大学受験の最高峰と言われている東大では、一般的に数学も難しいと言われている。
しかし、近年東大数学は昔に比べてだんだん難易度が落ちている傾向にある。
特に文系の数学ではその傾向が顕著である。
また、問題によっても難易度にばらつきがある。
受験生はいったい本番でどの問題を落とさずしっかり解答できなければならないのだろうか?
また、駿台、河合、東進、代ゼミの4社が解答速報を出しているが、この解答も予備校によって違うこともある。
よって、この記事では、現役東大生による2019年度の東大数学(文系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめを発表する。
この記事で、2019年度の東大文系数学の全てがわかる。
特に来年、再来年東大を目指すであろう人は是非とも参考にしてほしい。
全体の総評
今年度の東大文系数学は、昨年度よりも、難易度のばらつきがなく、どの問題もそこまで難易度の差はない問題である。
なので、全体の難易度としては、昨年と同じくらいであるといえる。
各大問別の分野や難易度については以下の通りである。
問題 | 分野 | 難易度 |
第一問 | 微分法 | 標準 |
第二問 | 図形と方程式、微分積分、ベクトル | 標準 |
第三問 | 確率 | 標準 |
第四問 | ベクトル、図形と方程式 | 標準 |
絶対に落として欲しくないのは、第一問と第二問である。
これは、与えられた条件を丁寧に整理するだけで、計算ミスさえなければ完答することは難しくない。
第三問の(1)も青チャートやFocus Goldの例題に載っているような反復試行の確率の問題であるから、絶対に落としたくないところだ。
得点に差が生まれたであろうと思われるのは、第四問でどれだけ1点を固定するという考え方があるかどうかである。
十分演習を積んでいないとこの考え方が試験会場でパッと思い浮かばないだろう。
また、第三問の(2)もそれなりに解法を考える必要があるため、他に比べれば多少難易度は高い。
いずれにせよ、十分な演習を積んだ人であれば、合格に必要な点数を確保することはさほど難しくないことである。
しかし、あまり演習を積んでいないと全く解けないということが起きる。
数学をやってきた人とそうでない人の間に大きな差が生まれる問題となった。
第一問(分野:微分法 難易度:標準)
東大の文系数学のレベルを考えると極めて標準的な難易度といえる。
この問題は、まず△OPQと△PQRの面積がともに1/3であるという条件と、P, Q, Rが正方形OABC上の決められた辺の上しか動かないという3つの条件を同値変形していけば簡単に解くことができる。
△OPQの面積から、qがpで表され、△PQRの面積からrがqとpで表される。
これらを用いて、qとrがpによって表された。
また、p, q, rは0から1を移動することが、問題文からわかるが、これはあくまでも必要条件で、qとrがpによって表された式を考えることで、実はもっと狭い範囲をp, q, rは動くということがわかる。
なので、(1)は完全に、
- △OPQ = 1/3
- △PQR = 1/3
- 0 <= p, q, r <= 1
の3条件が同時に成り立つことを丁寧に同値変形していけば簡単に得られる。
また、(2)はCR/OQ = r/qであることはすぐにわかるので、(1)で得られた式と範囲を用いて、これをpで表す。
その後、pの関数として、これを微分すれば最大最小が導出される。
丁寧に条件を整理して、計算ミスさえしなければ解答にいたるまでのプロセスは典型的な問題といえよう。
他の問題に比べて解法を考える必要がないので是非とも取りたい問題の一つだ。
第二問(分野:図形と方程式、微分積分、ベクトル 難易度:標準)
この問題も第一問と同様に極めて標準的な難易度といえる。
これも与えられている条件を丁寧に同値変形していけば、(1)の答えは簡単に導出できよう。
まず、条件1のOAベクトルとOPベクトルの内積の範囲から4 <= p + q <= 17/2であることがわかる。
c = 2√2、d = |p + q – 4|/√2となり先ほど導出したp + qの範囲から|p + q – 4| = p + q – 4である。
よって条件2からcd = 2(p + q -4) >= (p – 1)^2
よって、条件1, 2から領域Dは放物線と2直線によって挟まれた領域になることがわかる。
ここまでくれば領域Dの面積の導出はさほど難しいことではない。
また、(2)のcosθについては、点P(p, q)からcosθをpの関数として表すこともできるが、非常に手間がかかり、文系の学生には微分できない可能性がある。
なので、このような場合は図形的に解くのが妥当である。
線分OPと領域Dが共通範囲を持っていれば良いので、θが一番小さくなるときにPと大きくなる時のPを計算して両端を求めれば、cosθの取りうる範囲も簡単に導出できる。
第一問同様に、この問題もほぼ条件に沿って計算していけば、計算ミスさえなければ問題なく答えまでたどり着くことができる。
是非とも落として欲しくない問題だ。
第三問(分野:確率 難易度:標準)
この第三問は純粋な確率の問題である。
東大の確率は数列とからめて確率漸化式として出題されることが多いが、今回は確率のみの純粋な問題となった。
純粋な確率の問題は数3も含めて数学の分野の中でもっとも難しい分野のうちの一つだ。
考慮すべき場合が欠けるというミスが多く問題の設定なども無限につくれるため受験生の中では苦手な人も多いのではないだろうか?
しかし、この問題に関しては、少なくとも(1)だけは青チャートやFocus Goldにそのまま例題にされているような、反復試行の問題であるためできてほしい問題だ。
(1)は、まず試行が10回では2周以上8角形を回ることはない。
なので、1周する場合と0周の場合にわけていく。
1周するのが、(表, 裏) = (1, 9), (9, 1)で、0周なのが、(表, 裏) = (5, 5)である。
この3つの場合について反復試行の確率を考えれば、答えは導出できる。
(2)は少し難しい。
SかつTを求めるのであるが、8角形を1周する場合はFを必ず通る。
また、「少なくとも1回」Fを通る条件なので、Tの余事象を求めたほうが簡単である。
よって0周、つまり表と裏がちょうど5回ずつ出される中で、Fを通らないものを考えれば良い。
ここまでは割と簡単なのであるが、ここからが少し難しい。
この導出の仕方は様々でのちに解答速報の解説で各解答を詳しく分析していくが、5回目までの移動で一度場合分けをするという東進の解答が一番わかりやすいのではないかと思う。
このように、(2)は多少難しいかもしれないが、(1)に関しては青チャートの例題レベルの問題であるため、少なくとも(1)は取れてほしい問題だ。
第四問(分野:ベクトル、図形と方程式 難易度:標準)
この問題は、位置ベクトルと1点を固定するという考え方があるかどうかで、解けるかどうかが大きく違ってくる。
この問題ももちろん式を変形して解くこともできるが、まず領域Dでは場合分けが4通りあるので、領域Eを式として導出するには、16通りの場合分けが必要で非常に面倒である。
まず、領域Dの導出は絶対値がわかっているかどうかで、簡単に導出できる。
また、ある程度の演習量を積んでいれば、これが頂点が軸上にあり、対角線が2の長さの正方形になることはすぐにわかる。
領域Eについては、この1点を固定するという考え方を使う。
まず、Qと原点対象なQ’を考えてると、ORベクトルはOPとOQ’ベクトルの和になる。
ここで、Q’を固定して考えると、Pは領域Dの中心がQ’に平行移動した領域内を動く。
Dは原点対象ゆえに、Q’も領域D内を動くと考えると、領域Dの中で中心が移動したときの領域Dの通過範囲を考えれば良い。
つまり、これは大きさが2倍の正方形になるのだ。
また、(2)は図形的に考えずとも、A(a, b)として、考えて、OSベクトルとORベクトルが計算によって一致することを確かめれば証明完了である。
なので、この問題は、領域Eを求める作業が一番難しいかもしれない。
たとえ、領域Eが導出できないくても、(2)は簡単に導出することができるので、受験生は諦めずに挑んでしいところだ。
各予備校の解答について
ここまで各大問の解説を行ってきた。
実は、毎年駿台、河合、東進、代ゼミが解答速報を行うのであるが、これらの解答が問題によっては違う場合がある。
異なる解法を分析していくのは、数学の勉強に非常に役立つことである。
よって、ここでは、駿台、河合、東進に加えて今年は代ゼミの予備校4社の解答速報の比較を行う。
4社の解答速報を見比べて、違う視点を勉強したり、一番妥当な解法はどれか考えてみてほしい。
第一問
基本的な解答の指針としては、どの予備校とも変わらないが細かい点が異なる。
まず△PQRの導出が様々である。
基本的に、△PQRの導出は中学生レベルの幾何学なので、いくらでも導出の方法はある。
どれを使ってもらっても大丈夫だ。
また、p, q, rの範囲の導出には、二次不等式をそのまま解くやり方と、グラフを利用したやり方がある。
東進と河合は丁寧にグラフを書いて説明した。
代ゼミは素直に二次不等式を解いて共通範囲を求めている。
駿台は、二次不等式を少し回りくどい方法で解いている。
いずれにせよ、受験生は試験会場で時間もないと思うので、シンプルに代ゼミの解答と同様のやり方で解く方法で良いと思われる。
あとは、CR/OQを求めて、微分して最大最小を求めるだけなので、予備校4社とも解答に目立った違いはない。
第二問
この問題においては、解答の軸や細部にわたる計算までも予備校4社とも同じである。
それほど解答へのプロセスが1つに定まる問題といえよう。
一つ取り上げておきたい点としては、(2)でcosθの範囲を導出する際の記述だ。
予備校4社とも、放物線とy = kxが接するときのkの値を求めて、k = 1, -5 のうち-5の方は、領域D上にいないことを丁寧に示している。
この部分の記述をすっぽかして、ただ単に、θが最大のとき、(-2, 21/2)を通るという宣言をしてしまうと根拠不十分として、原点される可能性がある。
このように図形的な解答というのは、「見ればわかる」部分とそうでない部分の見分けが難しいので、できるだけ丁寧に言葉や式で説明を補っておくと減点のリスクを免れる。
第三問
この問題が一番予備校によって大きく解答が違った部分である。
まず、(1)については、最初に(表, 裏) = (1, 9), (9, 1), (5, 5)の3つの場合を考えなければならない。
この場合分けの過程で、単に3つの場合があるという宣言にとどまっているのが、代ゼミの解答である。
減点されるかどうかはわからないがこの解答では、この3つの場合以外はありえないことが示されていないので、減点のリスクがある。
東進の解答も単に必要十分条件はと言っているだけなので、減点される可能性もある。
河合では、まず10回の試行では2周以上することがありえないということがしっかり述べられている。
そのあと丁寧な説明でこの場合分けまでたどり着いているので、一番模範的な解答である。
駿台も式で導出しており、少し難しいかもしれないが、ここまで厳密に式で表現されていれば減点はまずない。
(2)については、各予備校ごとで大きく違う。
まずTを直接考えるか、Tの余事象を考えるかで解答が大きく分かれる。
「少なくとも1回」という言葉があるので、余事象を真っ先に考えると思う。
しかし、1周するときは必ずFを通るので、0周するときにのみ限定して考えれば良いからどちらで考えても労力は変わらないだろいうと予想はつく。
駿台と代ゼミはTを直接求めている。
駿台は、順当に場合分けをしている。
代ゼミはこの事象を経路図に変換させているが、受験生が試験会場でこの図を思いつきそれを記述する余裕はないように思われる。
次にTの余事象を考えている河合と東進について解説する。
東進は、5回目の試行の時点での点Pの位置で場合分けをしている。
河合は、代ゼミと似て経路を図で表して、その中に最短経路数を記入して求めている。
先ほども述べたが、河合と代ゼミの解答は図が複雑で試験会場でその図を思いついて書き記す余裕が受験生あるのかという疑問はある。
なので、東進と駿台の解答が無難で良いと思われる。
しかし、この代ゼミと河合の経路図も勉強になるので、是非とも理解してほしい。
第四問
この解答も予備校4社ともあまり違いはみられない。
基本的に(1)は4社とも-OQベクトルつまりOQ’ベクトルを固定するという考え方を使っている。
(2)では河合の解答で別解が出ているが、ベクトルの計算を各座標まで落とし込んで計算しているだけど、本質的な違いはない。
まとめ
以上が、現役東大生による2019年度の東大数学(文系)の解答速報の比較とここでしかわからない東大生による解説のまとめである。
今年度は、極めて標準的で難易度のばらつきが問題によって少ない四問のセットとなった。
すぐに解法がわかる第一問、第二問と青チャートレベルの第三問の(1)は落としたくない問題だ。
第四問と第三問の(2)は標準的であるが、上記の問題に比べれば多少難しかったように思われる。
先ほども述べた通り、しっかり演習量を積んだ人には難なくこなせた問題だ。
文系数学は、理系の国語と違い、点差が生まれやすく、数学は様々な学問の基礎になるので、文系であっても十分演習を積んで本番に臨んでほしい。