「何故なら」から始まるように、生物の営みが例外的である理由を考えつつ説明していく必要がある。

(二)は、傍線部外ではあるが、傍線部を含む文全体を主語が「生命」であることに注意して解答を書く必要がある。「複雑で動的な」という部分について第六段落から第八段落までを踏まえて書けば良い。

(三)は、やや易しめの問題である。傍線部前後の内容から、解答に使える表現を用いつつ説明すればよい。解答では、「『形』が生まれる」、「福音」といった比喩的な表現は言い換える必要があることに注意する。

(四)の120字で書く問題は、例年そうであるが、本文全体の趣旨を踏まえる必要があり、本文中の言葉による言い換えだけでは説明できない。今回は「いろんな『形』、多様性」を正確に説明する必要があった。

(五)は、例年通り、漢字3問の出題だった。代替(だいたい)は、近年「だいがえ」といった別の読み方も許容されつつあるが、東大の漢字の出題においては辞書的に最も正しい読み方で出題されるので、漢字の学習の際は気をつけるようにしたい。

第二問(古文『俳諧世説』 難易度:易)

江戸時代に書かれた文章であることもあり、本文は読みやすく多くの受験生が本文の内容は理解できたものと思われる。

そのため、ここでのミスは大きなダメージになりかねない。正確な記述を心がけるようにしたい。

(一)の現代語訳は ア では「うるさし」の訳、 オ では「あらはる」の訳がポイントであり、これらの単語の訳を覚えていた受験生は迷わず解答できたと思われるが、万が一訳を知らなかったとしても文脈から推測することが十分可能だったと思われる。ここでの失点は避けたいところだ。

(二)も易しめの問題。丁寧に「妻」、「猫」といった言葉を補いつつ解答するようにしたい。

(三)、(四)は、本文の内容がつかめていれば解答の方向性で迷うことはない。

本文の内容が易しめだったことに加えて、設問も解答の圧縮に苦労するような問題がなく、答えやすい問題が多かったため、難易度としては易しかったと言える。繰り返すが、ここでの失点は大きなダメージにつながるので最少失点で切り抜けたい。

第三問(漢文『明夷待訪録』 難易度:やや難)

作者黄宗羲や『明夷待訪録』は世界史選択者にとっては聞き覚えのある単語かもしれない。

黄宗羲は明末清初の思想家であり、『明夷待訪録』は皇帝専制政治を批判する政治論として有名である。

(一)は現代語訳であるが、a・d については訓読ができたかどうかで訳せたかも決まってきただろう。a は「僅(わづ)かに此れのみならざる」、c は「与(あづか)る無き」と読む。d は文脈や「在野」といった言葉から連想したい。

(二)で出てきた重要句法である「不敢~」は、「決して~しない、進んで~しない」の意味。また「自」はこの場合「みづから」と読む。この2点を抑えていれば解答を出すことができる。

(三)は、やや難易度が高い。まず設問にある「亦」のニュアンスを知っていなければならない。漢文で「また」と読むものは「亦」「又」「復」などがあるが、それぞれニュアンスが違うので、覚えていなかった受験生はこれを機に覚えておきたい。ちなみに「亦」は「~も同様に」という意味である。学校の役割であった「養士」と「公其非是」のうち、「後者が失われてしまっただけでなく、前者も失われてしまった」ことを書けば良い。

各予備校の解答比較

ここまで各設問についてみてきた。

問題そのものについて考えることも重要であるが、各予備校が解答速報として出している解答を見比べることも効果的な勉強である。

それぞれの解答の違いに着目し、どの解答が良いかを考えることで自分の解答をより良くしていくために各予備校の解答を活用していってほしい。

今回は受験生がよく目にするであろう河合塾・駿台・東進・代々木ゼミナールの解答を比べていく。

第一問

現代文では予備校間の解答の差が出やすいため、1問ずつ丁寧に見ていきたい。

(一)各社とも方向性はほぼ同じであり、「無秩序へと向かう自然界で、『形あるもの』を生み出していく生命は特殊」という大枠は共通している。

しかし東進の解答では主語が示されておらず、傍線部外にある主語「生物の営みは」の要素を解答に盛り込んだほうが良いと感じる。

また、駿台の解答では、自然界の説明を冒頭に置き、その後に生命のあり方について述べたほうが解答としてすっきりすると思われる。

言い換えの点では、「形」という言葉をどこまで使ってよいかも議論の余地がある。

河合塾は「秩序を新たに生み出す」、駿台は「形を作り続ける」、東進は「秩序ある形として生み出す」、代ゼミは「形あるものを作る」としているが、河合塾のように一般的な言葉で置き換えるか、東進のように一般的な言葉で説明しつつ使うのが望ましい。

本文で「形」と再三一般的な意味とは少し違うニュアンスで使われている言葉を、駿台のようにそのまま使うのはできるだけ避けるべきであろう。

 

(二)今回も東進の解答には主語の「生命は」が示されていないが、減点を避ける意味でも解答に含めるのがベターだろう。

河合塾と東進の解答は、第六・七両段落の「分子」の偶発性と「進化」の方向性の両方に触れている点が良い。

一方で代ゼミの解答は第七段落の「進化」の方向性の要素にしか触れていない。駿台の解答も第六段落の内容が中心で、記述も本文の言葉とは違う言い回しをしている。

受験生としては、できる限り本文の記述を活かした解答を目指したほうが、時間の短縮にもなり正確な解答が書けるだろう。

 

(三)この問題は各社で大きなブレはない。

傍線部の一つ後の段落にある「すべてのことが予測でき、何に対しても正しい判断ができるように」という部分をはっきりと解答に用いている。

しかし、河合塾と東進であり、代ゼミも「正しい認識」という記述がこの部分とみなせるが、駿台の解答にははっきりとした形でこの部分が書かれていないので、はっきりと書いたほうが良いのではないだろうか。

 

(四)河合塾、東進、代ゼミの3社の解答と駿台の解答がやや異なる。

「生命のありかた」についてを踏まえて述べているが河合塾、東進、代ゼミで、この点について触れていないのが駿台である。

問題の指示に「本文全体の趣旨を踏まえて」とあることから、この要素を含む解答のほうがより良いのではないかと思われる。

また前者3社の解答で、「知性」「決断」「選択」といった傍線部直前にある記述を使用しているのに対し、駿台の解答では「応答」というこれらを言い換えたと思われる単語を使用している。

受験生としては、本文の単語を使用するほうが楽でリスクが少ないが、駿台のような言い換えも良いと思われる。

解答の立ち位置としては、駿台と東進が「はざま」であることを意識した解答になっており、河合塾と代ゼミの解答は「分からない」に寄っているイメージを受けるが、この問題であり、どちらが良くてどちらが悪いということは特にないだろう。

昨年比の難易度では昨年並みとやや難化に分かれた。

第二問

第二問は予備校ごとの差があまりなかったため、違いが見られた問題のみを取り上げたい。

(一)イ 「べき事なり」の訳出に違いがみられた。

河合塾は「限度がなければならないことだ」、駿台は「あるはずのことである」、東進は「あるはずものである」(筆者注;脱字だと思われるが原文ママ)、代ゼミ「~ほうがよいことだ」と少し違いが出ている。

しかしどれも「べし」の当然・適当の意味で訳しているので、どれでも正解である。

 

(二)河合塾の解答のみ、「『ふだん』なら行くはずのない」と、「ふだん」が補われている。妻が猫を探すとしたら、ふだん猫が行きそうなところを探すであろうことからこのように解答に書いたと思われるが、あってもなくても良い記述だと思われる。

受験生諸君は、問題の指示に「言葉を補い現代語訳せよ」とあるので、このような補足の記述が間違っていないという自信がある場合は、加点を狙って書いてみても良いかもしれない。

(三)代ゼミの解答で「~と偽って」で終わっているのが特徴的である。

問題文は、「嵐雪は妻をどうだましたのか」なので、「~と偽ってだました」とつながるように書いているのだが、文字数に余裕があれば他の3社のように「~とだました」「~と言った」のように書くほうが自然ではある。

しかし裏を返せば、東大の古文では文字数が非常にタイトなので、文字数に余裕がないときに、このように解答を止めることで解答欄に解答を収めるテクニックと言えるかもしれない。

第三問

こちらも予備校の間で解答に違いがあるものを中心にみていく。

(一)a 駿台・東進・代ゼミが「これだけではない」で一致しているが、河合塾のみ「人材を育成するだけではない」と説明を加えて訳している。

河合塾の解答も間違っていないが、問題文に特別の指示がないことや解答欄の狭さを考えても、このような説明は必要ないと思われる。

(二)「不敢~」 の訳出に違いがみられる。

河合塾は「進んで~しない」東進と代ゼミは「決して~ない」、駿台は他の3社と異なり、単なる否定である。駿台以外の3社のように訳したほうが、句法を理解していることをアピールできるだろう。

(三)代ゼミのみ「人材育成の役割を失った」ではなく、「(有能な士が)民間から出るようになった」という書き方である。傍線を含む文の内容を考えても、代ゼミ以外の3社の解答のほうが分かりやすいと思われる。

まとめ

以上、2019年度東京大学国語(理系)の比較と解説まとめである。

東大の国語は文章の読解力と簡潔に限られた解答欄にまとめる力が要求され、難易度が高い。

しかし、正しい勉強法で勉強を積み重ね、問題演習を繰り返すことで、必ず東大の入試問題に対応できる力が身につくはずだ。

受験生の皆さんには、この記事も参考に努力を積み重ねていってほしい。

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